4話 聖女、王宮に住まう
初めて迎えた王宮での朝。
私を起こしてくれたのは可愛らしい侍女。
元気いっぱいでハツラツとした彼女は、灰色の瞳。亜麻色の髪の毛をお団子に結い上げているのがとても似合っている。
私と同い年くらいだろうか、ロングスカートのメイド服がとてもかわいい。
「シンシアと申します。今日からアルナ様付きの侍女として、精一杯頑張らせていただきますね。何でもお申し付けくださいませ」
「シンシア、ありがとう」
「早速ですが、朝風呂の用意が整っております。その後、お召し替えを頂いてから朝食となります」
私は笑顔のシンシアに案内され、部屋に隣接した浴室に向かった。
浴室は豪華そのもの。
広い更衣室にはユリの花が飾られ、化粧台の周りには高級そうな化粧の瓶がずらり。パウダールームもかねているのだろう。
服と下着を脱いでかごに入れると、シンシアは体を洗うのに浴室までついてくるという。
それは慌てて断った。
お風呂は一人で入りたいもの。
朝一番にお風呂?
なんて贅沢なんだろう……。
アカデミーの職員宿舎では、3日に一度、夜に共同浴場を短時間使えるだけだった。
この客室浴場は、部屋ごとに備え付けられているらしく、私専用!貸し切り!
広々した洗い場、高い天井。
床に埋め込まれた浴槽もまるでプールのように広い……ちょっとなら泳げそう。
ハーブと花びらの浮いた薬湯は最高。
体の芯から温まる……。
洗い場に腰掛ける。
置いてある石鹸は紫水晶華の香り。頭髪を洗う半固形の洗粉も置いてある……これもラベンナの香り。錬金術で作られたものだ。洗浄の魔力が込められているのかもしれない。
人生最高のお風呂を堪能した。
そして、体を拭いて用意されていたローブをまとって濡れた髪をタオルで乾かしていると、ノックとともにシンシアが脱衣室に入ってくる。
風の魔法で髪の毛を優しく乾かしてくれた。
王宮に務める上級メイドは、魔術の心得もあるらしい。
そして、用意されたのは絹とレースで出来た白のドレス。差し色は金の刺繍。
リーンをイメージして作られたものだろう。
私は緊張しながら袖を通した。
上半身は体にフィットするけど、思ったよりも動きやすい。
これが私に用意された王宮での普段着なんだろう。機能性はバッチリのようだ。
着付け後は、髪の毛をハーフアップに結い上げてくれた。
薄化粧もしてくれて、最後に、ホワイトサファイアと黄金で出来た百合の髪飾りを髪に差して、完成。
鏡の中に、昨日の私とは全くの別人が立っている。
「背筋を伸ばして……そうです。アルナ様、美しいですわ。まさに聖女……。もっと自信を持って!」
シンシア肩と腰のあたりを伸ばすように撫でられ、姿勢を正す。
読書と事務仕事で猫背気味だったのかな、姿勢を変えると本当に鏡の中の私は別人……。
あああ、でもなんだか気恥ずかしい!
こんなに着飾ったの初めてだから……。
部屋に戻ると朝食が用意されていた。
朝から豪華な食事がずらり。
濃厚なバターの香りのクロワッサン。添えられたイチゴとオレンジのジャム。
あっさりしたコンソメのスープには乾燥バジルがぱらり。
角ニワトリの卵の目玉焼き、オーブンで焼かれた皮付きのお芋。翡翠豆を蒸して肉汁をかけたもの。
デザートはアカシア花蜜をかけたヨーグルトとカットフルーツ。
美味しい。
たくさん用意されていたけれど、ぺろりと食べてしまった。
毎日こんな食事なの?
太ってしまいそう……運動しなくちゃ。
食後に紅茶を飲みつつ一息ついていると、部屋の扉がノックされた。
ビアだった。
朝からハツラツとしたビア。
私の姿を見て驚いた後、うっとりとため息をついた。
「アルナ様、素敵!よくお似合いです」
そ、そうかな。
なんだか照れちゃう……。
「用意が整ったようですね。
早速なのですが、魔力供給の前に少しお話がしたいと……庭でキース王子がお呼びです。キース王子のもとへ参りましょう」
(続く)