【第64話】 故郷への遠い道2
減速!減速!風魔法を使うが、これが難しい!
こんな高いところから落ちたら、下は池でも大変だ!
着水速度、時速100㎞以上はある!
げんそくううううう!
風魔法!風魔法!
周りの空気が私に向って移動する。
ん?移動している?
風は感じるが、見に見えず、音だけなので怖さは半端ではない!
ひ~~~~~~~~っ!
まにあってぇええええっ!
げんそくしているのおおおぉぉぉ?
ドボーン。
あ、重速術使えば、余裕で回避できた?
気づいたときはもう遅い、世の中のあるあるだ。
「ゴブ、何をしたいのだ?あいつは?」
呆れるコロさん。
「飛んだぞ?鳥になりたいのか?」
呆れるエルフさん。
「強度は十分のようだが、軽量化は必要か?」
満足するサナさん。
「ゴブ、よかったわ、破けていない」
天然のお母さん。
「俺の息子は何がしたいのだ?」
悩むお父さん。
「凄い!格好いい!さすが阿騎だ!」
喜ぶお兄ちゃん。格好いい?飛ぶのが?落ちるのが?
「うち!あれ、してみたいゴブ!」
「うん!俺も、俺もゴブゴブ!」
「すげー俺がジャンプしても、あそこまでいけないゴブ!」
感激する、ちびちゃんズ。
「ゴブ?どうしたのメイドン?」
「阿騎さま、危険でした。減速しなかったら、助けに行きましたデス」
いや、助けに来てよ。
そして溺れる私。
ブクブク。
「ゴブッち、ちょっと!溺れていない?溺れているっ!」
叫ぶ美観お姉さん。
ブクブク。
「ゴブ?溺れる?まさか、俺達ゴブリンは水上、水中でも戦えるぞ?泳ぎは基本だが?」
冷静な村長さん。
ブクブク。
ブク……沈みゆく私……。
池に飛び込む、玲門お姉さん。
ここまでは覚えていた。
ああ、思い出した。
私、泳げなかった。水泳の授業、嫌いだったな。
イヤな授業だった。
痩せすぎの身体、脚や腕の傷跡、くすくす笑うクラスメイト。
乳腺の発達した女の子が、こっちをチラチラ見ている。
そして変なジェスチャーして大笑い。
思い出したくもない、前世の記憶。
ああ、邪魔だなぁこの記憶。
なんで思い出すのだろう。
ひゅっ!
あ、息が!?
……ガハッ!
ゲホッゲホッゲホッ!
激しい咳き込み、息ができないっ!
あ、誰かが背中を摩って……げほげほっ。
「ゴ、ゴ、ビィィイ~ご、こわがったよおぉ」
泣き出す私。
情けない。何をしているのだ、私!
し、死ぬかと思った。
取敢えずしがみつく。
ポヨポヨ。
ん?この感覚?前にも?
あ、玲門お姉さんだ。
「ゴブゥ阿騎くん、ホントに、もう……」
優しい目だ……ん?そういえばエルフさんも、同じような目で私を見るような?
「ご、ごめんなざいゴブゴブゥ」
(ちゅーした)
え?
(ちゅーした)
ちゅう?
(ちゅーだ)
(ちゅーした)
(う、うちの、あ、阿騎くんが、お姉さんと……ちゅーした!)
(は、はじめてちゅー見た!凄い!生ちゅーだ!)
(阿騎くん、だいじょうぶかなぁ)
(お、俺の玲門お姉さんが……阿騎の****ヤローと!ゆ、ゆるせん!)
(ねえ知ってる?3回ちゅーすると、赤ちゃんできるんだって!)
(えええ~っ!?う、うち、まだ一回もしてないよぉ!玲門お姉さんずるいっ!)
ここで美観お姉さんがキレる。
「ゴブ!ガキ共!うるさいぞゴブゴブ!あれは蘇生術だ!蘇生術で子供はできん!で、阿騎?何がしたかったのだゴブゴブ?」
あきれ顔と、好奇心ワクワクの入り交じった声だ。
……また玲門お姉さんに助けらたのね、私……。
私は、チラリと玲門お姉さんの目を見た。
濡れたような優しい目で、私を見るお姉さん。
ん?あれ?エルフさん睨んでいる!?ど、どうして?怖いんですけど?
「ごびぃ~~~~~っ!」
美観お姉さんが耳を引っ張る!
つ、爪がぁあああっ!
「な・に・が・したいのだ?」
「ゴ、ゴブち、ちず、地図」
いたいですぅ。男の子なんだけど、女の子なんです!優しくしてくださいっ!
「ちず?ゴブゴブ?」
暫くして落ち着いた私は、傘の先端でガリガリと地面に見た風景を描いた。
「ゴブ!こ、これは!」
驚く村長さん。
まず島がある、私達の島。
それを囲むようにアルファベットのCの字の島が、私達の島を囲んでいる。
その先は海、そして遙か彼方にうっすらと大陸が見えた。
そう、そして船も見えた。
「船が見えたゴブ、何か動きがあるかもゴブゴブ」
「ゴブ!船が!?」
「ゴブ、この傘、風魔法が得意なゴブリン達に渡したいんだけどゴブ、どう村長さんゴブゴブ?」
「何に使うゴブ?」
「ゴブ緊急避難に使えるし、上手く使えば隣の島に渡れるゴブ」
「!」
「ゴブ、それとサナさん、アレは完成しているゴブ?」
「持っては来たが、大丈夫か?」
「ここで使うゴブ、また落ちたら助けてもらうゴブ」
「ゴブ、次はなんだゴブゴブ?」
やや大きめの箱から出されたのは、鉄棒と布が重なった異様な塊だ。
「完成はしているが……」
コロさんがさりげなくサナさんから受け取る。
「ゴブ、俺が実験台になるゴブ、阿騎、お前は検証に向いていない」
「ゴブ!でも!」
「サナ、これは重いなゴブ!これをどうするのだゴブゴブ?」
無視しないでコロさん!あなたに無視されると悲しくなる!
仕方なく、私はコロさんの後ろに回り、それをセットした。
リュックのように装着したそれは、傘同様、飛行装置だ。
コロさんの脇から2本の操作スティックがにゅう、と出ている。
「ゴブ、まずそのスティックの赤いボタンを押すゴブ」
「これかゴブゴブ?」
先端のスイッチを押すコロさん。
ぽち。
バン!
布の広がる音が、青空に響く。
みんなビックリ!
背中のリュックに折りたたんであった、翼が出現する!
次回投稿は2022/09/03の予定です。
サブタイトルは 故郷への遠い道3 です。