【第75話】 フェーズ2
「おばばさま、阿騎くんとは念話でお願いします」
玲門お姉さんがニッコリと言う。
「おお、そうであったな」
ん?
おばばさま、美観お姉さんを見ている?
「戦いの中で死ぬ、それだけが戦士の道ではないぞ?」
美観お姉さんの顔色が変わる。
「ゴブ、死すべき時、死ななかった戦士は、抜け殻だゴブゴブ」
吐き捨てるように言い放つ。
「故郷への道は遠い、これからの戦いにお前は必要なのだ、前を向け」
「なっ!ゴブッ!」
言葉に詰まる美観お姉さん。
「さて阿騎、私を呼んだのだ、どのような難問だ?」
このメンバーの前で話していいものか?
時間が惜しいな、進めるか。
おばばさまのしわしわの暖かい手が、私の手を包む。
(魔族が交渉に来た。名はアトロニア)
(魔族アトロニア!?そう名乗ったのか?)
(ええ、メイドンを助ける代わりに、超空間に住まわせろ、と)
私は仔細を語った。
この島に地下にある魔石のこと、魔王の継承争いのこと、今の私の魔力は、ほとんどが魔族アトロニアから補充されたモノという事実も。
(魔王の夫?魔族は魔力が同等でなければ、決魂はできないと聞いたが?)
(え?)
(相当な修行をしなければ魔力は上がらない、信じがたいな)
(虚偽だと?おばばさま?)
(魔王に匹敵する魔力の持ち主は勇者だけだ。それに、魔族アトロニアは我々をここに連れてきた魔族ぞ、その話、到底受け入れることはできぬ)
(ここに!?ここでの生活の原因はアイツなの!?)
なぜそんな酷いことを?
(我々を改造した魔族はチクリと言う名だが、魔族は魔族、信用ならんな。到底受け入れることはできぬ。が、とは言っても、魔族アトロニアを止める術もない。頼みのメイドンは、魔力切れで止まっておるし、わはははっ!どうしようもない、ということじゃ)
ここで笑う?おばばさま?
「魔族はより強い魔族に従う、他者より秀でようと絶えず努力をしている。ある意味、世界で魔族ほど努力している者達はいない」
(!)
突然部屋に満たされる魔力。
ヤバい!
魔族アトロニアだ!
おばばさまの言うとおり、こいつを止められる者はいない!
「私は下位の魔族だが、意思の力は魔王級だ。だから前魔王と決魂できた。必ずしも魔力が同等である必要はない」
ひ~っ!魔力抑えて!下位?私達にとってはトンデモ上位よっ!意識がブレる!
即座に反応するゴブリンの戦士達。
ナイダイさんの槍に魔力が漲る。
「さすがは対の戦士だな。だが、やめておけ、その槍では倒せぬ」
対の戦士?ああ、ヤベンさんのことか。
「久しいのう、何しに来た?魔族!今度はどこへ連れて行く?」
おばばさまが挑発する。
お、おばばさまっ!誰一人こいつに勝てないのに、挑みますか?
使うか?重速術?今度こそ間違いなく魔力還元するけど。
でも皆の命が危ない、ここが使い時か?
勝てなくてもこのままじゃ……死にたくはないが、仕方ないか?
「連れて行く?よく分かったな?付き合ってやるぞ、お前達の故郷への旅」
は?
「!」
「ゴブ、戯言を!」
「攻撃が始まる。フェーズ2と言うヤツだ、行動は早い方がいいぞ」
「今更なぜ手を貸す?行動が矛盾しているぞ魔族、お前のメリットは?」
おばばさまが問う。
「メリット?無いな、強いて言えば自己満足か?老ゴブリン、得意の精神感応で私を調べてはどうだ?」
「魔族に感応するなど、自爆に等しい」
ぴこぴこ。
!!
信じられない足音が近づいてくる!
目の前に現われるゴーレム。
「さて、魔族アトロニア、どうしてメイドンを復活させたデスか?」
メイドン!!
「必要だからだ」
動いている!?
「質問デス、なにに必要デスか?」
メイドンを動かすほどの魔石?いや、これは……!
「脱出に、だ」
「何故脱出に手を貸す?それにこの魔石、異常デス。どこで入手しましたデスか?」
「前魔王の子供の魔石だ、生まれていれば、最大の脅威になったであろうな」
「あなたには地下の魔石は見えないはずデス、よくこれが取れましたね?」
「問答の時間が惜しい、協力する。それだけだ」
「立脚点が不明デス……あなたの協力は混乱のもとデス。魔族アトロニア、魔力が半分以下デスね?そのままではメイドンに勝てませんデスよ?」
「構わん、殺したければ殺せ、積年の恨みもあろう?」
「では行きますデス、倒せるときに倒しますデス」
「ゴブ、だめ……メイドン……」
「何故です?阿騎さま」
「な、何か来る……ゴブ」
その場にいた全員が、耳を澄ませ、窓に目を向ける。
「ゴブ、なんだあれは?」
ナイダイさんが眉を潜める。
「フェーズ2だ。予定を早めたな、あれは昆虫型の魔法生物、手強いぞ」
小さい点が徐々に増え、黒いシミのようになり、空を覆い始めた。
それは、カマキリのような腕とクワガタのような顎を持っていた。
「腹には毒針も潜んでいる。体内には新たに開発された支配細胞が組み込まれているから、単独で行動が可能だ」
要はリモコン式から自己判断式に変わったのね。
「あいつらでお前達を一掃し、ここで新たな実験を始めるそうだ。それがフェーズ3。どうする?メイドン、初見だぞ?数は1200匹だ。ただし、あいつらの寿命は3日だ、3日過ぎれば自壊する」
!
使い捨ての兵器?
命を何だと思っているの!?
ここで亜紀の思考が過ぎる。
効率的だな、兵站はいらないし、捕獲されても簡単に解析できないだろう。
思っている以上にこれは恐ろしい兵器だぞ。コストはどうなっているのだろうか?こんなのが生産工場でポンポンとできたら?
(こいつらの基本データーはお前達だぞ)
(なぜこちら側についた?魔族アトロニア?)
(私は、ただ子供の魔石の場所が知りたかっただけだ)
ここで念話が切れた。
「出ますデス。皆さんは島からの脱出を!」
そう言ってメイドンは部屋から消えた。
魔族アトロニアも消える。
その瞬間、遠方の黒いシミが炎に包まれる。
高速で動く2つの点が黒いシミと戦い始めた。
メイドン、飛んでいる!?
「脱出を急ぐぞ、全員に連絡を!」
おばばさまがナイダイさんに告げる。
「ゴブ、美観!おばばさまを先に船まで送るゴブ!」
「ああ、阿騎は任せろゴブ!」
私の魔力感知には、上陸する魔獣や魔昆虫の群れが……!
(船が危ない!)
最大出力で周囲に現状を伝える。
一人でも多く、島の外へ!外海へ!
次回投稿は2022/09/25の予定です。
サブタイトルは 故郷へ です。




