ライバルと書いてともと読みますわ!
「おぉっしゃぁぁ!!これで十人抜きですわぁ~~!!!」
場所はゲームセンター、あのあと嫌がる私を連れ出したセバスは、そのまま近所のこの場所まで連れてきていた。
外へ出ることに慣れてないあまりに面倒くさいと思っていましたが、毎日こんな風におしばきできるのであれば悪くありませんわね。
心の中でニヤつきながらエナドリを口にしていると、対戦相手が連コインを決めた。
まだ後ろに人が並んでいるのに連コインをするのはご法度だ。特に地域一番の店舗でそれを決めれば、このあたり一帯に居場所がなくなってもおかしくないが……よく見てみると、その背後にいる人たちは全員ベガ立ちしている。どうやら十人ほどを勝ち抜いている間に、周囲に人が集まってきていたらしい。
『おいおい、いったい誰だよあのお嬢様……』
『お前知らないのかよ、必勝院家の人だよ』
『胴着キャラとはいえあそこまで広く立ち回るのか……』
市政の方々がボソボソと、こちらの邪魔にならない程度の声で喋っているのが聞こえますわ。そのほとんどが、彼らのホームに急に現れたわたくしへの驚きや賛辞のようですわね、大変気分がよろしくてよ!
そんな気分のまま連コインした人を更に倒し続けていると、その後ろの人混みが割れるように開いていく。まるで有名な太古のゲーマーモーセの海割りようですわね。
彼の逸話として、当時超有名ゲーマーであったモーセが、エジプトからお付きの人数百人を連れて海の向こうの都市へ遠征に出かけようとしていたといいますわ。海まで到着したモーセが「ちょっと通りますよ」と手を掲げると、海が彼の雄姿を見届けようと自ずと割れたという伝説ですわ。
しかしそこから登場した女子学生の存在感は、わたくしにとってモーセに勝るとも劣らないように感じらますわね。
お互いに視線が合う。最初の印象は、私とは真逆といった印象だ。
外見だけで言えば黒髪黒メガネの一般学生といったところでしょうか、しかしわたくしは騙されませんわ。
何人にも囲まれてその視線を受けているというのに、まるでそれが普通と言わんばかりの落ち着きと、ゲームの邪魔にならないように後ろにくくられた髪、鞄にはコアなゲームキャラクターのストラップ。
なにより勝利を重ねて昂ったわたくしの『お嬢様力』を前に、一切怯まずこちらを見返すその胆力。
大いに気に入りましたわ。わたくしが名乗る——家名を背負って戦う——に値するお相手ですわね。
「わたくしは必勝院 麗女。貴方、お名前を聞いてもよろしくて?」
『な、名乗ったぞ……!?』
『「ゲーミングお嬢様」が名乗ったってことは……!』
『ああ、手袋投げと同じ……決闘の申し込みだな』
ザワザワとどよめく観衆を一切気にせず、まるでそこが自分の王座とでも言わんばかりに対面へ腰を下ろす。
「私は風通 天音。アマネでいい」
そんな短い一言と共に、コインを投下した。