【第86話】 島の守護者スケルトン
「この者達は、不通り島から逃れてきたのだ。妾を呪縛から解放した者達だ」
ドライアドトルクちゃんが説明をする。
私は興味津々で近くのスケルトン戦士を見ていた。
筋肉ないのに、重そうな武器とか鎧とか、よく動けるなぁ。
実際、鎧って重いんだよね、剣も鉄の塊だよ?関節とかどうなっているのだろう?
目とか、どんな風に見えるのだろう?
記憶は?脳も心臓も無いよね?骨だけだし。
魔力でカバーしているのかしら?
ガコンッという音と共に、潜水艦のハッチが開く。
次々に潜水艦から下りてくる妖精達。
エルフさん、ドワーフの王、あ、残りのちびちゃんズだ!
エルフさん傷がひどい?再生が遅れている?
「動くなよ」
!
近くのスケルトン兵士が声を掛けてきた。
ここのスケルトンさん達、やたら元気に活動しているけど、スケルトンって闇属性で、陽の光に弱いとかじゃないの?
トルクちゃんが話しているけど、どうしよう?
私に警告したスケルトンさん、なんか優しそう?
そんな気がする。
段々と近づいていく私。
ほら、動くの、黙認している!
……どうしようか?
「ゴ、ゴブゥ……こ、こんにちは……ゴブゴブ」
思わず、声を掛ける。
この骨格はヒューマンの骨格だ。モトはエルフだろうか?
「今は朝だ、おはようございます、だろう?」
……え?
注意されてしまった。
「ゴブ、そ、そうですね。おはようございます、ですゴブゴブ」
声は振動だ!どうやって発声しているのだろう?お口も動いている!
全て魔力だとしたら、凄い魔力量だ!
更に近づく私。
「ゴブ、さ、触ってもいいですかゴブゴブ?」
「構わんが?変なとこ触るなよ?」
大きいなぁスケルトンさん。私が小さいのか?
取敢えず、臑当てに触ってみる。
ぺたぺた。
触れる。
ひんやりと冷たい。
「ゴブ、重くないですかゴブゴブ?」
「いや、重さは感じないぞ」
え?なんで?重くない?いや質量ゼロってこと?
それとも鎧自体が身体ってこと?
「……」
「ゴブ?」
「ワシも触っていいか?」
ドクロの戦士が遙か上から見下ろす。
「……ゴブゥ、い、いいですけど、変なと触ったら駄目ゴブ」
大きな手甲が上から降ってくる。
わ、わ!ち、ちょっと怖いかも!
あ、手甲が!
大きな手甲は魔力還元し、骨だけの手が現れる。
その骨格標本みたいな手は、私の頭の上に載せられ……ない?
「向こうのゴブリンが凄い目で私を見ているが?殺気すら感じるぞ?あれは君の母親か?それとも……まさか妻か?」
え?
「どうやら私に触って欲しくないようだな?君はファンが多いようだ、モテるな?」
え?誰が見ているの?
「ん?君は男の子か?」
「ゴブ?は、はい、そう、ですけど?」
見た目は、ですけど。
「女の子ではないのか?私の目には女の子に見えるのだが?」
目?目ってどこ?どの目で見ているのかしら?
あ、じっと見ている?
「確かに、付いてはいるが君は女の子だ。意思の力で男の子に成ったのか?ゴブリンはそういう技があると聞いたが?」
付いてはいるが?付いている?何が?
!
「が、ガイコツさん!エッチです!友達、無くしますよ!」
がははははっと豪快に笑うガイコツ。
「軍曹、何ば話よっとや?」
立派な鎧のような軍服のような装備をしている元帥、と呼ばれたスケルトンがこっちを見ている。たぶん。
仲間になってくれるかな?
気がつくと、全ての視線が、私と軍曹と呼ばれたガイコツさんに集中していた。
「ゴビッ!?」
「元帥閣下、この者達に悪意はない。魔族の気配はするが、おそらく細胞憑依の類いではないかな。トルク殿が言うとおり、信頼してもよいと思うぞ」
「……」
元帥と呼ばれたスケルトンは私達を見回したようだ。
あ、目が合った!?
スケルトンを見たとき、変な考えが過ぎった。
この大勢のスケルトン達、生前は軍人さんらしいが、どうしてこの地に囚われているのだろう?まさに呪いか?一体、何年ここにいるのだろうか?
私達ゴブリンは5年しか生きられない。
力は倍増したがこれもある種の呪いだろう、解けない呪いだ。
この人達の呪いは解けるのだろうか?
もし私達がスケルトンになったら酷い話だぞ?
生前は生体兵器に改造され、死んで彷徨う。
皆、故郷に帰りたいと思っている。この思い、成就しなかったら彷徨う妖精伝説になりそうだな。
魔力が強い分、残留思念も強そうだし。
「そこのゴブリン、5年の寿命って何や?」
うげっ!?
ま、また考えがダダ漏れ?
何故か視線がエルフさんに向う。
あ、怒っている?
「ちゃんとガードはしとったぞ、そこのエルフ、怒るな。このゴブリンは優秀だ、私の方が強いだけたい。人族が何やら悪事をしとると聞いたが、酷かことば」
「妖精の兵器かですか?」
軍曹が周りを見ながら呟く。
「しかし、5年の寿命とは?」
「魔力の圧縮による害だろ、応用すれば恐ろしいかことになる。我ら不死の一族に使ったらどうなる?魔力圧縮すれば簡易魔王ができるぞ」
うげっ、そこまで考えていなかった!
施設はそのままか?
〈大丈夫だよ、魔力圧縮は諸刃の剣。膨大な魔力を圧縮すると、色々壊れる。魔力の圧縮には現界がある。それに魔族チクリだって馬鹿じゃない、ちゃんとコントロールできる技術に制限して提供しているよ〉
?
だれ?
新しい脳内住人?
〈え?また忘れているの?いやだなぁ、ちゃんと覚えていてよ!悲しくなる〉
ばちこーん!
げっ!どこか叩かれた!
あっ!!
ルカトナちゃん!ルカトナちゃんだ!
〈……ちゃん?〉
「元帥さん、その心配はないようです。魔力の圧縮は限界値があるみたいです」
スケルトン軍団が瞬時に私を見た。
心なしか目の窪み(眼窩です)が大きくなっているような?驚いてみている?えっ、て感じ?
なんで?
あ、もしかして元帥さま?の方が良かったかな?それとも元帥殿?
ところで元帥ってどのくらい偉いんだろう?
軍曹さんよりも上なのだろうけど。
元帥さんが私の方を見る。
「元帥と言っても、遙か昔の話たい。今じゃ皆、骨の集団」
「どうされます?閣下」
元帥さんの横にいる変な帽子を被ったスケルトンが尋ねる。
「あの小さいゴブリン、気に入ったぞ。ポイチャ、任せた、良きに計らえ。これでよかか?トルク?」
「元帥、感謝する」
ポイチャと呼ばれたスケルトンは的確に指示を出し始める。
「負傷者が多いな、手当を!周囲の警戒と船の修理だ。客人として扱う」
騒がしくなる周囲。
「よかったな」
軍曹さんが嬉しそうな声で言う。
「ゴブ、ありがとうございますゴブ」
「本来ここは禁断の地だ。上陸する者に対して殆ど死を与えていたが」
うわ、おっかないなぁ。
「お前達の5年の寿命に、元帥閣下は心打たれたのかな?」
「ゴブ?」
「俺達はこの地を一万二千年程前から守り続けている、5年は一瞬だ」
一万……!?
「ゴ……ゴブ?い、一体、何をそんな昔から守り続けているゴブ?」
「……元帥閣下か、語り部から説明があるだろう」
「軍曹!取敢えず客人達を基地に招待するぞ」
ポイチャさんが指示を出す。
基地?お墓じゃないでしょうね?
一抹の不安と共に、私達は島の奥へと向った。
次回投稿は2022/10/15の予定です・
サブタイトルは 遙か昔のお話 です。