表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/406

【第70話】 ドワーフの思いと死

「!?」


 鳥の鳴き声?

 鋭くも美しい声が響く。


「魔族の俺が、このような美しい場所に滞在できるとは」

「何しに来たの?」

「お前が呼んだのではないのか?」

「私が!?呼ぶと思う?」

「では誰が?」


 ん?警戒している?


「知らないわよ、でも、私にお話があったのでしょう?」

「ああ、そうだ。しかし夢体のお前に話して、ゴブリン阿騎は覚えているのか?」


 夢の世界に詳しい?


「さあ、どうかしら?でも私も亜紀よ?お話ってなにかしら?」


 必要以上に情報は与えない。相手は魔族だ。


「あの鳥は、とても仲が良い」


 鳥?ああ、鶴のこと?


挿絵(By みてみん)


「2羽で必ず子育てをする。鳥族は一年だけのつがいが多いのだが、あの鳥はよく同じ鳥でつがいになる。中には決して他の鳥と番いにならない者もいるのだ。事故や病で片方が死んでも、健気に待ち続ける者もいる」


 え?鶴ってそんな鳥なの?

 私、数学専門だったし、ああもっと他の勉強もすればよかった!


「ドワーフはもっと凄いぞ」

 

 ?


「ドワーフはつがいの一方が死んでしまうと、残った者も死んでしまう。子供が死んだドワーフは悲しみの余り、枯れるように親も死んでしまう」


「なっ!ほ、本当なの!?」


「嘘をいってどうする?両親が死んだドワーフの子供は、親を探し続け、消えるように死んでしまう。だからドワーフは、生き残った親や子供に、全力で愛情を注ぐ。魔族は、そんなドワーフを理解できない。魔族は無償の愛を笑う、意味が無いと」


「アトロニアも笑うの?」


「昔は笑っていた」

「今は?」

「笑えなくなった」


 この魔族、何があった?


「王妃が魔力還元した。王も時期、還元するだろう」

「なっ!そんな!」


「心配か?」


「あたりまえでしょう!」


「ドワーフとはそんな妖精だ。始めは硬化した皮膚が割れる。更に悲しみが進むと、食べ物を食べなくなる。腕力、視力、聴力が衰え、枯れるように魔力還元する」

「どうにかならないの?」

「俺が聞いた話では、心が癒やされると、助かるらしい」

「心を?どうやって?人それぞれでしょう?」

「思わぬ言葉がパスワードになって、助かることもあるそうだ」

「家族や親友の言葉が届きやすいのかしら?」


「さあな、答えはない」


 ドワーフの魔力還元は、止めようがない?


「お前の家族の話が聞きたい」

「え?聞いてどうするの?」

「同じ名前に興味がある」


 同じ名前か、それはアトロニアか?それともルカトナのことか?

 プログラムと言っても分からない?言葉を換えて話してみる?


「ローロンサとルカトナとアトロニアは、方向性を持った数字の集合体なの、分かる?」

「まったく分からん」


 ……さもありなん。


「ゴーレム?が一番近いかな?」


「ゴーレム?メイドンか?」

「そうね、似ているかな?ルカトナは特に弱い者いじめが嫌いで、時々世界に干渉していたし、ローロンサは人の世界に紛れ込んで遊ぶし、アトロニアは……」


 ん?今、魔族の耳が動いた?


「アトロニアは?」

「クールで冷静だった」


 おい、今ニヤついただろう!

 魔族も笑うんだ。

 そんな存在がなんで、こんな酷いことを。


 ん?顔が、曇った?

 思考を読まれた?


「ルカトナは弱い者いじめが嫌いなのか?」

「ええ、大嫌いだった。容赦なし!あなたこそ、弱い者いじめしていない?と思うくらい容赦なしだった。徹底していたな」

「そうか」

「あなたの知っているルカトナはどんな魔族なの」

 同名の魔族について聞いてみた。

「知らん、知っているのは名前だけだ」

 ?

「知らないって……?」

 知らない魔族を探している?

 どういうことかしら?


 アトロニアに問いたいが、答えてくれるかしら?

 彼は私を見つめた。


 そして沈黙した。


 鶴が甲高い声を上げる。


「ゲートが開いた。ここに封印されると思ったのだが?」

「封印?魔族のあなたを?」

「気づいていないのか?ここでは、お前の方が俺より上位だぞ?」

「え?」

「戦えば、この空間は壊れるが、確実に私を倒すことができる」

 

 ほ、本当かしら?


「本当だ、試してみるか?」

「今、思考を読んだでしょう?私が上位存在なら、読めないはずよ?」

「いや、読めるぞ、お前は私以上の力の塊だが、使い方が分かっていない。」

 

 段ボール箱をイメージする。


「……見事だ、どこへ消えた?私にはお前が見えないし、存在も感知できない」


え!?


「ここは心地よい場所だが、恐ろしい場所でもあるな、また来る。亜紀、お前ならば王の魔力還元を止められるかもしれん」


 そう言って魔族は目の前からふっ、と消え去った。


「何しに来たの?あの魔族?」


 ここで違和感に気づく。

 あれ?使い切ってしまった魔力が?

 先の戦いで空っぽになっていた魔力が、満たされているのだ!

 

アトロニアの仕業か?

 でも魔族が何で?


 チャポン、と池の方から水音が響く。

 甲羅干しが終わったのか、亀が器用に水中を進んでいくのが見えた。


 亀に目が吸い寄せられる。


〈王を必ず助けよ、忘れるな〉


 !


〈ここに住んで居るのは、ローローとネーネーだけではないぞよ〉


 え?


 がはっ!

 どこだ、ここは?

 ゲホゲホッ!

 誰だ?女性か?人ではないな?

 綺麗な瞳だが?


 あ!


 意識の焦点が合う。

 玲門お姉さん!

 その大きな目からボタボタと大粒の涙が落ちてくる。

「ゴブゥゥよ、よかった!戻った!意識が戻ったゴブ!」


 か、亀さん、覚えているよ、ちゃんと。


「れ、玲門……さん……ゴブ、あり、ありがとうゴブ」

 

 体中が痛い、動けない!王さま!


「ゴブ、お、おうおうさま、おうさま」

「ゴブ?おう?王さま?」

 こくこく。

 ドワーフの王さまが視界に入る。

 硬化した皮膚の鎧に、罅が目立つ。

 パキン!パキン!と割れていく皮膚。


 サナさん?


「阿騎、王は悲しみに包まれている、俺達の言葉はもう届かない」


 そんなことはない!


「ググ、お兄ちゃん、あ、あお、青3番、青3番呼んでゴブ!」

「ゴブ、わかった阿騎、王さまに会わせるんだね?」

 こくこく。

 さすが王さまのダチ、話が早い!

 誰かが私の手を握る。

「ゴブ!阿騎くん、無理しないでゴブ!うち、心配で、心配で!」


 あ、この子とは繋がりやすい!


(ありがとう、皆の結界で魔力の流出は少しで済んだよ!私はもう大丈夫だから、今度は皆で王さまを励まして!王さまを助けて!ゴーレムが悲しむ!)

 

 一番に反応したのは男の子達だ。

(ゴーレム?)

(ああ、ゴーレムは王さまが大好きだからな)

(王さまだってゴーレムが好きよ)

(すんごい自慢して俺達に説明していたしな!)

(相思相愛だね)

 私は握られた手を握り返した。

「ゴビッ!?」

(あああああ阿騎くんが私の手をぉっ)


(聞いて、ゴーレムは何故か、この島から出られない)


(出られない?)


(島から脱出する時、このままではゴーレムを連れて行けない)


(え?阿騎くん?置いていくの、ゴーレム?駄目だよ!こんなところに置いていけない!)


(作った王さまなら、その秘密が解けるかも知れない。それに故郷には王さまの友達、友人、知人が沢山いるはず!王さまは、王さまとして、やるべきことがまだまだ沢山ある!ここで死んではいけない!)

次回投稿は2022/09/14の予定です。

サブタイトルは ゴーレムの両親 です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ