【第76話】 故郷へ
フェーズ2、おそらく何らかの攻撃であろう、とは予測していたが、魔昆虫と魔獣による攻撃とは。魔昆虫は数が多いし、魔獣と違って表情が読めないところが怖い!
スズメバチはバラバラになっても数時間動いている。
踏み潰して、死んだと思って近づくと、その毒針でブスリ、と刺されたりする、とんでもない生命力の持ち主なのだ。
小学校の頃、潰れたスズメバチを投げつけられて刺された経験がある。
殴られた!と思うほど痛かった。
倒れた私は、大袈裟だ!とか、死んでいる蜂は刺さない!嘘つきだぁ!とか言われて倒れたまま放置された。
あの時、授業に出ていなかったけど、センセイまで無視してたなぁ。
倒れた私を見つけたのは、花壇のお世話をしていた教頭先生。
救急車呼ばれて大変だった。
ああ、虫にはろくな思い出がない。
きっと、こいつら魔昆虫も、なかなか死なないぞ。
倒しても、近づかないように注意しなければ!
あと、海中にも何かいそうなんだよね、これも伝えよう。
(コロ隊長!)
(魔昆虫の死体には近づくな?虫に詳しいヤツも同じこと言っていたな。分かった周知する!問題は船だ、阿騎、あの船、訓練がまだ十分でない)
(仕方ないよ、援護をお願い)
(飛龍隊、追撃出るぞ!黒龍隊、白龍隊、黄龍隊は船の護衛だ)
(オイ、コロ隊長さん、黒龍隊は12名だが白と黄は2名ずつ、割振りおかしくね?)
(白と黄は速さだけなら飛龍隊以上だ、特に白の2名はお前らだけで、故郷に帰れるらしいぞ?)
(え?)
(ホルダー阿騎が言っていた、お前らは阿騎の魔法の 重ね掛け と組み合わせると、音速を超えるらしいぞ?ただ機体と体が保たないとも言っていたが)
飛龍隊は背中に翼を背負うタイプだが、他の隊、黒龍隊、白龍隊 黄龍隊は復座の空機なのだ。
それは、パラグライダーとハングライダー、軽飛行機の形を私がドワーフに伝え、そのイメージを元に鉄パイプと布で作ったものだ。
風魔法の得意なゴブリンが乗り込み、後ろの座席にドワーフが乗り込むことになっている。
上空より大地の召喚魔法を使い、攻撃できないか、と考えての組み合わせだ。
(ホルダー阿騎、敵の数が多すぎる!用意できた船から順次出航させる)
(敵の数は分かっているだけでも1200よ、急がせて、でも焦っては駄目よ?)
(分かった)
メイドンと魔族アトロニアの攻撃をすり抜けた魔昆虫が、東の御山を攻撃し始める。
追撃が間に合わない。
騒然となる砦。
3m程ある魔昆虫は、そのおおきな鎌の腕でドワーフの硬化皮膚を切り裂く。
「ぐわっ」
飛び散る硬化皮膚、魔昆虫はその大きさに似合わず、恐ろしいスピードで動く。
「ゴブ!ドワーフは下がれ!船へ急げゴブ!」
「ゴブ!ナイダイ!割りが有効だが、こいつら砕けても動くゴブ!」
(小型船を先に出す!早く!)
動けない自分がもどかしい。
私は玲門お姉さんに運ばれ、船を目指している。
(阿騎くん、船まで遠い!)
周りで激しい戦闘が繰り広げられているが、妖精族は圧倒的に不利だ。
魔法攻撃はドワーフの土属性攻撃以外、ほとんどが効果無しである。
土属性の攻撃とは言っても、巨大な岩を召喚し押しつぶすだけだ。
だが、なかなかこれが当たらない、潰れても四肢が蠢き、近くを通れないのだ。
(厄介だな、炎の攻撃で焼けるのは翼ぐらいだぞ!それも折りたたまれると効果が無い!)
(氷の魔法で弱体化している!)
皆、考察いいから、早く船に向って!
(おい、ホルダー阿騎がまだ来ていないぞ?)
(おい!どこだ!?どこにいる美観!)
(村中)
(ナイダイ!何をしていた!)
(おばばさまの避難が先だ!今から向う!)
(俺達が行く、お前はおばばさまを船に乗せて、先に行け!)
時期日が暮れる!日が暮れたら黒い霧を使うはずだ。そうなると念話が使えなくなる!その前に島からでなければ!
大地が揺れる!?
ズシン、ズシンと足音が近づく。
新手!?
「ゴ、ゴブ!な、なに!」
怯える玲門お姉さん。
「レー、阿騎を!」
ブーメランを握りしめ、足音の主を探す美観お姉さん。
「!」
私の視界に入ってきたのは、見たこともない巨大なゴーレムだった!
その頭上には……王さま!
「どうじゃ?重装甲のゴーレムは?いいじゃろ?凄いじゃろ?」
あのトイレットペーパーの芯みたいなボディーは、フレームだけの状態だったのね?
西洋の騎士が使う甲冑みたいな装甲が幾十にも重ねられ、いかにも強そうである。
装甲はよく見ると、巨大なブーメランも混ざっている!
バチンと音を立て、外れるブーメラン。
手首を軽く動かし、次々とブーメランを飛ばすゴーレム。
速い!
直線的な動きが多い魔昆虫は、ブーメランの変則的な動きの急襲に翻弄され、次々に大地にたたき落とされていく。
「魔族、楽しそうデスね?」
「……ああ、弱者に付くと思いっきりバトルを楽しめる」
「魔力が更に下がっていますデス」
「お前もオーバーヒート間近ではないのか?」
猛烈なバトルを繰り広げながら、余裕にも見える会話を交すメイドンと魔族アトロニア。
次々にバラバラになり落下していく魔昆虫。
「冷却が、追いついていないようだが?」
「大きなお世話デス」
「ここは俺が引受けよう、メイドン、お前はドワーフの王の所へ行け」
「何故デス?」
「お前を動かしている魔石の力は、お前だけでは吸収しきれない、オーバーフローしている。ゴーレムのそばに行けば、それだけでゴーレムが動く」
「私がそばにいれば、ゴーレムに溢れた魔力が流れ、島から抜け出せるということデスか?」
「そうだ。それに阿騎達が孤立している、急げ。それとも俺に付き合って熱暴走するか?」
「阿騎さま、どうデス?今の会話?」
(今は敵じゃない、と判断する)
「根拠を求めますデス」
(根拠は、考えたのだけど……ヤベンさんと戦う前と後では、魔族アトロニアの雰囲気、波動が違う。それに脳内の亀さんが良、と言っている)
「?亀?デスか?」
(そうよ、上位存在よ)
めったに喋らないけど。
(上位存在?阿騎さまの上位存在であれば、信用に値します。この場はそちらへ向いますデス。今、どちらデスか?)
(あと少しで溜池に到着よ)
その時、バン!ボン!と破裂したような音が次々に響き渡る。
(メ、メイドン!船が出航する!)
(この敵の数、飛行部隊だけでは防衛は無理デスね)
(だから急いで!一度膨らんだら、遙か上空まで急上昇する!上昇までが勝負よ!)
炎の魔法と氷の魔法、風の魔法で次々に膨らむ球皮。
膨らみきった球皮は、上空へ吸い込まれるように急上昇する。
行け!行け!空へ!
そう、私達が作ったのはバケット部分が船になる、熱気球である。
船は船でもそれ飛ぶ船だ!
目標は高度2000m以上!そこから故郷、南南西へ向けて降下していく作戦である。
次回投稿は2022/09/28の予定です。
サブタイトルは 故郷へ2 です。