第21話 仙人への報告と依頼
その夜、神野は仙人に電話を入れた。
山本弁護人とのやり取りを聞いた仙人はかなり興味を持ったようで、3人で会う前に事前にもっと詳しく聴きたいようでいつもの喫茶店で会う事になった。
いつもの喫茶店で、いつもの時刻。一通り神野の話を集中して聴いていた仙人は聴き終わると静かに感想を述べる。
「その山本弁護士、なかなか立派な人みたいだな。村井さん、良い弁護士を紹介してくれたんだな」
「そうなんよ。初め、有能な悪徳弁護士の予定だったみたいだけど、村井さんと親しい良い弁護士を紹介して貰えた」
「その悪徳弁護士って、悪徳弁護士なん?」
「変な質問。まあ、何と言うか。『ろくでなし』みたいなんじゃないかな?」
「ろくでなし?」
「そう、ろくでなし。『悪い奴をやっつける悪い奴』」
「………」
「昔、日活映画で赤木圭一郎主演で『ろくでなし稼業』とか言う作品があったけど、それは『悪い奴をやっつける悪い奴の仕事』の事らしい。」
「悪い検事をやっつける悪い弁護士?」
「それに、偽証する原告や目撃者も。彼らをやっつける為に手段を選ばない弁護士」
「そのろくでなし弁護士をやめて良い弁護士にした何か理由があるん?」
「弁護料の事もあるし、何より事実をきちんとあぶり出して欲しい。その上で判決が行われないとね」
「なるほど、ヒロさんらしい」
「元々、山本弁護士と村井さんから出された案なんよ。で、文句なしにオレも同意」
「よく分かった。次にこれ。ヒロさんが真の犯罪者だと推測していた本命は本店長でもおばさんでもなかったって⁉」
「そうなんだよね。いやあ、これが参った。全くの見当違いだった。今のKスポーツクラブでは一番親しい子だと思ってたのに、正に『獅子身中の虫』だ。『アザミの効用』とも言えるけど」
「『獅子身中の虫』は分かるが、『アザミノコウヨウ』って?」
「身近な場所に姑息な敵が潜んでいる。その敵が闇に紛れて不意打ちを狙って攻めて来ようとしていて、庭に咲いていたアザミのトゲに刺されて思わず悲鳴を上げてしまった。その為相手に気づかれて攻撃の機会を失ってしまった。そこから、『思わぬ敵が身近に潜んでいるから油断をしないように』という格言さ。野々宮奈穂が身をもって教えてくれた」
神野は改めて、2年前の野々宮奈穂との一件を話した。
仙人、思わず苦笑い。
「そんな事があったん? ヒロさんらしいエピソードだなあ。いやあ、面白い」
「ほんの、軽~い冗談だよ。『背中ばかり見せてないで、こっち向いて!』って言うよりマシだろう?」
「マシ」とは言えんだろ⁉ 当時の朱里エイコと胸と脚が正反対だったら、胸が無くてその上、脚が太くて短いと言う事になるんじゃないの⁉」
「そうなるか⁉ でもジョークだよ」
「冗談でもジョークでもダメなものはダメ!」
「じゃあ切腹して詫びるか」
「介錯するよ」
「なんで、こうなるん」
「知らんがな」
神野、苦笑い。
「本店長は以外とまともだったって?」
「うん、山本弁護人の話だとそのようだわさ」
「聞こう」
「見解はオレとはかなりの相違があるけどね。まあ弁護人から見れば、その事は裁判とは直接関係はないのでスルーだけど。さっき話したように、応対した限りでは悪い印象はなかったそうだ。ただ、部下の女性から相談があったので本人の希望を聴いた上で警察署に連れて行ったとの事だった」
「おばさんも関係なかったか!」
「全く関係なかった」
「でも何だかんだ言いながら、だいぶ進んできたようだ。とは言え、問題はこれからだな」
「そうなのよ。これもさっき話したように、明日からは山本弁護人がKスポーツクラブに出向いて彼ら3人に面会を求めるが、どういう順番で行くんだろうか? で、控訴取り消しなんてまず無いと思うので、現場検証をする事になると思う。あの無気力な警察官が立ち会う事になろうがなるまいが、仙人にはぜひ立ち会ってもらって現場の見取り図作成に協力して欲しい」
「それは昨夜話した通り、お安い御用。いつ頃になりそうかな?」
「裁判までにはまだかなりある。それに山本弁護人、他にも幾つか抱えてるだろうからゆっくり待つわ」