【第80話】 大木船
更にお話が入りました。
夜空に飛び立つ熱気球。
修理された空機2機は島を旋回し、船団の後を追う。
空機は基本グライダーである。
ゴブリンの風魔法で上昇し、滑空、海面近くまで降下するとまた風魔法で上昇、滑空である、この繰り返し。
ドワーフは空機の重り、兼、土魔法での攻撃担当だ。
私達を追い抜き、船団の上空に舞う2機の空機。
「ゴブ、早いな。あんなに飛ばして魔力は保つのかゴブゴブ?」
「お?トモイ、お前、空機に興味があるか?一度飛んで、風を捕まえたら楽らしい」
嬉々として空機についてお話をするノイモイさん。
「じゃさあゴブ、故郷まで風が吹いていたら一気じゃんゴブゴブ」
「おお、そうだな、そうだといいな」
故郷か、ン・ドントはどうなっているのだろう?
故郷の大陸は、記憶の中の風景は無事であろうか?
何かに強く呼ばれているような、この焦る感情はなんだろう?
人族の魔獣達が、故郷を蹂躙しているのではないだろうか?
いや、まずは皆、無事たどり着くことが先決だ、到着すれば分かることだ。
「ゴブ、うちらの気球は、なかなか海に落ちないね?また空を飛んでいるしゴブゴブ」
美観お姉さんが答える。
「ゴブ、阿騎の指示が的確なんだろうゴブ」
私は少しだが回復し、どうにか歩けるようになった。
ニトお父さんや、リュートお母さんの無事な姿を見て、少し安心したからかな?
しかし、ちょっとでも船兼バケットが揺らめくと……ゴビッ!
「ゴブ?お?なんだ?私のケツにしがみつくとは、2年早いぞ?」
「ゴブッ!ご、ごめんなさいゴブ!」
「ゴブフフフッ」
トモイお姉さんが笑う。
「んだよ、トモイゴブゴブ?」
「仲いいなゴブゴブ、ホルダー阿騎ってもっと厳しくて、冷たいヤツだと思っていたゴブ」
「トモイ、誰の話だゴブゴブ?」
「ゴブ、だってよぉ魔獣ラグナルを倒すため、お前ら吹飛ばしたんだろうゴブゴブ?目的のためには手段を選ばないヤツって聞いたぜゴブゴブ?」
え?数少ないゴブリンなのに、なにこの誤解?誰?誰から聞いたの!?
え?え?ここでもいじめ?
「ゴブ、オレの聞いた話とは真逆だなゴブゴブ」
「ゴブ?んだよぉアヤト、女子の話に入るのかゴブゴブ?」
「ゴブどんな噂か、ホルダー阿騎も聞きたいのではゴブ?」
いいえ、良くも悪くも噂など、迷惑なだけです。聞きたくありません。
「ゴブ傘の実験で死にかけた、とか魔力が強すぎてコントロールできないとかゴブ」
あ、これ本当かも。
「ゴブ、おい、誰だ?そんな迷惑な噂流しているのはゴブゴブ?ホルダー阿騎への誹謗中傷は誰一人許さんゴブ、そいつに言っておけゴブ」
「ゴ、ゴブ、こ、こえーなー、分かったよゴブゴブ」
「ゴブ、トモイ、お前もだゴブッ!」
美観お姉さん、熱いなぁ。
(あら、私も許さないわよ?)
(う、うちも!)
(……身に余る光栄です)
(阿騎)
(おばばさま?)
(後方には何も感じぬ、追手はないと判断する、が、前方に異様な気配を感じるのじゃ、このまま進むのは危険じゃぞ)
エノンと目が合う。
「ゴブ、見てくる。あと先行している飛龍2機に命令をゴブゴブ!」
そう言って、ぽん、と軽く甲板を蹴り、夜空に身を躍らすエノン。
背中の翼が広がり、音も無く飛んでいく!
……何回見てもかっこいいなぁ。
さて、どうする?
まずは、船団の進路だ。
(おばばさま、南に進路を!)
(ホルダー阿騎、黒龍隊のガノマだ。大きい木が見えるが、どうする?)
大きい木?
(ドワーフ王の船の3倍以上はあるか?木というか、丸太だな。無数の薄暗い光の球が点滅している。丸太の表面を覆っているあの光は何だ?)
!?
光?3倍以上?デカすぎだろう!
(煙が出ているからおそらく蒸気機関だと思うが、形が巨大な丸太だな)
あ、輸送船?
(何か積んでます?いや何を積んでいるか分かります?)
(接近してみるか?)
(待って!)
接近はマズイ、輸送船なら護衛がいるはず!
それに気づかれるともっとまずい。
(その船の周りには何か見える?)
(……!)
ガノマさんの憎悪の感情が伝わってくる。
(いたぞ!魔獣の魚版、魔海獣だ、周りを泳いでいる)
(魔海獣?)
(ああ、メイドンが名付けた。羽のある魚とラグナルを合成したものとか、言っていたな。飛龍はこいつに、ほとんどが落とされた、近づくのは危険だ。アイツはかなりの高さまで飛んでくる)
羽のある魚?飛魚か?
(エノン、聞いていた?ゆっくり離れて!)
(分かった。阿騎くん、薄暗い光、1000個以上あるみたい。あれ卵か繭だよ!光る時、中が薄らと見えるもん。魔昆虫みたいなのが入っているよ!)
想像してみた。
うわぁ気持ち悪い!昆虫って駄目なんだよね、私。前世の記憶って邪魔だ!
方向が私達と同じってことは、ン・ドント大陸を目指している?
1200匹で攻撃してなお、1000個以上の繭を積んでいる。
あの島は、実験場兼、工場?
そしてこいつらは、私達が脱出したことを知らない?
人族の通信手段は?
私達には念話があるけど、人族に通信手段はおそらくない。
「ゴブ、何を考えている?ホルダー阿騎ゴブゴブ」
美観お姉さんが冷ややかな目で問いかける。
「人族の大木船を沈めるゴブ」
なぜ大木?
考えろ、なぜ大木なんだ?
大木自体が魔昆虫を産みだしているのかも知れない。
大木をン・ドント大陸の大地に設置して、妖精の国を攻略する。
どうかな?正解のような気がする。
「ゴブ、阿騎くん、顔が戦士の顔になっているわ。戦いは駄目よ」
「ゴブ、止めるの?玲門お姉さん?あの船は故郷を目指している、このままにしておけない、繭の状態で沈める。それに魔族アトロニアが言っていった、魔昆虫は3日しか生きられない。魔昆虫のあの翼では、長距離飛行は無理だ。ここで大木船を沈めれば、後は時間が解決するゴブ」
「ゴブ、過激だな?下の船団はどうするゴブ?回避させるとしてどこに?集合した島まで戻るか?大木船と距離をとり、ドワーフ王の船を待つ手もあるがゴブゴブ?」
「ゴブ、珍しく饒舌だな、コア?」
「ゴブ戦略好きでね。エノン、魔海獣は何匹だ?」
(6匹。大木の右に3,左に3だよ)
「ゴブ、まずそいつを仕留め、大木船を沈めるゴブ。どうゴブ?」
「ゴブ?仕留める方法と沈める方法はゴブゴブ?」
私は素直に聞いてみた。
「6匹は鉄弓機と魔法で仕留めるゴブ。船はボンバーズに頼むゴブ」
え?
「ゴ…なんでボンバーズ知っているゴブ!!」
美観、玲門お姉さん達、爆撃娘、ボンバーズ!
凄まじい破壊力の魔法を行使するゴブリンズ。
私が密かに名付けたボンバーズ、なぜ知っているっ!?
「ゴブ?ホルダー阿騎?エノンから聞いたぜゴブ?」
(エ、エノン?)
私の意思、読んだの!?
(……)
あ、聞こえないふりした!
ボ、ボンバーズは魔法の破壊力を指すものであって、べ、別に玲門お姉さんの豊かなバストの破壊力とか、美観お姉さんの見事にアップされたダイナマイッヒップを指しているモノではない。
「ゴビィィィッィイ!いいい、いたい!いたい!痛いですぅ!」
「ゴブ?元気いいな?ボンバーズってなんだよゴブ?今、ちち、とか、けつ、とか想像しただろう?あん?なんでレーがちちで私がデカいケツなんだよ?」
ひ~勝手に心の妄想、読まないで下さい!
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!
目が向うんです!吸い付けられるのですっ!
男子ってほんと、スケベでエッチなんです(亜紀個人の感想です)
女子魂を持つ私としては、戸惑うことばかりなのです!
「ゴブ、阿騎くうん、ボンバーズの件は後ほど説明してもらうわゴブゴブ」
め、め、目が怖いですぅ!玲門お姉さんっ!
「ゴブ、あなたは指揮するだけよゴブ?いい?何があっても最前線には立たない、約束してゴブ!ホルダー阿騎は指揮に専念すると、戦わないとゴブゴブ」
玲門お姉さんの、真剣な眼差し。
さて、なんと答える?
次回投稿は2022/10/02の予定です。
サブタイトルは、海戦 です。
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