【第71話】 ゴーレムの両親
王妃の死は、瞬く間に砦中に広がった。
魔力の高い者は、王妃の死を直ぐに感知したのだ。
低い者も異変を感じ、砦の住人は、ドワーフの王を心配し始めた。
全ての住人達が列を成し、ドワーフの王さまに会いに来た。
ドワーフの王さまの人徳?
きっと皆、この王さまが好きなのだ。
「王よ、まだ逝くな、故郷への帰還はどうした?」
「今まで王妃に付き合って苦労したのだ、死まで付き合うな」
「ゴブ、これから皆で帰るのではなかったのかゴブゴブ?」
それぞれの思いで王を繋ぎ止めようとする住人達。
時間にしてどのくらいだろうか?
お兄ちゃんが青3番を連れてきた時には、もう身動きできないほど部屋はゴブリンとドワーフでいっぱいになっていた。
小型の青3番とお兄ちゃんが部屋に入ってくる。
左右に割れて道を譲るゴブリンとドワーフの妖精達。
妖精達がどんなに声を掛けても、王さまの悲しみは止まらない。
硬化した皮膚鎧は、どんどん壊れていく。
無理かな?ドワーフの王さまには、死んでほしくないな。
そんな王の悲しみを止めたのは、お兄ちゃんと青3番だった。
「ゴブ、王さま、青3番来たよゴブゴブ」
「サイザン、ワシは思っていた以上に王妃が好きだった、らしい。ワシ本人でもこの気持ちは止められぬ、ようだ」
「オウ」
「青3番、お前達をこの島から外に出して、自由にしてやりたかった」
「ゴブ、王さま、青3番達を作ったのは王さまなんだよねゴブゴブ?」
「ワシだけではない、皆で作った。砦の皆で」
「故郷へは連れて行けないのゴブゴブ?」
「大地から作ったゴーレムは、大地から離れることはできない」
「ゴブ?どうして?」
「ゴーレムはここの大地から力をもらって動いている。離れたら繋がりが消える」
「ゴブ!ここに置いて、僕たちだけ帰るのゴブゴブ?」
王さまは答えない。
「ゴブ、王さま達が作ったのなら、王さま達は、お父さんとお母さんでしょうゴブゴブ?ひどいや、ちゃんと連れて行ってよゴブゴブ!」
青3番はじっとお兄ちゃんを見る。
「オウハ、パパカ?」
「うん、王さま達が作ったから、パパだね」
「ママハ?」
「お母さんも、王さまだよ!」
そして王を見る青3番。
チカチカと頭部のセンサーが光る。
マウス状の頭部に表情はない、ないのだが……。
「パパ?ママ?」
「!」
この素直な一言で、崩れ出していた硬化皮膚の自壊が止まった。
驚いたのは王である。
「心が変わった!?空しさが止まった!なぜだ?」
ドワーフは子煩悩だ。子供を残して魔力還元なんてできないのだろう。
魂と意思が、壊れていく魄を止めた瞬間だ。
王さまは床に刺さる剣を見る。
私を仕留め損ねた剣。
王さまの表情は複雑だ。
「王妃、まだ逝けない。私には他に行くところができた」
私は王の言葉を聞き、安心したのか、深い眠りに落ちていった。
王妃を支持し、共感したドワーフ達は大半が魔力還元した。
彼らにとって、王妃は心の支え、全てだったのだろう。
私達は彼らの魔力還元を、一部しか止められなかった。
王妃はこの現実を、どう思ったろう?
「ゴブ、阿騎?起きているかゴブゴブ?」
私を心配そうにのぞき込むコロ隊長。
王妃との一戦から2日が過ぎた。
私は今だ動けず、自宅で休養中だ。
魔力は十分なのだが、身体が上手く動かせない。
もしかしたら、このまま回復しないかも知れない。
そんな思いが、つきまとい始めた。
「ゴ、ゴブて、手を」
私の手を握る。
(お願いがある)
(……次はなんだ?)
(サナさんとお母さんが小型の船を作っている)
(おい、サナは分かるがリュートさん?)
コロさんは私のお母さんをリュートさんと呼ぶ。
(場所は裏山の溜池で、動かし方は二人に教えてある。だけどあの二人では動かせなかったらしい。コロさん、お願い!)
私はイメージをコロさんに送る。
(!)
(どう、この船?これ?凄いでしょう?)
(動くのか?これ?)
(最終的には8人一組で動かす、人選と訓練をお願い。訓練が終わったら故郷を目指す!)
(8人一組?組み合わせが難しいな、風を得意とするヤツがいないと、これは動かないだろう)
(そう、故郷に向うには風が必要なのよ!蒸気機関だけでは無理がある)
(……わかった。早い方がいいな、ああ、大きい船は明日完成らしい、中型はまだだが)
コロさんは裏山の溜池に向い、船を動かす訓練をする。
そして8人一組を作り指導を始めた。
対象は全住人。
故郷へ向けての脱出が大きく動き出す。
「阿騎いたか?大丈夫か?」
王さまのお見舞、何回目?
いや、相談だろう。
「ゴブ、お、王さま、手……」
掠れる声、震える手。
私は歩くどころか、喋ることも苦痛になっていた。
回復が見込めない。
あれから幾日経ったであろうか?
メイドンは魔石が割れ、動かなくなった。
オーバーロードだ。
本来なら、過負荷前に防御の塔を組上げ、魔力の回復を待つそうだが、今回はできなかったみたいだ。
体内に魔石を合成するそうだが、どのくらい時間が掛るのか分からない。
度重なる連戦でメイドンはエネルギーを使い切ってしまった。
協力するって言ったのに!メイドン!ちゃんと考えて行動してよ!
困ったことがあったら、何でも直ぐに言ってよ!
エネルギー、切れそう!とか!
だけど、あの時、メイドンが動かなかったら、お兄ちゃんはどうなっていた?
やはり、メイドンには感謝だな。
「ゴブ、王さま、阿騎くんの手を握って下さいゴブ、念話が少ない魔力でできます」
そっと手を握る王さま。
「ゴブ、阿騎くん、うち、いた方がいい?それとも席を外そうかゴブゴブ?」
ちびちゃんズの一人、エノン(絵音)。
布作りに忙しいお母さんの代わりに、私のお世話をしてくれている。
この女の子はとても献身的なのだ。
もう一人のリュートお母さん、と言っても過言ではない。
この子の親切に私は、いつも戸惑いを覚える。
私は親切にされた記憶があまりないからだ。
他人は私をいじめる妖怪だったし、憎悪の対象だった。
暴力の記憶が親切の記憶を上回っている。
ごめんよ、エノン!
ああ、素直に感謝すれば良いのだが、表現が分からない。
ありがとうを何回言えば、感謝が伝わる?
動かない私の身体で、なにがしてあげられる?
前世の記憶が邪魔をする!ホント邪魔!この記憶!
いや記憶があってもなくても、この親切は忘れず、必ず何かをエノンに渡さなければいけない。
何を渡せばいいのか……。
次回投稿は2022/09/17の予定です。
サブタイトルは 島の謎 です。




