【第83話】 簡易転生
このままでは接近できない。
せめて風だけでも。
(風だけ?雷さまも鎮めようよ、ぼくが使う分には、ねさまの身体への負担がないみたい。鎮めるね)
?
だれ?この人?新しい脳内住人?小さい子供?
(もーやだなぁねさま、思い出してよ!)
バチン!かなり強く意思を叩かれる。
ポン、と音がしたみたいだ!霊音か?
あ、思い出した!!ルカトナだ!
なんでこんな大切なこと、忘れるのだろう!
(ねさま、始めるよ?ねさまの魔力は、殆どがととさまの魔力だから、ぼくとの相性が凄くいい、えいっ、と)
あ、すっと私から何かが抜け出ていく。
荒れ狂う海も、雷も、一瞬で静まる。
聞こえるのは、微かな風の音のみ。
「ゴブッ!止んだ!?」
「な、何が起きた?」
漂う黒い種に意識を向ける。
!
凄まじい悪意が私を捕らえた。
あ、やばっ!
これか!おばばさまが言っていた、危険な行為!
ドライアドの記憶に一瞬だが感応したのだ。
凄まじい実験、いやこれは拷問だ。文章にするにはR18指定、必定の内容だ!
酷すぎる!とだけ記しておこう、ドライアドに、女性にこんな酷いことを!
私の意思も傷を受け、過去の虐げられた記憶が蘇る。
肉体が悪寒と嘔吐に支配される。
「ゴッ!あ、阿騎くん!?」
玲門お姉さんが青ざめる。
その時、辛うじて私の意識は逸らされた。
誰だ?私の意識を逸らしたのは?
(わたしよ、ホルダーさん)
(誰?ドライアド本人さん?)
(完全なホルダーさんなんて何千年ぶりかしら?ああ、時間が無い、私はこの記憶と魄を維持しながらは生きていけないの、この記憶があるかぎり、また魔昆虫を生み出しかねない。だから魂の記録を元に私を再生します)
(え?)
(意識と魄を焼き尽くし、この場で簡易転生をする。生まれ変わった私をお願いね、ホルダーさん)
残された言葉はそれだけだった。
黒い種が水面で起立し、ゆっくりと割れ始める。
四方に開いた種の中央には異形のオブジェがあった。
人族と魔族により支配されたドライアドの本体は、目を背けるほどの造形だ。
周囲のゴブリンやドワーフも思わず下がった。
「まダ、はなレるがヨい、いまより我ハこのミをやきつクす」
オブジェは分離し始める。
「やめろ!このまま人族に復讐を!」
分離し始めたドライアドが叫ぶ。
「駄目よ、このままでは魔昆虫を作り続け、世界を混乱に導くわ」
「そうダ、コのまマではイケない」
ドワーフはドライアドを知っていた。
「トルクさまか?」
「な、なんというお姿に!」
突然燃え上がるドライアド。
広がる悲鳴。
(があああっ死んでたまるかあああああぁぁ復讐を!復讐をぉぉおおおっ人族を!魔族を!殺す、殺し尽くす!魂よ、なぜ自分自身を焼くのだ!)
肉体の、魄の叫び声だ。
ドライアドは幾つもの存在に分離していた。復讐を誓うドライアドと、魂にその記憶を封印し、やり直そうとする意識体のドライアド。
魔力が極端に強いと分離と統合を繰り返す場合がある、とローローが言っていた。
(経験は魂に刻まれる。私の身に起きたことは、もう消せない。だから前世の記憶にしましょう?生まれ変わるのよ)
(いやだ!必ず復活してやるぞ、魂の封印を解き放ち、必ず!そして思い知らせてやるぅ人族め!魔族めぇ!)
そう言い残して、ドライアドは炎に包まれ消えていった。
(我ながら、恐ろしい存在に成ったモノだ)
静かに呟くと、残ったドライアドも自身の灰を見つめ、陽炎のように揺らめき、消えていった。
そして再生が始まる。魂は膨大な魔力を行使し、肉体である魄を構築し、残留思念の欠片から新たに意思を再構築する。
上位存在だから許される技、簡易転生だ。
記憶はリセットされ、新たなドライアドが誕生する。
まるで不死鳥みたいだ。
いや不死鳥と同じではないのか?
(救助に向うぞ)
おばばさまから念話が届く。
新たに生まれたドライアドは、私達ゴブリン並みに小さかった。
容姿は子供のエルフさん、って感じだ。長い黄緑色の髪、瞳の色は紫色?ちょっとつり目で口元が勝気そうである。服は薄い繭のようなワンピース?を着用している。
(小さい?これでもドライアドじゃぞ)
あ、ゴキゲン損ねたかしら?
(見た目は子供でも、知識は大人じゃぞ?礼も知っておる!よくぞ妾を救うてくれた、ホルダーどのとその一族達よ、ありがとう礼を言う)
(い、いえ、ところで私達の現状はおわかりですか?)
(うむ、理解しておるぞ。故郷を目指すのであろう?前世の記憶は一部、封印されておるが、ドライ
アドとしての記憶、知識は従来通りじゃ、おばばのことも覚えておるぞ)
これは、強力な仲間が増えたと喜ぶべきか?
(早合点するな、知識と記憶はあるが、魔力は十分に使えん、この身体で魔力行使したら、お主同様、倒れてしまう。特に海は苦手じゃ、小さい体に塩水は堪える)
え?青菜に塩?塩分に強い植物もいたような?
だとしたら、船よりも熱気球の方がいいのかしら?
トモイお姉さんが叫ぶ。
「ゴブ!後ろから船が!」
どこ?目がいいね、トモイお姉さん。
「3隻?かなり速いのう!追いつくのではないか?」
そんなに早い?ドワーフなのに目がいいね、ノイモイさん。
(阿騎、あの船、魔獣を多く積んでいるぞ。恐ろしい波動がひしめいておる!)
おばばさまが念話をよこす。
ドライアドの大木船?
(違う、魔昆虫は妾だけじゃ。この先に呪われた島がある。人族はけっしてあそこに寄りつかぬ、一時そこに避難したらどうだ?)
え?呪われた島に避難?
そんな怖いところ、わざわざ行かなくても?
(お主の言葉で言う、潜水艦もそちらに向っておるぞ?進む方向からして間違いないと思うが)
!
(どちらの方向なのです?)
ドライアドは小さな可愛い指で南南東を指した。
(みんないい?南南東を目指して!)
船団は南南東を目指し進み出す。
「ゴブ、阿騎くん、うち、もう動けるようになったし、各船を見て回るねゴブ」
「ゴブゥ阿騎くん、嘔吐したけど魔力を使ったゴブ?大丈夫?」
あ、目が怖いです玲門お姉さん。
そう、派手に玲門お姉さんの横で、嘔吐しまくったのだ。
吐くモノが無くなり、胃液まで吐き周囲に悪臭と嫌悪感をばらまいた。
それでも、イヤな顔せず、私と甲板を清掃してくれた玲門お姉さん。
この人は……いや人じゃないけど、何者なのだ?
私は何がしてあげれるだろう?
この誠実と好意にどういたら報いてあげられるのだろう?
「ゴブ、オイ、阿騎!ノイモイと話したが、あの三隻の船、沈めなくていいのか?魔獣積んでいるのだろう?」
(魔海獣が50匹以上いるとおばばさまが、だから今の私達では無理だよ)
「ゴブ、50匹以上はきついな、少しでも減らそうと思ったが無理だなゴブゴブ」
(見つからないように、島を目指そう。でも呪われた島って?)
次回投稿は2022/10/09の予定です。
サブタイトルは 呪われた2つの島 です。