03.過去
私たちには思い出したくない過去がある。
それは2年前、中学2年生の時だった。
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『えー、もうみんなおもしろい〜!』
『いやいや、亜希でしょそれは〜』
クラスのみんなが仲良くて、いつも笑って過ごしていた。
でも夏休みが終わり2学期になると、私たちの周りには男子ばっかりになっていた。
『ねえねえ、水瀬さんはどんな男性がタイプ?』
『松本さんは?クールな感じが好き?』
『俺は2人ともめちゃタイプです』
どんどん話の内容も好きな異性の話題になっていった。
こんな日々が続き、1ヶ月が経つ頃には女子は私たちの周りからは完全に離れていったが、私はそれに気づかなかった。
ある朝、教室に入りすぐ近くにいたクラスメイトの女子に
『おはよう〜』
と挨拶をしたが、一瞬目を合わせたあと、気づかなかったように別のクラスメイトに話しかけに行ってしまった。
あれ、聞こえなかったのかな?
と最初は思っていたが、1週間も過ぎれば無視されていることに気がついた。
そして、学校の帰り道に
『ねえ、美香?』
『ん?』
『さ、最近ね、私みんなに無視されてるような気がする……』
少し声が小さくなりつつも美香に相談した。すると美香も、
『大丈夫。私も無視されてるから』
と、あっけらかんとした態度で言った。
『え……え!?美香も!?』
『うん』
『な、なんでだろう?私たち、何かしちゃったのかな……』
『何もしてないよ。ただ、男子たちが私たちにばっかり話しかけるから、それが気に食わないんだと思う』
『そ、それなら、もう男子たちとは喋らないようにしようよ!そしたらまたみんなで……』
『次は男子たちになにかされるかもよ?無視じゃなくて手を出されたりしたら怖いし』
『そう、だよね……』
無視でも辛いのに、テレビとかでよく見るいじめとかされたら、もっと辛い……。
『だから男子たちとは必要最低限の会話しかしない。それに、私には亜希がいるしね!』
笑顔でウインクしてくる美香。
『私にだって美香がいる……!』
へへっと笑い、無視されていることなんか忘れて気分よく家まで帰った。
次の日からは、男子たちとは話しかけられたら返す程度で関わり、基本的にずっと美香といた。
女子からの無視は続いていたけど、特に気にせずに過ごした。
*******
12月になってクリスマスも近づいてきた頃、隣のクラスの山本くんに声をかけられた。
『水瀬さん、ちょっと話があるんだけどいい?』
『うん、いいよ。なに?』
『教室じゃ言いにくいから、こっちに来てほしい』
美香はトイレに行っていたため、美香が戻るまでに帰ればいいだろうと思い、山本くんについて行った。
クラスの女子が見ていたことなんて気にも止めていなかった。
空き教室に案内され、入る。
『あの、水瀬さん。亜希ちゃんって呼んでもいい?』
『いいよ?』
『よしっ。あ、あと、俺のことは翼って呼んでほしい』
『翼くん?』
名前で呼んでと言うから名前で呼んだら、急に両手で顔を隠して空を見上げた。
しばらく沈黙が続き、
『……?
もう美香が戻ってきそうだし帰るね?』
『あ、まって。亜希ちゃん。
あの、俺と付き合ってくれませんか?』
え?今日初めて喋ったのに……?
頭をペコっと下げながら言う。
『え、ご、ごめんなさい!』
『……そっか。ダメか』
『私、まだ男の子を好きになったことなくて、やっぱり最初は自分が好きになった人がいいなって思ってるの……』
俯いたままの翼くんに、私は正直に答えた。
『わかった……でもこれからは廊下であった時とか普通に話しかけてもいい?』
『うん!もちろん!』
笑顔で頷く。
『ありがとう。じゃあ……また』
翼くんは私に嫌な顔ひとつせず、
自分の教室に帰って行った。
今までは、楽しく喋ってる中で付き合おうよー!ってノリで言われたことならあるけど、あんなにちゃんとした告白、初めてだったなあ。
早足で教室まで戻ると美香がいた。
『あっ、美香!』
『ちょっと。心配したよ!どこにもいないから』
『ごめん〜。ちょっと色々あって……』
お昼ご飯を食べながら小さい声で翼くんとの出来事を美香に話した。
『えっ。そうだったんだ』
『うん……』
『実は、私もね……』
『えぇ!』
食べかけのサンドイッチを落としそうになるくらいびっくりした。
『み、美香も告白されたんだ』
『うん。まあ断ったけどね』
とおにぎりを食べながら言う。
トイレに行った帰りに、斎藤一也くんっていう子に告白されたらしい。私は知らないけど翼くんと同じクラスなんだって。
2人ともかっこいいって言われてるみたいだけど、私は全然知らなかった。
[キーンコーンカーンコーン♪]
お昼休みが終わって
授業開始のチャイムがなる。
『準備しなくちゃっ』
『だね』
いそげいそげっとジュースを飲みほし、教科書を出す。
その姿をじっと見ていた女子がいた事には気づかなかった。
6限目が終了し、いつも通り美香と帰ろうとしていると、
『亜希、美香、ちょっといい?』
クラスの女子3人に声をかけられた。
2年になった頃はよく喋っていた子達だ。
『う、うん。どうしたの?』
返事をすると、こっちに来てと言われ、ついて行く。
お昼休みにも来た空き教室だった。
ガチャッ
『ちょっと、鍵までかけて一体何なの?!』
美香が珍しく大きな声で言う。
『あんたたちってほんとうざい。
クラスの男子だけじゃ物足りなくて隣のクラスの男子にまで手を出すなんて』
両手で腕を組み睨んでくる。
え?え?手を出すって?
『な、なにもしてないよ?』
というが
『うるさいっ!今日2人が告白されてたところをこの2人が見たって言うんだよ!』
ガン!っと近くにあったイスで壁を叩きながら言う。
『きゃっ!』
怖くてしゃがみこんでしまった。
『ちょっと!告白されただけよ!なのになんであなたに文句言われなきゃならないの!?』
と美香が反論するが
『一也と翼は私が好きな相手よ!2人とも私が告白しても好きな人がいるからって断ってきて……なのに、その相手があんたらだったなんて……!』
『え?2人を同時に好きなの?』
つい不思議に思ったことが口から出てしまった。
ガンッ!また壁を叩きつける。
『私はあんたらが居なきゃ、この学校で1番可愛かったはずなのに……。
せっかく最初は友達になろうと声かけてあげてたのに、あんたらは男子とばっかり喋って……』
『ま、待ってよ!、私たちはその告白断ってるよ!』
『知ってるよ!なに?私が振られた相手を逆に振ってやりましたって自慢!?』
『ちがっ……』
少し前に出た美香にイスを叩きつけた。
バキッ!
『キャァァ!』
驚いて大きな声が出る。
すると
『うるさいなっ!』
ガン!ゴンッ!
私は蹴り飛ばされ、左腕を何度も殴られた。
痛くて目を閉じていたが、
美香の悲鳴も聞こえる。
痛いよ……。怖い……。
ギュッと目を閉じて時間が過ぎるのを待っていると
ガチャ
『おいっ!だれだ?鍵なんかかけて……』
と先生の声が聞こえた。
合鍵で直ぐに開けてくれた先生を見て安堵した。
私と美香に対して暴力を奮っている所を目の当たりにし、ほかの先生も何人か呼び出し、3人を力づくで連れていった。
私と美香は目を合わせて、大丈夫?どこが痛い?と言い合った。
保健の先生が来てくれて、すぐに手当してくれたけど
私は左肩、左腕が酷い打撲。
美香は両腕に打撲が出来ていた。
保健の先生や担任からは、何があったのかと何度も聞かれたが、私たちはケンカしました、とだけ伝えた。
私たちは、腕が痛いことと、クラスメイトに会うのが怖くてしばらく学校を休んだ。
先生から、腕が治ったらでいいから学校においで。と言われていたので、
2週間ぶりに美香と学校へ向かった。
『美香、腕はもう大丈夫?』
『うん。亜希は?』
『私も大丈夫。それより怖くて……』
『だよね。私も……』
俯きながらも、2人で手を繋ぎながら登校した。
校門の前で翼くんと一也くんが待っていて、私たちを見つけて走ってくる。
『亜希ちゃん!ごめん!』
『松本さん、ごめん!』
と2人同時に頭を下げて謝ってきた。
『大丈夫。2人のせいじゃないよ?』
『うん、気にしないで』
と、私は翼くんに
美香は一也くんに向けて言った。
『いや、話を聞いたんだ。そしたら自分への告白を断って亜希ちゃんに告白したのがムカついたって言われて……』
『俺も、同じように言われた』
『だから、ごめん!』
とめちゃくちゃ謝られた。
2人のせいじゃないのに…
なんでこんなことになったんだろ…
すごく悲しい気持ちになった。
2人とは別れ、どきどきしながら教室へ向かうと、あの3人の姿はなかった。クラスメイトの皆は、大丈夫かと声をかけに集まってきた。そこにはずっと無視をしてきた女子たちもいた。
『亜希ちゃん。美香ちゃん。あの時は無視したりしてごめんね!』
『私もごめんね!』
『私も』
と次々謝ってくれた。
『もういいよ』
と返事をすると、次は男子たちから
『あの3人はあれからずっと学校に来てないよ』
と教えられた。
それからは無視されることもなく、平穏な日々が過ぎ、気づけば卒業式が終わってきた。
あの3人は3年生になっても登校してこず、1度も会うことはなかった。
それ以来、特に男子とは深く関わろうとせず過ごしてきた。
だから高校でも同じような目に会いたくないから、気をつけようと美香は言う。
もちろん、私もそのつもり。
私たちの高校生活が平穏でありますように……。