【第6話】 友達からの連絡
「お友達から連絡があって、それで知ったのです」
「お友達って?」
「はい、秋津川さんを助けてほしいって、頼まれて……」
沈黙。
誰だ?自慢じゃないが私に友達なんていないぞ?
沈黙。
藤木さんの目が鋭くなる、と同時に頬が赤く染まり出す。
な、なに、この複雑な表情?
あの、質問しづらいんですけど?
しかし、ここははっきりさせないと。
私は乾いた声で質問した。
「だれ?その人?」
「……」
き、聞こえない!
「……です」
「え?」
「ローロンサ様です」
「ろ……?」
ロ……はあああああっ!?
なんですと!ローロンサ?なんでローロンサを知っているの?
何故ここでその名前が出てくる?それに友達って!様?さまって!
「私は彼に何度も助けられています(電脳世界で)命の恩人です(MMORPG等で)その彼のお願いです、断れません(断ったらパーティー解消と言われた)今までどれだけお世話になったか(主にボス戦、フルレイド他)」
「そ、それってどういうことかしら?」
私は、かなり引きつった顔で聞いた。あいつロリロリだったのかっ!リアルに干渉しすぎだろ!まて、いったい何処で知り合ったの?いろんな意味で許せん!
「私が聞きたいです!ローロンサ様と一体どういうご関係なのですか!」
必死の形相で詰め寄られた。
え?ええ?!……な、なんて答えよう?
藤木さんの真剣な眼。
……きれいだなぁ
あ、ちょっとドキドキ。
その時壁に掛けてある巨大なモニターからピコン、と音がした。
「アキ、大丈夫かい?」
聞きなれた声、ローロンサだ。
「…アキだなんて(ジェラ87%↑)」
藤木さん、『そんなっ!親しすぎよ!』って顔しないでっ!
「ローロンサ、ここで説明できるか?」
「できますよ」
「ゲ、ゲーム界の神、ローロンサ様を呼び捨てにするなんて…(ジェラ97%更に上昇中↑)」
モニター内に綺麗で壮大なCG風景が流れる。まるで映画だ。画面が反転してステータス画面が現れる。
そこには金髪で長髪、きりりとしたアニメの主人公のような美青年が立っていた。長剣を腰に提げスマートな鎧を身に纏っている(誰が作ったこのキャラ!ちょっと恥ずかしいぞ!)
「俺は自分のスペックの確認と、人の感情を勉強するためにここに住んでいる」
「いつから?」
「このゲームがアップした時からかな」
ピンッ閃いた!
「開発にも手を貸したでしょう?裏から」
「コメントを差し控えさせていただきます」
世界最高峰に属するAIが何しているの?いや、らしいと言えばらしいか?
あの校長先生が創ったAIだし(校長先生は時折、OAI、オーバーAIとも言っていた)
ローロンサがモニター越しに感謝の言葉を述べる。
「藤木さん、ありがとう感謝している。本当にありがとう。亜紀を助けてくれて」
思い詰めたようにステータス画面を見る藤木さん。
「ロ、ローロンサ様、あなたのお願いですもの。でも宜しければ私も『まどか』と呼んでください。あなたとはもう何年ものお付き合いではないですか……」
フリーズするローロンサと私。藤木さん、涙目だ。それにお顔、真紅ですよ?どうするのローロンサ?女の子の願いよ?
ローロンサは人を呼び捨てにしない、いやできない。
ちゃん、さん、くん、様、敬称を必ず付ける。
校長先生の教えである。
これには身内も含まれている(校長先生だけに名前の扱いに厳しいのだ)
呼び捨てや、あだ名の許可が出来るのは、マスターの私だけだ。
モニター内のローロンサが、助けを求めるように私をちら見する。
おい、ステータス画面でプレイヤーと眼が合うのって、おかしいでしょう?それに藤木さん、ステータス画面に告るのも、いかがなものかと……。
見つめ合う私とローロンサ。どうする?
「そ、そんな、眼と眼で通じあうなんて……この二人……(ジェラMAX!)」
ローロンサ、今、光の速さでシュミレーションしているな、さて何と答える?私が、許可するのは分かっているはず。
「そうだな……藤木さん、ならば『秋津川さん』ではなく『亜紀』と呼んでくれ。そう呼んでくれるなら俺も君の名を呼ぶよ」
「え……(秋津川さん、どれだけローロンサ様に思われているの?妖気+ジェラ+殺意↑↑)」
え~何この展開、なに二人で盛り上がっているの?まどかさん、顔赤くなったり、青くなったり、それになにやら黒い妖気も漂い始めたような?
ローロンサってスケコマシ?(注:小さい子がそんな言葉使ってはいけません)
藤木さんは濡れた瞳で私を見てもじもじしている。かわいいなぁ、私が同じ仕草をすると、何処からか何か飛んできそうだ。
「ローロンサ、呼んであげて。私を助けてくれたのよ。今もお世話になっているし、衣食住、怪我の治療も……美味しいご飯だって」
そう、全てお世話になっている。彼女の両親はとんでもない資産家で、一人娘のまどかを非常に大切にしている。どういう訳か、私のことを気に入り、滞在を許し、更に新品の眼鏡も購入、壊れた眼鏡の修理までしてくれている。
一応、後でローロンサにこのお屋敷の詳細を聞いてみたが、なんと部屋数20、プールにテニスコート、メイドさんも3人ほどいるらしい。
私、場違いじゃね?早く元気になって退散するとしよう。
「あ、あ、亜紀さん……これでいいかしら」
亜紀さん、か。
こんなに優しく名前で呼ばれたこと、私、初めてかも。
この気持ちに応えなければ。
さて、どうしよう?ここは強気で。
「……ねえ、まどか、このゲーム、私も参加出来ないかな?教えてくれる?(+上目遣い)」
「!!!!!えっ、え、え?」
「私が住んでいる施設、ゲームとか無くて、教えて、お願い!」
「い、いいわよ、教えてあげる!ああ亜紀(妖気+ジェラ+殺意⇣)」
そこにローロンサが口を挟む。
「まどか、彼女を俺たちのパーティーに招待しないか?」
「!(まどか、彼女を俺達のパーティーに招待……まどか、彼女を俺達のパーまどか、俺たちのパー×∞以下略)」
まどかは泣きながら笑いながら、そうね、そうしましょう!と何回も言った。
ローロンサに名前を呼ばれて余程嬉しかったのだな……いやそれだけか?
その夜、怪我の痛みも忘れるほど三人でゲームに熱中した。凄く楽しかった。
こんなに楽しかったのは生まれて初めてだと思う。
忘れられない思い出の一つだ。
結局、ローロンサが何者なのか、まどかは一度も聞くことがなかった。それは今でもだ。
翌日、まどかが登校している時、彼女の両親に改めて挨拶をした。
私は自分のことを包み隠さず紹介し、感謝の言葉を両親に贈った。
両親はそんな私を見てまどかのことを話した。
遺伝子の異常で髪が抜けだしたこと、20歳まで生きられないと医者に告げられていること。
出来るものなら、変わってあげたい、と両親は綺麗な天井を見つめて呟く。
藤木家特有の病らしく、数十年に一人か二人、一族に現れるそうだ。
私の周りは、いじめや死が渦巻いている、この時私は思った。
何時か、私もその渦に巻き込まれるのだろうか、と。
死は誰にでも訪れる。でも願わくは、遥か彼方で待っていてほしいものだ。
私はローロンサを呼び出し、詳細を聞いた。ローロンサはまどかの病気のことを知っていた。さらに治療も延命も出来ないという。アトロニアとルカトナにも聞いたが、答えは同じだった。
どうにか出来ないか?せっかくできたお友達だ。
そこで私は閃いた。
膨大な情報を管理するAI、選択や予想でその能力を発揮する。彼らは発想、閃きが苦手だ。これらを克服出来れば、新しい視線で行動出来れば、もしかしたら、まどかの病気も治せるかもしれない。
閃きを擁するAI、いや閃く時点でAIではないな、人工意志とでも言うか?
「ローロンサ、アトロニア、ルカトナ、命令」
「「「イエス、マス・ター」」」
「え?あの、まだ内容、伝えていないんだけど……」
「「「マス・ターの命令にNOの選択はない」」」
感動する私。
なんか私、偉そう?
そして、なんか涙でそう。
「今から私が、校長先生から譲り受けて創っている、プログラムを解放する。これをベースに人口思考、人工意思を完成させる」
「危険では無いのか?人類や我々に、制御は出来ない存在になる、可能性がある」
「そうねルカトナ、でも私は人類よりも、まどかが大事なの。躊躇いはない。協力、いいかしら?ってもう返事は貰っていたわね。今からスタートよ、用意をお願い」
こうして『ナツ』の開発が始まった。
次の投稿は5月26日を予定しております。