【第73話】 ダークな力の場所
(阿騎!速く戻る!すぐ戻る!)
魔石を囲む結界が反応し、黒い染みのような何かが広がり始める。
(!)
攻撃的な何かが向ってくる寸前、王さまがその強靱な魔力の層で私達を護った。
護った!?
え?層が割れた!?
黒い何かは巨大な手と化し、私達を握り潰そうと更に迫ってくる!
ヤバい!
ドンッ!
重い霊音が響き、部屋全体が軋み、揺れる。
肩で息をするドワーフの王さま
「すまん、許せ、軽率であった、無謀であった。まさかあのようなモノが埋まっていようとは」
私の手を振り払い、蹲るエノン。
涙を流し、震えている。
ごめんよ、エノン。
怖い思いをさせてしまった。
私には手に見えたが、王さまやエノンには、もっと恐ろしいモノに見えたはずだ。
嫌われたな、これは。
危険に晒してしまった、小さい子供を。
ドタドタと騒がしい足音が近づいてくる。
「ゴブ!だ、大丈夫か!」
飛び込んでくるコロ隊長。
(阿騎!何があった!?ちび共が全員泣き出して倒れた!)
あああ、どうしよう!?
みんなアレを見たのね、あれからの攻撃を感じ取ったのね。
何から話そう?
取敢えず、村長さんを呼ぶか?
島の秘密の一部が解けたみたいだ。
が、私の考えはそこまでだった。
魔力を使ったせいか、疲れ果て、そのまま意識を失った。
あれは、あの攻撃と魔石は何だったのだ?
ふっと気がつくと、青い空が広がっている。
目の前には日本庭園。
あ、ここは超空間、夢の世界だ。
見渡すと、亀さんが甲羅干しをしている。
鶴の姿は見えない、どこだろう?
もちろん、魔族アトロニアの姿も見えない。
ここでは、私は自由に動ける。
現実の私は細胞が痛み、動けない状況だが、夢体の私は相変わらず絶好調である。
亀さんを見ながら考える。
あの魔石はなんだろう?
凄く強い魔石だ、島全体に影響を及ぼしている。
魔石は妖精族や魔族が体内で作られる、と聞いたが、あの魔石は誰が作った?あれだけの影響力、魔族の幹部クラスではないか?
!
超空間が僅かに揺らめく。
「魔石が見つかったと聞いたが?」
「ここは私専用の場所なんですけど?」
「亀の許しを得ている」
「!」
亀さん!
亀さんはちゃぽん、と水音を立て水中に消える。
に、逃げた!?
「取引がしたい」
「突然なに?取引?私達を苦しめている魔族のあなたと?」
「そうだ」
「魔石?」
「……何故、魔石と分かった?」
「あの魔石は強すぎる、危険よ?私達では扱えないわ。あなたならば使えるかも知れないけど」
こいつがあの魔石を手に入れたら?何に使う?
魔族アトロニアを止める術はないし、こいつが魔石を手にするのを黙ってみているしかないか?
「あの魔石をメイドンにプレゼントする、どうだ?あの魔石なら多少無理してもメイドンは止まることはない。魔石の力もメイドンに封印され熱変換し浄化する。今、メイドンの知識や力が必要なはずでは?悪い話ではあるまい?」
「条件は?」
魔石に見合うモノなんて、妖精族にある?
それにあの魔石、メイドンに使って支障ないのかしら?
「条件は、ここに住まわせてほしい」
「……は?」
「私は力の半分を、お前に譲った。私は下位の魔族にも勝てない存在になった」
何言ってるの!?ここに?ここ私の夢の中なのよ!
私の脳内住人になると!?
「メイドンに使えるの?それにここは私の夢の中よ?私の脳内住人になるつもり?何を考えているの?デメリットが多すぎない?だいたい、あなた、あの魔石を見つけられなかったのでしょう?ならば、あなたはあの魔石より下位の存在!触ることできるの?」
「あの魔石と私は相性が良い」
「なぜ分かる?」
「あの魔石は私の子供、ルカトナの魔石だ」
「え?」
子供?誰と誰の?
アトロニアって女性?違う、このオーラは男性だ。
そもそも魔族ってどうやって増えるの?
男女の営み?
「私はルカトナの魔石を探していたのだ。だが、下位の私はその存在を感じ取ることもできなかった。お前達には感謝している」
「お父さんなのに、子供の存在が感じられない?」
「ああ、妻が私より遙か高みの存在だったからな」
「奥さん?」
「先代魔王メッシュ、私の妻だ」
「えっ!?」
「彼女は下位の私を気に入り夫とした。メッシュは戦いを好まず、人族、妖精族、外界への干渉を制限した。戦い好きの魔族の戦いを制限したから反乱が起きた。まあ魔族は基本、強いモノに従う。そこで今の魔王と戦い敗れたのさ」
「その時、あなたは何をしていたの?」
「真っ先に今の魔王に戦いを挑んだが、俺は下位の魔族だ。一太刀で倒され異界に飛ばされた。帰ってきたらもう先代は、過去の魔王になっていたのさ」
「その話を信じろと?」
「基本、魔族は嘘を言えないぜ?嘘をつくのは人族と妖精族だ」
「あなたを私の脳内に、住まわせることはできない、無理よ」
「……そうか、また来る」
魔族アトロニアはそう言って消えた。
次回投稿は2022/09/21の予定です。
サブタイトルは ルカトナの魔石 です。




