【第74話】 ルカトナの魔石
魔石を見つけたその日、ドワーフの王さまの提案で、村長さんとの話し合いが始まった。
要は、あの魔石をどうするか、である。
かなり特殊で危険な魔石であることは、間違いない。
通常では発見できず、何らかの結界が巡らしてある。
なんだ?あれは!?
魔族アトロニアの話を信じるなら、あれは魔王の子供の魔石、相当強い魔石では?
話し合いの結果、危険すぎるので取敢えず放置する。となったが、この島の実験設備と密接な関係があるのは間違いない。
あの魔石の力がこの島を包み、何らかの影響を与えているのでは?
巨大ゴーレムの活動も、この魔石の影響ではないか?
本当にルカトナの魔石?
魔王の子供ってことは、次期魔王の魔石か?
おばばさまに相談してみるか?
魔族アトロニアとの会話を全部思い出せれば良いのだが、半分も記憶できない。
もどかしい!
「ゴブ、阿騎くん、お薬よ、飲めるゴブ?」
「ゴブ、王さまから聞いたぞ、王さまとエノン助けるために重速術を、また使ったんだって?折角体調戻ってきていたのにゴブゴブ」
「……ゴブゥ」
もはや私は、喋れないほどに衰弱している。
魔力は十分にあるのに、この身体では負担が大きすぎて、使いこなせない。
強すぎる魔力の行使は、身体を壊す。
枯れた魔力を魔族から補充して貰ったのだが、はたして良かったのか?
私の力は、ゴブリンが使える魔力を、上回っているのだ。
今、私を看病しているのは、美観お姉さんと玲門お姉さんの二人。
エノンはあれから見ていない。
介護のローテーションから外れたみたいだ。
リュート母さんとお姉さんズ、それと近所のおばさま達が私のお世話をしてくれている。
時間をかけ、やっと薬を飲み干す私。
(ありがとう、玲門お姉さん)
(お礼はいいから、早く元気になって!)
お姉さんは涙目である。
そしてちょっと、怒っている。
(怒っていませんよ)
え?
そう言って、私の服を脱がし始める。
(え?あの?ちょっと?)
(払拭してあげる、気持ちいいでしょう?)
ほかほかのタオルで、全身を綺麗にしてくれる玲門お姉さん。
薬の作用で汗が大量に出るのだ。
汗からは薬草の臭いもするし、恥ずかしいな。
え?あの!ち、ちょっと!ちょっと!
あわわわわっ、そ、そこは……え!!そ、そこも拭いてくれるの!?
そ、そこはリュートお母さんしか駄目だっ……てぇ……あん!
心臓、大丈夫かな?
心拍数、急上昇だよ!
(しかし、そんな危険なモノがこの島に埋まっているのか?聞いたことないぞ?)
(私もよ、魔力感知にも透視にも反応しないなんて)
玲門お姉さんは、お喋りしながら的確に私の身体を清掃していく。
(攻撃は、王さまの魔層で弾いたらしいが、阿騎が重速術で皆の意識を戻さなかったら、死んでた、って話だ)
あの攻撃は機械的だった、あれは近づくモノを無差別に攻撃する何かだ。
(王さま、だいぶ反省しているみたいね?エノンちゃんも落ち込んでいたし)
(自分達ドワーフが、鉄の召喚や加工で、この島には詳しいと思っていたんだろうよ、慢心だな。軽率すぎる!私が思うに、その魔石は上位存在だな、だから私達には今まで見えていなかったし、感じることもできなかったんだ)
今はもう、ある、と認識できたから皆、感じることができる。
これが厄介で、意識を近づけすぎると、攻撃対象になり、精神攻撃を受けることになる。魔層を使っても回避は無理で、重速術が使えないと餌食になる。
従って、一度攻撃されると回避する術はなく、必死となる。
ほとんどの妖精は魔層も重速術も使えないから、あの魔石に意思を向ける者、感応する者は皆無である。
あ、魔層とは魔力の障壁、壁の層で、魔法攻撃、物理攻撃を緩和、もしくは無効化する便利な術なのだ。
なのだが、これにもレベルがあるらしく、王さまの魔層は攻撃を弾いたが、こちらの魔層も砕けた。そこで私は重速術を使い緊急回避したのだ。
結果、私は更に身体を壊し、王さまは精神ダメージを負い、護られたエノンは落ち込むという事態になった。
(さあ、綺麗になりなりましたよ、どうですか?)
(眠たくなるほど気持ちよかったです、ありがとう玲門お姉さん!)
にっっつつこり微笑む玲門お姉さん。
ほんと、嬉しそう。
(私の肩に手は回せますか?着替えをしますけど?)
私は腕も上がらない。
(無理です)
すると私を抱きしめるように動かし着替えをしてくれた。
ここまでしてくれる女性に、エノン、どうしています?とは聞けない!
玲門お姉さんは私を、夫として扱っているように見えるからだ。
リュートお母さんが、ニトお父さんにお茶を渡すとき、凄く綺麗な癒やしの波動を見たことがある。
同じ波動がお姉さん達から出ている。
他のゴブリンの夫婦も、時々綺麗なオーラを出している。
愛情が目で見える?不思議な感じだ。
因みにラグナルや魔獣は黒い煙のようなドロドロした感じのオーラだ。
見たくもないし、感じたくもない。
私はこの優しいお姉さん達に対して、どんなオーラを出しているのだろう?
(あの……お姉さん)
(なに?)
(おばばさまを、呼んで欲しいのですけど)
(……)
ん?んん?顔を近づけていたけど?な、なに?
玲門お姉さんは、私の耳元に口を近づけた。
「ゴブ、分かった、呼んでくるね」
と囁いた。
かぷ。
「ゴビッ!」
みみみみ、み、み、耳!噛まれた!
ささっと部屋を出て行く玲門お姉さん。
「ゴブ、姉の前で大胆な妹だなゴブゴブ」
「……」
し、心臓が爆発しそうだよ!
え?美観お姉さんも近づいてきた!
な、なに?なに?怖いんですけど!
ギラギラする濡れた瞳が私を捕らえる。
ゆっくりと顔を近づけてくる。
そして、私の鼻とお姉さんの鼻がくっつく。
(あ、あの、お鼻がくっついて、いますけど?)
(なぜ私を助けた?私は覚悟していたのだ、もう魔力還元すると)
!!
(そ、それは……リュートお母さんを助けてくれたのでしょう?)
(いや助けていない、守り切れなかった)
(それでも助けようとしてくれたのでしょう?)
(……リュートが死んだらお前が悲しむと思ってな、悲しいお前は見たくない)
(それは私だって同じだよ!私達の寿命は5年だけど、誰も死んで欲しくない!)
(今まで、誰一人帰ってこなかった。お前達は、お前は帰ってきたのだな、私やリュートを助けるために、あの死の塊みたいな研究所から……死ぬはずだった私を、生かしたのだ、責任取れよな!)
そういって美観お姉さんは、私の唇を口で塞いだ。
え!?
舌が侵入し、私の口腔内を蹂躙した。
動けない私は、美観お姉さんのなすがままである。
うう、ひどいや、私動けないのに!
「ゴブ、泣いても許さないゴブ!お前は私の死を止めたのだ、死を覚悟した私の思いを返せゴブ!責任必ずは取って貰う!忘れるなゴブ!」
近づく足音。
この足音はナイダイさんと玲門お姉さん、そして、おばばさまだ。
さっ、と身を引く美観お姉さん。
「それで、話とは何だ?」
おばばさまが問う。
次回投稿は2022/09/23の予定です。
サブタイトルは フェーズ2 です。