表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

届かないおめでとうを

 二人で食べるはずだった、大きなケーキをローテーブルに置いた。クッションを手繰り寄せ、胡坐をかいて座る。氷の入ったタンブラーの中に安い焼酎を三分の一ほど注ぎ、残りを炭酸水で満たした。

 溜息を吐く。薄暗くなった、窓の外を見る。細かい雪が、横殴りに吹き付けて暴れていた。


 焼酎のソーダ割を飲む。そして、フォークを手に取り、ケーキを突き刺した。

 甘ったるい生クリームを口に運びながら、「どうして」と幾度となく繰り返した言葉を胸の内だけで呟いた。

 スマホに手を伸ばし、トークアプリを立ち上げる。上から三番目に存在する、トークルームをタップした。どうでもいいような会話の最後に、突如として現れる「さようなら」を指でなぞった。

 舌に残る、しつこい甘みに顔を顰めながら、焼酎を飲む。


 

 □□□□



 彼女と付き合って、そろそろ三年が過ぎようとしていた。だから、その記念日と近い彼女の誕生日に、ちょっとしたパーティーをしようと僕たちは話していた。

 ケーキを用意して、いつもよりも悩み、そしてお金を掛けたプレゼントを用意して、僕はその日を待った。楽しみだった。彼女が喜ぶ顔を思い浮かべて、何度も口角を持ち上げた。

 派手じゃないかもしれない。だけど、幸せなパーティーになる予定だった。

 なのに、パーティーの前日に送られた「さようなら」の一言で、それらは全て瓦解してしまった。

 慌てて連絡を入れた。トークアプリのメッセージに反応はなかった。電話をかけても、同じく反応はなかった。彼女のアパートに行っても、そこは既に何の痕跡もなく、無人となっていた。

 幸せから、急転直下。僕は独りになった。



 □□□□



 ゆっくりと、あまり好きではないケーキを崩していく。下品な甘さの生クリームとイチゴの酸味を無理矢理に焼酎で流し込んだ。気持ちが悪い。

 いろんな想像をした。だけど、僕の思いつくその全てに心当たりなんかなくて、余計に頭は混乱した。

 彼女の実家に連絡をしようと思った。職場に電話を掛けてみようと思った。もちろん、普通はそうするだろう。でも、僕にはできなかった。「さようなら」と、彼女が言ったのだから、もう僕は彼女のことを追うべきじゃないって思ったから。

 ケーキの三分の一ほどを食べ終え、焼酎もかなり飲んだ。ふわふわする頭を押さえ、壁に掛けた時計を見上げた。あと、三十秒もしないうちに、日付が変わるところだった。

 スマホを取り上げ、再びトークアプリを開いた。彼女の名前をタップする。

 

 もう、君には会えないだろう。そんな、確信があった。

 だけど、これだけは言いたかった。君が、未だ好きだから。ブロックされていて、このメッセージが未来永劫、既読にならないのだとしても。


 僕はスマホのキーボードをタップする。そして、『誕生日、おめでとう!』と送った。

 送ってから、もう一度、おめでとうって呟いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] わかる……(*´ω`*) 『さようなら』って言われていて、追いすがらない気持ち、なんだかわかります。 ケーキとお酒は洋酒でしかやったことないですが、それを焼酎でやるところに感情を読み取…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ