表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Lily 前世の記憶は邪魔である  作者: MAYAKO
一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/406

【第62話】 魔界への誘い

 私は、エルフさんに抱かれて動けない状態である。

 

 魔族と目が合い更に私を抱きしめるエルフさん。


 不謹慎だな、わたし。凄くドキドキしている。

 こんなに強く抱きしめられたことなんて、あなたが初めてです。


「魔族は世界に直接干渉しない、魔王の言葉は偽りデスか?」

「それは前魔王様の言葉だ、今の魔王は違う。阿騎、魔界に来い、お前のいる場所はここではない」


「いやだゴブ」


「あのアンテッド2体、彼奴らはどこから召喚した?私を止めたぞ?」

「……」

「なあ阿騎、この冷酷なる世界を壊したいとは思わないか?」

「ゴブ、あなたがそれを言うの?あの研究所こそ、その象徴ゴブ、だれが作ったあの研究所?」

「!」


 魔族アトロニアの魔力が増す。


「一つ聞きたいゴブ、槍の意味が知りたいゴブ」

「意味?意味など無い、ただ……」

「ゴブ?ただ?」

「あの場所でこの槍が埋もれるのはよくない、そう思っただけだ」

「ゴブ、そうなの?」

「……」

「ゴブこの槍は大事な槍なの、ありがとうゴブ」


 私がお礼を言うと、その場の皆が固まった。


「「魔族に礼を言うのか」」


 エルフさんと魔族アトロニアが綺麗にハモった。

 私と目が合うエルフさん。まるで授乳しているお母さんと赤ちゃん状態だ。

 メイドンはそんな私と魔族を見て無表情になった。


 何を考えている?メイドン?


「立ち去りがたいデスか?魔族アトロニア?」

「ゴーレム、何が言いたい?」

「阿騎さまに魅せられたデスか?魔界に連れて行きたい程に?駄目デスよ」


挿絵(By みてみん)


 メイドンが更に一歩踏み込むと、魔族は一歩下がった。

 下がった!

 魔族が下がる?とんでもなくメイドンを警戒しているってこと?


「私がゴブリンに?おもしろいことを言う、その破壊力と頭脳、お前こそ魔族ではないのかメイドン?」


 違う、メイドンは怪しいけど進んで暴力は振るわない。酷い実験もしないし、少なくとも、ここの人族や魔族よりも思いやりのある存在だ。他者から奪い、暴力を楽しむ存在ではない。


 魔族のこの名前、アトロニアが聞いたらどう思う?なんで名前がアトロニアなんだ!私の大切な家族の名前、ローロンサやルカトナ、ナツが聞いたら絶対怒って改名させるな。


「まて、阿騎!」

 え?魔族は凄まじい形相で私を睨んだ。

「その名をどこで得た?」

 やばっ!考えを読まれた!?ガードはしていたのに!?

「ゴブ?名前?」

 ここは知らないふりで……。

「とぼけるなっ!」

 駄目だよね。

 誰だ?ナツかな?ローロンサは違うよね?

 ルカトナ?

 あ、今ピクッて動いた!

(もしかしてルカトナ!?)

「……」

 何?

 どう言うこと?

 私の元いた世界と繋がりがある?


 偶然?


(これは私の家族の名前だ!ナツ、ローロンサ、アトロニア、ルカトナは私の大切な思い出の名前!お前こそ、その名前どこで得た!私の思い出を汚すな!!)


 ルカトナやアトロニアはこんな酷いことはしない!

 一歩踏み出す魔族。


 バチン!


 と何かが弾ける音が森に響く。

 その音の大きさに鳥や虫、知らない生き物達が一斉に飛び立つ。


 バチン、バチン、と立て続けに響き渡る音。周辺の木々が折れ、大地には亀裂が走る。

 メイドンと魔族の殴り合い?どつきあいだ!

 でも、二人?とも動いていないよね?


 これ、重速術を使ったら見えるかしら?


「阿騎さま、重速術は使ってはいけませんデス、それは必中の技に繋がる。それを相手に使うとは、挑むということデス」


「ゴブ!わ、わかった」


 危ない、そう言う戦いのルールがあるのね。

 言われてみればそうだ。

 今から切ります、との宣言だからな、あの術は。


 音が止むと、ボロボロの黒い霧を纏った魔族と、平然と佇むメイドンが向き合っていた。


「忌々しいゴーレムめ!」

「魔族からのその言葉、最高の褒め言葉デス。続けますか?」

「……」

「これ以上続けると、死者が出ますデス。それは、あなたの本意では無いはずデス」

「………無粋したな、槍の持ち主は強者であった」

 そう言って魔族アトロニアはふっと消え去った。


 広がる静寂。


「ゴブ、見事な引き際だな、ゴブゴブ」

 コロさんが呟く。

 お兄ちゃんは唯々ビックリしている。

 私は、改めてメイドンの凄さを知った。

 とんでもないゴーレムだ。


 地牛博士って??


「阿騎さま、気をつけるデス。あの者、また来ますデス」

 皆の視線が私に集まる。

「分かったゴブ、あのエルフさん」

「……なんだ?どうした?」

 もの凄く心配そうに、私を見つめるエルフさん。

「苦しいゴブ」

 胸に埋もれて、喋るのもやっとである。

 エルフさんは必死で抱きしめ、私を護ってくれたのだ。


 じっと私を見つめるエルさん。


「ゴビッイィ」

 更に抱きしめられた。な、な、なんで!?


 砦まであと少し、私達は口数少なく歩き始める。

 そして砦近く、8人の子供達が手を大きく振って迎えてくれた。


 持ち帰った魔石は20個、重傷者は全て延命できた。


 できたけど、お母さんには怒られた。

 それと同時に、お母さんは私とお兄ちゃんを抱きしめ、泣いた。


 村の皆は大変驚き、喜び、そしてヤベンさんの槍を見て悲しんだ。


 私は思った。


 こんな所にいてはいけない。

 どこにいても同じだよ、と言う人もいるだろう。

 住めば都?確かにここは私が生まれた場所だが、安住の地では無い。


 人族が大軍を動かしたら、終わりだ。


 死や脅威はどこにでもある。

 だけどここにいてはいけない。絶対故郷に帰ってやる!

 そう誓った。

次回投稿は2022/08/31の予定です。

サブタイトルは 故郷への遠い道1 です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ