未来回想って休日出勤的なアレですの?
ドーム中を埋める観客たち、その大歓声の中をゆっくりと進んでいく。
数年に一度開かれる、日本中のゲーマー達の祭典、『全日本ゲーマー最強決定戦』。その決勝戦出場をかけた準決勝戦に、わたくしはコマを進めていますわ。
『さぁて!次の試合は!
纏う雰囲気は暗く、しかし勝利にあまりにも貪欲!「ゲーミング令嬢」 必勝院 麗女!
VS!
期待の新生、事前評価を覆せるか!相対するは「ホビー少女」だァ! 祭田 佐奈!』
幾筋かのサーチライトに照らされる中、対面の少女の顔を見る余裕もなく、荒々しく格ゲーの台へ座り込む。
この大会は、絶対に優勝しなくてはならない。何があっても。
そんな暗い感情とともに、バトル開始の合図が告げられた。
「……そ、そんな、なんで……そんな訳ありませんわ……!」
準決勝はBO3、二本先取のルールだ。格ゲーの一戦が元々二本先取であるため、先に四本、もしくは五本の勝利が必要になる。
……だというのに、わたくしは押されてしまっていた。
既に一本先取され、挙句二本目も取られかけている。これからは一切の負けが許されない状況だと言えた。
受け入れがたい現実に精神が悲鳴を上げる。
年齢を考えると明らかに実力の差がある相手に負けている理由、それは自身の余裕のなさ以上に、キャラ相性があった。
わたくしの使うキャラは火力特化のゴリ押しタイプ。しかし、お相手の使うキャラは最悪の相性の遠距離型。対戦レートは2―8をマークする、これ以上なく最悪の相手だと言えた。挙句、キャラ対までしっかりしている。自分のキャラの始動技を必ず拒否し、接近されないように適切な立ち回りを組まれていた。
「誰の入れ知恵かしら……随分と厄介な手を使うものですわね……!」
苛立ちを抑える余裕すらない中、ついに自キャラのHPが二割を切った。
そんな馬鹿な、こんなところで。
余命僅かなお父様に勝利を誓ったのに……!!
そんな乱れを許してくれる相手ではなかった。一瞬の間に、相手の技に足を取られ、コンボに移行される……。
K・O!
遂に、無慈悲な決着が下された。
敗北した。頭から血が引き、全身の熱が逃げていく。決勝の舞台にすら上がれないわたくしに、いったい何の価値があるのだろうか。そんな思考に支配され、膝から崩れ落ちるように倒れこんだ。
意識を失う直前に見たのは、入場ゲートから駆け寄ってくる親友の姿だった……。
今回だけ雰囲気暗いですが、以降は明るく行く予定です。
ゲーミング令嬢:主人公、必勝院 麗女の役職名のようなもの。
ホビー少女:ホビーアニメなどに登場するキャラクターといった意味合い。そのジャンルにおいてはメインヒロインであり、チームメンバーと高めあうことで必勝院に対抗することができた。
BO3:Best of 3=三番勝負の意味。最大三回勝負というだけで、二本先取が決まった時点で勝者が決まる。格ゲーにおけるスタンダードなルール
対戦レートは2―8:要は勝率が二割しかない絶望的なマッチということ。一般的には起こり得ない……こともない。極めて厳しいが、頑張りを通し続ければワンチャンが生まれる程度。