【第82話】 悲しみのドライアド
「あのドライアドを助ける方法がある」
え?助ける?魔族アトロニアが?本当かしら?
「拉致したり、助けたり、支離滅裂ね?信念とかないの?譲れないモノとか!」
「笑わせてくれる、魔族に信念を問うか?ではお前にはあるのか?」
「どうかしら?でも、譲れないモノはあるわ」
「とさま、木のお姉ちゃん、苦しそう」
「ああ、そうだな」
「どうするつもりなの?」
「ドライアドは妖精族の中でも上位に位置する存在だ。通常の攻撃では倒せんし、それに加へ、あいつは細胞が全て憑依細胞で構成されている。通常では助けるどころか、倒すことすら困難だ。そこで、OVERKILLを使う」
「今の私には無理よ?」
「だから俺が使う、俺はもう時期、消える存在だ。できる限りのことがしたい」
「魔族のあなたが消えるの?」
「とさまは死んでいるのです。とさまは、かさまを助けるため、今の魔王さまに挑みました」
「そして敗れて異界に飛ばされたと聞いたけど?」
「はい、異界とは死者の国ことです、とさまは戦い敗れ、殺されたのです」
「え?」
「そして、とさま意思は、魔族チクリに縛られ、走狗と化しました。逆らうことのできない奴隷です」
「呪縛されたの?その奴隷が、どうやって解放されたの?魔族の呪縛は簡単には解けないわ」
「ゴブリンの槍だ」
呟くように話す魔族アトロニア。ゴブリンの槍?ヤベンさんの一撃!?
「そうだ、あの一撃でチクリの封印が解けた。恐るべき一撃だ。あのゴブリンが私を解放したのだ。そして私は徐々に、本来の姿を取り戻し始めた」
「数々の妖精の拉致は、本意ではないと?」
「それに関しては言い訳するつもりはない、私が拉致したのは事実だ」
「……」
拉致の事実は消えない。
魔族アトロニアがしなくても、他の魔族が実行しただろう。
「俺の……世界での執着はルカトナだ。ルカトナの状態が分かった今、もう、世界に未練がない。未練がなくなった時点で、俺の意思は……魔力は拡散を初めている」
「子供の状態って?こんな可愛い子に未練がないと!?」
こら、ちょっと待て、酷すぎじゃない?それでも親か?
ここで前世の記憶が過ぎる。
怒りと苦しみと悲しみが吹き出す。
父に対する思い、母に対する思い、私の血に繋がる者達への思い。
ろくな感情しかない!
この子もドロドロしたこの悪感情にまみれるのか?
「捨てるのか?」
噛みつくように叫ぶ私。
「捨てる?俺は暫くすると、いなくなる。俺が安心して死ねるのは、お前達がいるからだ」
何を言っている?
「ルカトナの力の象徴、魂は魔石と化しメイドンが使い浄化する、肉体である魄は魔王因子としてサイザンが使っている。そして意思はここにある、阿騎、お前の超空間にだ。」
え?
「あの魔族達に利用されることなく、次期魔王として復活することもなく、妖精達の役に立ってルカトナは消えていく。消えるまでここで預かって欲しい」
はい?子供を預かれ?次期魔王候補を?この超空間で?
「鶴と亀の許可は貰っている、後はホルダー阿騎、お前だけだ」
鶴さん亀さんは上位存在だ。鶴亀に見えているが、見えているだけだ。本体は不明の存在だ。とんでもない大物のような気がする。その鶴亀さんが認めているのなら?
「魔族アトロニア、それでいいの?」
「俺は現魔王に挑んだときに、死んでいるのだ。肉体は滅ぼされ、それからの俺は意思だけの存在、残留思念ってやつだ。お前のローローとネーネー、あいつらと同じ存在なのさ。違うのはエネルギー量、魔力が格段に多かっただけ。本来そこで終わっていた。死してなお子供に会えて、その子供も魔族に利用されること無く妖精達の役に立つのだ」
「遊んであげないの?」
「!」
ルカトナが目を動かし、父親を見る。
「それは、贅沢な望みだ、私は妖精達に酷いことをした。償われるモノではないではない。この子を頼む。ルカトナ、行ってくる」
「はい、とさま、行ってらっしゃいませ」
頼むと言われても!
バチン!!
どこだここ?
風景が突然変わった!
私、何しているの?
とどろく雷鳴、荒れ狂う海、大きく流される気球。
何が起きているの?
あ、大木船!
(さて、ホルダー阿騎、これが魔族のOVERKILLだ、よく見ておけ。とは言っても俺の技は魔王には通用しなかったがな)
大木船の上空に現われた魔族アトロニア。
静かに大木の上に降り立つ。
無数の剣のような枝や、ヘビのようなツタが魔族アトロニアに襲いかかる。
(すまない、ドライアド。詫びの一つとして私の意思を使い切り、お前を解き放つ)
魔族アトロニアな大木船に呑み込まれ見えなくなった。
私は霊視に切り替えた。
何かが左拳に集まった?か、と思うと、雷鳴に優る大音響が響いた。
その破壊音と共に魔力還元していく大木船。
女性の悲鳴が、物理的な音ではなく霊的な波動で響く。
肉体を構成している憑依細胞が死滅していく。
切り離された意思は、黒く見える。
(汚染されているのだ)
(え?)
魔族アトロニアの言葉に驚く私。ドライアド、助かるの?
(魂、魄、意思を悪意に犯されたのだ、魔族ならではの所業だ。だが、ドライアドは上位存在だ、意思と魂を縛り付けている肉体が消えたのだ、あとは自分でなんとかするさ)
えええっ!?そ、そんなんでいいの?
(おれは……ここまでだ、ルカトナを頼んだぞ)
そう言い残すと、魔族アトロニアは消えていった。
あっさりと、その存在が消えた。
魔族アトロニアはもういない、私は動揺が隠せなかった。
砕かれた大木船は、魔力還元を始めた。
次々に消えていく木片。
本体は消えゆくが、女性の悲鳴はまだ止まらない。
悲鳴?いやこれは慟哭だ。
「ゴビィホルダー阿騎!もう私の風魔法ではこの場に止まれないゴブ!」
「エノンは無事か?」
(う、うちはここ!気球の底にしがみついているっ!)
空機のとの接合フックに掴まり、震えているエノン。
「ゴブ、大木船は魔力還元している、ここから離れるゴブゴブ!」
なんだろう?黒くて丸いモノが浮いている?
あれだけ魔力還元していない?それとも私の霊視に見えるだけ?皆にも見えるのだろうか?
大きさは5m?
(エノン、あの黒いの見える?)
(ううう、見えない)
ごめん、船底にしがみついているエノンに見えるわけない、これは質問が悪い。
(トモイお姉さんは見える?)
(どこだ?……見えるぞ!)
(何に見える?)
(巨大な種に見える)
(接近できない?)
(((え?)))
(阿騎くん、危険なことは無し、よ?やめて)
(玲門お姉さん、あの種の中に妖精がいる。多分おちた空機のメンバーだ、それと魔力の結晶みたいな妖精もいる)
多分、ドライアドだ。
次回投稿は2022/10/08の予定です。
サブタイトルは 簡易転生 です。




