【第79話】 辿り着いた島
「海戦」の前に少しお話が入りました。
島の周囲は2kmあるだろうか?中央付近の木々は大きく、生き物が沢山住んでいそうだ。
なだらかな海岸に接岸し、こちらに向って手を振る幾人かのドワーフとゴブリン。
よく見えるなぁドワーフって夜目、効いたっけ?
美観お姉さんとトモイお姉さん、エノンのコンビネーションで、見事、島に無事着陸する。
これでまた飛べる。
他の船は着水と同時に、球皮を切り離し、船だけの状態になる、海上での球皮の回収は、困難だからだ。
地上に無事着陸すると、球皮の点検ができて再び空に戻れる。
島ではニトお父さんや、ナイダイさんが目まぐるしく動いていた。
「ゴブ!怪我人はこの船に乗れ!メンバー調整が終わったら、順次出港だゴブ!方位磁石と星の位置を確認しろゴブ!帆はちゃんと張るんだぞゴブゴブ!」
「ゴブ、おばばさま!追手はどうゴブ?」
「まだじゃ、ドワーフ達とは念話が繋がらん!島の方角で渦を感じる!まだ交戦中のようじゃ」
夜空ではエノンが警戒飛行している。
(エノン、皆は?他の7名は?)
(黒い霧で遮られているけど、皆無事よ)
「ゴブ、阿騎!無事だったのねゴブゴブ!」
(リュートお母さんも!)
束の間の出会い。
(サイザンは無事かしら?)
!!
(リュートお母さん、お兄ちゃんは無事だよ!次の島か、故郷で会えるよ)
(そうね、ああ、争いなんて無くなればいい!争いは嫌い)
そうだね、お母さん。
「ゴブ、上空へ、また上がるのかゴブゴブ?」
ニトお父さんが尋ねる。
(そうだよ、上から皆を見て、危険とか知らせるね)
「ゴブ頼んだぞ、なるべく着水しないようにしていたが、無理だったなゴブゴブ。俺達ではやはり、この気球のコントロールは難しいゴブ」
「ゴブ、ニト、島から脱出できたんだ、それで良し、としようぜゴブゴブ」
近所で見たことのあるゴブリンが、ニトお父さんに声を掛ける。
両手は木の実で一杯だ。
「ゴブ、ここは小さな島だが豊かだゴブ、水も湧いていたぞゴブゴブ」
「修理する機体はないか?手伝うぞ!」
「ノイモイ!補強してくれ!あと蒸気機関の出力が不安定なんだ」
ノイモイさんは嬉々として走って行く。
メンバー調整と修理が終わると、船は次々と出港した。
怪我人は、ニトお父さんが乗る船に集められる。
お父さんの船は他の船に比べて、少し大きい。薬草も多めに積んである。
「ゴブ、いい薬草があったな、この島は草木が綺麗だゴブ。では阿騎、次の島で会おう。上から頼むぞゴブゴブ」
素早く行動し、出港するニトお父さんとリュートお母さんの船。
(阿騎、無理はいけませんよ。美観、玲門、阿騎をお願いね、それからエノン、あなたはまだ子供です、決して無理をしてはいけませんよ)
(ニトお父さん、リュートお母さん、きっと上手くいくよ!よくなる!大丈夫!)
「ゴブ、リュートさん、大丈夫です、阿騎は必ず故郷へ届けますごゴブ」
美観お姉さんが言葉を返す。
「さあ、俺たちも行くぞ」
ノイモイさんが促す。
(まて、何か来るぞよ、空からだ)
おばばさまの念話が響く。
最初に見つけたのは目の良いトモイお姉さんだ。
それからエノン。
(エノン、魔昆虫?)
(違うよ、阿騎くん)
「ゴブ、1、2、3、3機!飛龍隊が3機こっちに向ってくるゴブ!黒龍が2機に黄龍1機ゴブ!」
3機は島に、倒れ込むように着陸する。
あ!翼が折れた!
黄龍は着陸と同時にバラバラになった。
投げ出されるドワーフとゴブリン。
「いってぇ」呟くドワーフ。さすが頑丈ドワーフだ。
ゴブリンはその身体能力で、すたっ、と大地に立つ。まるで体操選手みたいだ。
問題は黒龍だ!
黒龍の1機には定員オーバーの6名が乗っていた。
いや、しがみついていた。
操縦していたゴブリンは、今にも魔力還元しそうである。
美観お姉さんがコクピットに飛びつく。
「ゴウブッ!大丈夫かっ!今手当をゴブ!」
「ゴブ?これは夢か?憧れのミンが目の前にいるぞゴブゴブ?」
魂魄が剥がれ、ポッポッと魔力の粒子が身体から抜け出し始める。
自分の身体を眺め、死を悟るゴブリン。
「ゴブゥ、ミン、オレはもう駄目だ、後ろの5名を頼む。おい、お前ら、賭けはオレの勝ちだ。ちゃんと島まで飛べたろう?トビトカゲ、一匹づつ持って来いよ」
機体にしがみついていた5名も、傷が深そうに見える。
「ゴブ、ああ、憧れのミンのちち、触りたかったなぁゴブゴブ」
「ゴブ?は?ざけんなスケベ!忘れたか?言ったろ?私を嫁にしたかったら、阿騎と勝負しなゴブ!お前が勝ったら嫁いでやるぜゴブゴブ?」
「ゴブ……ホルダー阿騎と勝負かぁ……無理だな、難題だ……さすが俺達の憧れ、ミンサマだゴブ」
後はもう、何を言っているのか分からなくなった。
すっと進み寄る玲門お姉さん。
彼女は魔力還元が始まり、ボロボロになったパイロットゴブリンの手を握る。
「ゴブ、死を前に、母の乳房が恋しくなったかゴブゴブ?」
そう言って自分の胸に手を導いた。
「……!」
ブワッと拡散する魔力。
衣服と小さな魔石だけが残った。
「ゴブ、レー同情かゴブゴブ?」
「ゴブ、さあ、私にも分からないゴブ」
「ゴブ、レー泣くなよ、私も悲しくなるゴブ……」
「動けるドワーフは飛龍の修理だ、怪我しているヤツは……手当をいいか?」
「ゴブ、いいわよゴブゴブ」
(戦場はどうなっている?)
(ホルダー阿騎!?)
(ドワーフの船はまだ沈んでいなかった。コロ隊長の飛龍隊は俺達と外島の施設を攻撃した。目に見える施設はほとんど壊したが、地下の施設は生きているだろうな)
(飛龍隊は無事か?)
(分からん、何機かは落とされた。メイドンが救助に向っていたから、大丈夫と思う。俺達も助けられたしな)
(他の龍隊は?)
(龍隊は俺達だけだ、後は皆、落とされた。白龍隊の二人も、他の黒龍隊もみな死んでしまった)
(……そう)
(ホルダー阿騎、落ち込むなよ!俺達は思いっきり戦えたのだ、全力で。後悔しているヤツはいないよ)
「ホルダー阿騎、こいつらどうする?空機は直せるが、定員オーバーだ。熱気球に乗せるか?」
(ノイモイさん、何人オーバー?)
(空機2機は修理すれば飛べる。5名余る、ドワーフ4名にゴブリン1名だ。ゴブリンは小さいし、軽いから熱気球に乗せても大丈夫と思うが)
「おい、ノイモイ、俺達はこの島に残るぜ」
「何を言っている?」
「ここで王を待つ。メイドンやエルフも後続だ、彼奴らがいるなら気がつくだろう」
(コースを変えたらどうする?このままよ?)
「心配ない、ホルダー阿騎。木があるから船が作れる。鉄を召喚すれば蒸気機関が作れる」
(でも、島を出てからは魔力が弱っているはず。ゴブリン達は強化されているから、多少弱っても気にしていないけど、ドワーフはどうなの?)
「心配ない、ドワーフは大地があれば生きていける。故郷を目指せ。ノイモイ出発は早い方がいいぞ」
「ホルダー阿騎、行くぞ」
(でも!)
「いいから、行け!」
私は引きずられるように、船に戻された。
考える時間が欲しい!
私の考えは虚しく空転するばかりだ。
次回投稿は2022/10/02の予定です。
サブタイトルは 海戦 です。