06.変質者
3時間ほどカラオケで過ごし、
まだ17時だったけど、危ないからと先輩たちが家まで送ってくれた。
また学校で、と言い別れたはずが
次の日からは、先輩たちに会うことはなかった。
ただ、先輩たちが体育でバスケをしていてかっこよかった、教室のドアを開けてくれた、等の情報だけは入ってくる。
そして、1週間も経てばクラスでもそれぞれグループみたいなのが出来上がった。
私は基本美香と一緒にいるが、クラスの女子たちとも普通に喋る。それは美香も同じ。中学の時みたいなことにはしない。男子たちは話しかけて来た時は喋るけど、必要最低限ってくらいにしてる。
今日も授業が終わり、美香に声をかける。
「やっと終わったね。帰ろっ」
「そうだね」
バッグを持ち教室を出る。
「やっぱり先輩たちとは会わないね」
「うん……まあ1年と3年で、教室も遠いしね」
「だよね……」
なんとなく先輩たちの話題になる。
別に会いたいわけじゃないけど……
なんか、モヤモヤする……
「亜希?どした?」
「……ううん。なんでもない。
あ!今日お姉ちゃん彼氏のところに泊まるらしくて1人なんだけど、家くる?」
「行く行く!じゃあコンビニでデザート買って帰ろうよ」
「いいね〜」
今更だけど、私の両親は研究職でほぼ家にいない。
ご飯とか洗濯とかはいつもお姉ちゃんがしてくれていた。お姉ちゃんは中学生のときから付き合ってる彼氏がいるけど、私のために時間を使ってくれていたから、私が中学3年生になった頃には、たまには彼氏のところに行っていいんだよって言った。私のことが心配だからと渋っていたけど、何とか説得し今では週末は彼氏の家に泊まりに行っている。
だからここ1年くらいは、美香が土日に泊まりに来てくれるようになった。
今日も美香が泊まりに来てくれたので、昨日作ったカレーを2人で食べる。
「あ、これお母さんから。デザートにケーキ持ってきたよ」
「わ!凄い!ありがとう!」
「さっきコンビニで買ったプリンもあるしね」
「だね!夜更かししていっぱい食べよう」
カレーを食べながら学校の話をして盛り上がる。お風呂に入って、ケーキとプリンを食べた。
深夜1時になり、
「やばい、炭酸飲みたくなってきた」
「わかる。甘いもの続いたもんね。でももう時間も遅いしどうしよっか」
「ん〜、まあ2人だし大丈夫じゃない?サッと行ってこようよ」
「そうだね。じゃあ早く行こっか」
私たちは部屋着のスウェットのまま歩いて5分のコンビニへ向かった。
「暗いと思ったけど、街灯が多いし思ったより明るいね」
「だねぇ。あ、ついたよ。
……あ、」
サクッと買って帰ろうとしていたがコンビニの前にヤンキーっぽい見た目の人たちが数人いる。
「なんか入りにくいね……」
「うん……
向こうのコンビニにする?すぐだし……」
「ん、そうしよ……」
ここから少し歩いたところにもう1ヶ所コンビニがあるのでそっちに行くことにした。
「なんかこっち側って街灯少ないね……」
「うん、暗いし早歩きで行こうっ」
「そうしよっ」
なんとなく、2人ピタッとくっつきながら歩いた。
ペタペタ……
「………」
ガサッ
「………ね」
「……うん?」
「……なんか後ろからずっと足音聞こえない?」
美香の言葉にハッとする。
ペタ……
「……ほんとだ。」
「ね、もうコンビニ見えたし走ろうよ」
「うん」
2人でせーのっで走り出した。
気づいた瞬間すごく怖くなって
コンビニまでのダッシュは新記録が出たと思う。
ハァハァッ
~~♪~
息切れしながらもコンビニに入る。
入店時の音楽と店の明るさで少し恐怖心が安らいだ。
「……ね、……っついてきてるっ?」
「っいや、わかんないっ。走るのに精一杯で……」
ドキドキしながら振り返ろうとすると、肩をトントンされた。
「ねぇ」
ビクッとなり勢いよく振り返る。
「っあ……」
そこにいたのは変質者なんかじゃなく、同じ学校の
「亜輝……せんぱい……」
「翔先輩も……」
2人の姿を見て私と美香は安堵した。
「どうした?」
「え?なになに?2人とも?」
私たちは変質者がいたかもしれないということを話した。
「……なるほどね。俺らはコンビニに向かって走る2人を見つけて追いかけてきたけど、変なやつは見なかったよ。なあ、亜輝?」
「あぁ」
「とりあえず、帰りは送るよ。何買いに来たの?」
「あ、飲み物を……すぐ買ってくるので待っててください!」
私たちは飲みたかった炭酸を買い、すぐに戻った。
その間、先輩たちは何か話ししていたようだけど、私は気づかなかった。
*******
飲みたかった炭酸ジュースと、家まで送ってくれる先輩用に飲み物を買った。
「亜輝先輩、これ飲み物買ったんでどうぞ」
「……ありがとう」
無表情で受け取る先輩。
翔先輩には美香が飲み物を渡している。
翔先輩はいつも通りにこやかだ。
亜輝先輩、もしかして怒ってる……?
確かに、こんな夜中に送るって……めんどくさいよね。
「あの、先輩。今日も送ってもらうことになっちゃって……すみませんでした……」
申し訳なくなって謝る。
すると亜輝先輩は、
「……亜希ちゃん」
「え?」
なんか、いつもより声が低い
やっぱり怒って……
「亜希ちゃん」
「は、はい」
「夜10時をすぎたら、家を出ない方がいいよ」
「え?」
「よく張り出されてるでしょ?最近は変質者が多いから気をつけてって。もし何かあったらどうする?暗い場所に引き込まれたら?相手が刃物を持っていたら?」
「……」
「女の子2人でなんて危険すぎる」
「次からは気をつけます。反省してます……」
街灯もあるから大丈夫なんて思っていたけど、かなり危ないことしてたんだ……先輩を怒らせちゃったし、どうしよう……
「……はぁ、もしどうしても夜中に外へ行く時は俺を呼んで」
「……え?」
「わかった?」
「……あ、は、はい」
先輩、真剣な顔……
心配してくれてたんだ……
『俺を呼んで』なんて、優しすぎる……
「……き?……あき?」
「え?」
もんもんと考えている間に、いつの間にか家に着いていた。
「亜希、大丈夫?ついたよ?」
と美香の声で気づいた。
「先輩。本当にありがとうございました!」
私たちはお辞儀をしながらお礼を言う。
2人は、じゃあまたと言って来た道を帰って行った。
家の中に入り、美香と見つめ合う……
「帰り……先輩たちが送ってくれて良かったね」
「うん。向こう側のコンビニの周りって思ったよりも暗いし、夜は行かない方がいいね」
「あ、そういえばさっき、夜中にどこか行くなら俺を呼んでって亜輝先輩が……」
「え、うそ……。私も同じこと翔先輩に言われた」
まさかの翔先輩も!?
あの2人どれだけ優しいの!?
「先輩たち、優しすぎない?」
「たしかに」
「顔もあれだけかっこよくてさ、性格も優しいとか、完璧じゃん」
「モテるはずだね」
「だねぇ」
はははっと笑いながら先輩たちの話をする私たち。
私は亜輝先輩、美香は翔先輩の話ばっかりになっていた。