【第93話】 夢の中の住人達と元帥閣下
「ほう、ここが超空間か、数万年修行しているが初めてだな、ん?この姿は……」
プラチナブロンドの髪、緑色の瞳、身長は180cm程か?すらりとした身体。贅肉はない、かといって筋肉質でもない?細い!が第一印象である。あと、足が長い!
切れ長の目、カミソリみたいに鋭い。
雰囲気がピリピリ?警戒しているのかな?
第一印象は、び、美形!年齢は二十代後半?三十代前半?
ローロンサみたいなアニメのキャラっぽい感じではなく、彫刻というか絵画というか、芸術性美形?いやアニメ2次元美形、この人3次元美形、って感じだ。
年齢を重ねてもきっと、ダンディになるに違いない、そう思わせる容姿だ。
そして、すっ、と動く動作が自然だ。
うわ、田崎さんみたい。いや田崎さん以上に田崎さんだ!え?表現がおかしい?
で、誰?焦る私。はっきり言う、この人、知らない人だ。
元帥さんを召喚したつもりだが、目の前には、軍服のような鎧のような装備?衣装を纏った上記の人物が現れたのだ!
はて?どうしたものか……?
「……」
長身のイケメンさんも、こちらを見ている。
怪訝そう。
「おっわ(おれは)アトラ帝国の騎士。ゴブリン阿騎君に喚ばれここん来たばってん、彼はおらんと?」
お困りの様子。
それは私も。
呼んだ覚えはない、もしかしてこの人が元帥さん!?
確かに元帥さんと同じ言葉だ。
あ、方言か?
しかし、いい声だ!重低音でとても響く!
じっと手を見る。いやいや自分の身なりを見る。
キュロットスカートに白いシャツ(ちょっとフリル付き)生前のお気に入りのスニーカー。
長い髪は、これまた生前お気に入りのバレッタで留めている。
地味か?
ちなみにこの黒髪は地毛である。
以前、怖いけど引っ張ってみた。ちゃんと痛かった……泣くほど嬉しかった。
「ゴブリン阿騎は私ですが、もしかして元帥さん……ですか?」
「え!?冗談ばいいなすな、阿騎君はゴブリンで男の子ばい。あなたは焔の女性ではなかと?」
ほむら?ああ、人族の女性か。ん?女性?私を女性と呼んだ?女性として扱ってくれるの?
……生前生後通して、初めてではないか?
男性か……前世では酷い仕打ちしか記憶にない(田崎さん、横山君、校長先生、他数名除く)
う、い、いけない、顔がニヤけてしまう!
ううう、まどかごめん。だって本物の騎士だよ?
コツン。
「あいたっ!」
軽く何かが頭に当たる。
「?」
頭を押さえて振り向くと、木の陰からルカトナちゃんがじーっと、こっちを見ていた。
「アキ、ニヤけている。なんかヤダ」
う、ご、ごめんなさい。まともな人?久しぶりだから……。
「あん子は?」
「あんこ?あ、あの子はルカトナちゃ……ルカトナ君です。ここの住人の一人で、わけがあって預かっています」
この説明で間違っていないと思う。
「預かる?凄まじか意思の力だが?以前、勇者と会ったばってん、それに匹敵する強さたい、何者ね?」
私が微笑むと、ルカトナちゃんは、とととっと歩み寄って来た。
そして私の足にぎゅっ、としがみつく。
「ねさまは渡さない!」
え?なに?どういうこと?
「おれん見たところでは、ルカトナ君、君が一番強か、その次がお姉さんたい。君と争うつもりはなかし、挑むこともせん」
ポチャン。
「……他にも強いお方がいるみたいだが?ここは凄か場所だね」
バサッ。
「鳥さんもおっとね?おや、あん鳥はつがいね?羨ましかねぇ」
「本当に元帥さんなのですか?容姿が違いますが?」
しかし言葉遣いは同じだぞ。
まあ私も容姿とか性別とか、かなり違うが……本質は一緒、そこを見て欲しいな。
「……言葉は同じですが、スケルトンではありませんね?」
「スケルトンでなかとは、ここの空間のせいではないとや?」
あ、そういうことか!私も見なければ!元帥さんを!
と、思って見た瞬間!
視界が広がった。感覚的には視界だが、実際は霊視、霊的知覚が広がった。
綺麗な女性、奥さんが見えた。
小さな男の子と女の子が二人見えた、お子さんだ。
あ、戦場だ。
人族同士で戦っている、場所は海かな?前方に大きな山が聳えている。これは昔の千里島?大陸ではないか!
幾つもの判断、決断を下している元帥閣下が見えた。絶えず最善を尽くそうとしている。
昼夜問わず空から降り注ぐ隕石、壊れていく世界!
星喚びの制圧?裏切り者?家族の処刑!?見せしめ?
癒やされることのない怒り。
そして、私の目の前には慟哭のスケルトンが佇んでいた。
「おっ達はあの場所ば死守する。あの機械は世界を護る機械であり、滅ぼす機械でもある」
ルカトナちゃんが呟く。
「ゴーレムが代わりに護ってくれるよ?菌糸算譜が協力すると、千里島でもゴーレムが作れるよ」
「え?そうなの?ルカトナちゃん?」
「そがんか、作るっとか」
「あの島から解放されるよ」
無邪気に微笑むルカトナちゃん、が、元帥さんの次の一言で、その表情がさっと曇った。
「解放さるっとか……どこへ帰ろうか、故郷は遙か昔に滅び去った。待っている者達は、もうおらん、残ったのは憎しみだけたい」
え?
「お前達は帰る場所がまだある、だからおっ達は力ば貸そうと決めたったい。帰れる場所があるなら、帰してやろうではないか、と。それが今、おっ達過去の亡霊にできる唯一ことたい。我らの子孫が犯した罪、余りにも深く広い。償いきれるものじゃなか」
「ドライアドさんのこと?」
ルカトナちゃん、よく知っているね?
「違うよ、ねさま。ととさまが倒したドライアドはドライアド・トルク一族のモ・カさま。大陸で魔昆虫を産み続けているドライアドはドライアド・トルク一族のド・カさま」
?
え?
大陸で魔昆虫?
それにトルク一族って?名前が面倒い!
「我々はドライアドを一族の名で呼んどる。本名で呼ぶとは不遜たい。ドライアドの間では固体名、本名で呼び合っとるようだが」
同族間では名前で呼び合っていると。
さてもう1本、魔木の大木があったか、どうする?
トルクちゃんの大事な仲間だ。姉妹かもしれない。
今の私は、OVERKILLを使えないぞ?
ゴブリン戦士もドワーフの戦士も負傷者、死者が多い。
召喚はできるけど、スケルトンさん達はどのくらいの戦力になるのだろうか?
「ねさま、スケルトンさん達は強い、心配ないよ」
「さすがにOVERKILLは使えんが、魔獣の鱗は破壊できるとばい」
「え?す、凄いです!」
ドワーフが加工すらできない鱗を壊す?
「魔木があるのか、トルクに知らせんと。またあいつが悲しむとか」
「元帥さん、ここの超空間の記憶、持ち帰れます?」
一瞬、え?というお顔をする元帥さん。
「なんな、それ?記憶?」
「夢が思い出せないのと同じで、ここでの記憶は簡単に持ち出せないのです」
「そら、いかん。たいぎゃな困る」
すみません、元帥さん、時々言葉の意味が分かりません。ニュアンスで解釈していますが……。
「記憶ば、持ち帰る術はなかと?」
「それは……現実で、思い出す修行をするすしかないです」
「どげん修行?瞑想か?」
「それもありますけど、基本、掃除と塵拾いだそうです」
「なんなそれ?」
「掃除は部屋の掃除から家、近所、地域に広がり、心の掃除も含むそうです。塵拾いも同じで、拾った塵はしっかり浄化するようにと」
「阿騎くん、あんた難しかこつば言うね。今からして間に合うと?」
「さ、さあ」
さあ、としか言い様がない!
「分かった、ようは根性たい、おっ達がドライアドば思う気持ちは本物たい。この記憶、必ず持ち帰る」
朝、私は揺れる熱気球の床で目覚める。
元帥さんを喚んだことは覚えている。
ン・ドント大陸の話があったはずなのだが、上手く思いだせない!
大事な、大事な話だったのに!
次回投稿は2022/10/30の予定です。
サブタイトルは 皆が来たがる超空間 です。




