表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

目覚まし時計

作者: モギイ


 私は世界一の美女。駿馬に跨り草原を駆ける。瞳には星が輝き絹の髪が風になびく。私と並んで走るのは白馬に乗った王子様。


 天気がいいから遠乗りに誘ったの。世界一の美女だから男の人だって誘いやすい。


 私は王子に声をかけた。


 「根岸さん、お話があります。ちょっと休みませんか?」


 私たちは川岸で馬を下りた。今日こそ私の気持ちを伝えてみせる。世界一の美女だから告白だって簡単なの。私は彼と向かい合った。


 「根岸さん、私、あなたの事が……」


 「ギャンギャンギャンギャンギャン!」


 目覚まし時計がけたたましい音を立て、私は飛び起きた。


 いいところだったのに……。時計を睨みつける。


 入社祝いに祖母がくれた超強力目覚まし時計。前に住んでた壁の薄いアパートでは住人から苦情が来たほどだ。お陰で一度も遅刻なし。


 世界一の美女じゃなくなった私はしっかりと化粧をして家を出た。




 会社のエレベーターで根岸さんと乗り合わせた。


 「課長、おはようございます。遅刻ぎりぎりですよ」


 根岸さんとは軽口を叩き合う仲だ。気さくな彼は誰とでもそういう関係だから、喜ぶほどの事でもない。


 「昨日借りた本、あんまり面白いんで夜更かししちゃったよ。山本さんこそ寝坊したの?」


 「いえ、すごい目覚まし時計があるんで寝坊したことはないんです。今朝は銀行に寄ったんですよ」


 ああ、根岸さん、素敵だなあ。目覚まし時計がうらめしい。




 極悪竜は私を掴み空へと舞い上がる。世界一の美女と知ってさらいに来たのだ。


 「待てえ!」


 白馬に跨った根岸さんが後を追う。彼は弓に矢をつがえ竜に狙いを定めた。


 「課長! 私に当たります!」


 「大丈夫。僕を信じて」


 彼の放った矢は竜の心臓を貫いた。


 鉤爪がゆるみ私は落下する。根岸さんは両腕を広げ、軽々と私を受け止めた。


 「山本さん、怪我はない?」


 ああ、今度こそ言わなくっちゃ。


 「お話があります」


 「うん」


 「私、前から根岸さんのことが……」


 目覚まし時計が鳴った。




 翌日、帰りのエレベーターで根岸さんと一緒になった。総務の女の子達に囲まれている。金曜日恒例の飲み会に行くらしい。


 彼は私のそばに来て耳元でそっとささやいた。


 「ねえ、山本さん。あすの朝、予定あるの?」


 ドキッとして彼の顔を見上げる。


 「ど、どうしてですか?」


 「土曜の朝なら寝坊してもいいんだろう?」


 「はあ?」


 「それなら今夜は目覚まし時計を止めてから寝てくれるかな?」


 根岸さんは私に目配せすると、開いたドアから女の子達に流されるように出て行った。



 -おわり-

2011年に企画参加用に書いた作品です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ