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第30話 原告尋問分析

 神野は公判後ゆっくり法廷を出た。先に村井氏と仙人が待っていた。村井氏から今日は山本さんと話をして帰るから仙人と一緒に帰ってとの要請があった。そこに山本弁護人が退廷してきた。

 山本弁護人は村井氏に少し待つように告げてから、神野をすぐ近くの客室に誘った。


「公判とはこんな感じですが、どうでした?」

「ま、割とリラックスできました。それにしても、偽証だらけでした」


「みたいですね。偽証内容をまとめてみてくれますか? で、明日か明後日、それを持参して事務所に来てくれますか?」

「分かりました。今日中にはまとめてパソコンに入力しておきます。明日にでもプリントしたのを持って行きます」


「来月、目撃者の尋問がありますが、その前に今日の内容を整理しておきましょう。私は明日なら午後から、16時ぐらいから時間は取れますが、午前が良いなら明後日になります。どちらが良いですか?」

「じゃあ、明後日の午前でお願いします」


「分かりました。私はこれから村井さんと帰りますが、神野さんは仙人さん…もとい、仙人と帰りますか?」

「ええ、そのつもりです」



 30分後、神野は駅近くのお気に入りのイタリアンレストランに仙人を誘った。


「仙人、今日はご苦労さま。早速だけど、アレ、録れた?」

「ああ、今ちょっと聴いてみようか?」


「ああ、是非」


 仙人はスポーツシャツの胸ポケットから何やら取り出した。小型録音器である。実は前日、神野が頼んでおいたものだ。自分が聴き洩らしたときに備えての神野の策であった。

 仙人に神野の依頼通り、山本弁護人にも村井氏にも分からぬようこっそり録音して貰ったのである。”敵を欺くためには、まず味方を欺け”であるが、その前に法廷での録音、録画は確か違法である。弁護人には話せない。

 裁判での記録は裁判書記官が録っている。この録音の内容を自分の法廷での記憶として弁護人に伝えられればよい。

 大相撲でもプロ野球でもビデオ判定が今では常識だ。だが目撃証言は、法廷では簡単に偽証できそれが証拠になる。神野には納得できない。録音、録画無しに、その証言が正しいと何故言えるのか?


 早速、再生してみる。十分聴きとれる音量で録音されていた。音声の確認が取れたところで、再生を止め大事にポケットに仕舞い込んだ。


「じゃあ仙人、暫く借りておくわ」

「ああ、ちょっと古いタイプやけど、使えて良かった」


「今日、明日で分析して偽証している箇所は全てパソコンに記録するわ。明後日10時、それを持って弁護人の先生の所へ行ってくる」

「うん。いやあ、初めて裁判傍聴したけど、山本弁護人なかなか頼りになるな」


「依頼主を何が何でも無罪にする弁護士じゃなく、きちんと事実を追及する正義の弁護士だからね」

「そうやな。明後日か、結果を連絡してくれる?」


「うん、勿論」


 その後、2人で雑談しながらゆっくり食事を楽しんだ。



 神野は帰宅してすぐ再生してみる。法廷で自分のメモった”偽証メモ”を見ながら静かに聴き耳をたてる。

 わずかにメモへの追加、修正があったが、ほぼメモった通りだ。そのまますぐパソコンに向かう。採番しながら、原告の偽証内容、神野の真実を横書きにまとめる。全部で10か所ほどもあった。

 偽証の文言はそのままだと、山本弁護人に違法録音がバレそうなので少し簡潔にモディファイする(笑い)。ま、良いでしょ!


 2日後、すっかり馴染んだ山本法律事務所の一室。いつもと違う雰囲気。それは、吉高由里子似の美人秘書が同席している所為である。入室してすぐ山本弁護人からその話があり、当然望むところである。花があった方が良いに決まっている。


「本人の勉強にもなるので中本も同席させます。中本、何か気づく事があれば、遠慮なく発言してくれ」

「はい」

「頼もしいですね。先生以上に頼りにしてますから」


 中本秘書、今までのクールビューティー的な雰囲気とは少し違って、快活に笑う。きっと本来は、明るいお転婆な性格なんだろう。山本弁護人もなにやら、ニヤニヤ。


「これが原告の偽証一覧表です」

「10か所ほどあるね。一緒に見よう」

「コピーしてきましょうか?」


「いや、一つで良い」

「相合傘みたいなものですね」

「ハハハ…」


 そんな訳で和やかに始まり、和やかに終わった。

 山本弁護人も予想していた通りのようで特に議論するには至らない。


「注目点は一昨日の法廷でもジャブ程度に尋問しましたが、前屈場所です。原告と被告人の言い分とが全然違っているので、大きな焦点になりますね。それから、原告が証言してる最初の前屈位置ですね、腹筋台横の」

「あの偽証の理由が解りませんわ」

「ええっと、以前現場検証した時の腹筋台の横の位置の事ですね?」


「そう。憶えてるね?」

「ええ。実際にはしてないんですよね。それを原告は『させられた』と言ってるんですね?」

「そうです。非常にバレやすい偽証です。理解に苦しむわ」


「恐らく、検察官は悩むと思います。どう辻褄合わせるか?」

「来月の目撃者証言にも絡んできそうですね?」


「そうですね。ところで神野さん、原告と目撃者はかなり親しいんですか?」

「そう親しいようには見えないですね」


「性格とかはどうですか?」

「年齢はともに26歳。でも、中身はまるで違ってて、原告はふっくらした体型で、少し幼く田舎娘に見えますね。一方目撃者は小柄で小学生のような体形ながら、都会的で見かけと違い大人っぽい」


「ま、目撃者は頭は切れそうなので、検察官と連携して上手に証言するでしょう。ただ、原告の証言と矛盾しないようにするか、それとも?」

「それとも?」


「『矛盾しても原告に有利な証言を考えるか?』ですね?」

「その通り。来月が楽しみだ。ね、神野さん」

「ええ」



 神野は気分良く、山本法律事務所を後にした。


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