ペット
「犬飼ってるんだよね、僕」
大学に入学した時から仲良くしている男の子と一緒に昼食をとっているとき、彼は世間話の流れでそう言った。
動物が好きなわたしはテンションが上がり、前のめり気味になった。
「え、そうだったの!? 何犬?」
「ダックスだよ。ミニチュアダックスフンド。写真見る?」
「もちろん見る!」
彼は「おっけ」と言うと、スマホを取り出して少し操作した後、画面をこちらに向けてきた。そこには滑らかなクリーム色の毛並みをしたダックスが、舌を出して嬉しそうにこちらを向いている写真が表示されていた。濡れた真ん丸の瞳がとても愛らしい。
「えーー! めっちゃ可愛いじゃん! ロングコートなんだねー、ふかふかだ」
「でしょ、そろそろ二歳になるんだよね」
彼は言いながら画面をスワイプしていろいろな写真をわたしに見せてくる。甘えているときの写真、おやつを貰っているときの写真、お昼寝しているときの写真。そのどれもが天使と見間違うほどの可愛さで、わたしは思わず「かわいいー触りたいなー」と呟いた。
すると、彼は微笑みながら「触りにくるといいよ」と言った。
「え、いいの?」
「ああ、もちろん。暇なときにでもおいで」
「いつでもいいの? 今日でも?」
「ん、確か僕の講義はないし、君もないなら別にいいよ」
「ほんとに! じゃあこれから行く!」
それから昼食を食べ終えたわたしたちは、そろって彼の家に行くことになった。電車に乗って二駅。駅のすぐ傍に建つ古いけれど立派なマンションの中へと入った。エントランスからエレベーターに乗り、彼の部屋があるという五階へ向かう。
「ここが僕の家だよ」
そう言って彼は玄関の扉を開けて、わたしに中に入るように促してきた。わたしは初めて男の子の家に入るという緊張をさりげなく隠しつつ靴を脱いだ。
「お邪魔します―」
「突き当りの扉を開けるとそこにいるよ」
「おおっ!」
わたしは嬉々として短い廊下を渡り、ドアノブに手を掛けて、そこを開いた。
「……あれ?」
しかしそこには何もいなくて、わたしは辺りをキョロキョロと見渡す。遅れて、彼も部屋の中に入って来た。
「どこにいるの?」
わたしがそう訊くと、彼は後ろ手に扉を閉めながら笑みを浮かべて口を開いた。
「ごめんね、一つ噓をついたんだ」
「え?」
「僕は犬なんて飼っていないよ」
ゆっくりと、彼がこちらに近づいてくる。
「でもさ、これからこの嘘は本当になるんだよ」
気が付けば、いつからかその手に丈夫そうなロープを握りこんでいた。それをわたしの方に向けながら、何処か嬉しそうな笑みを浮かべた。
「これから飼うんだ、僕のペットを」