【第5話】 突然の出会い
3人目は、女の子だ。
彼女は転校生で、美人さんだった。クラスは別だったが同じ学年だ。どれぐらい美人さんかと言うと、映画俳優、女優さんだ。オーラが凄かった。
藤木まどか、それが彼女の名前。
彼女は一躍クラスの、学校のスターになった(もともとスターだけどね)
かたや映画スター、かたや飛び級天才数学者(自称じゃないよ、そう呼ばれていたのだ、本当だよ)片方は褒め称え上げられ、片方はいじめの対象となった。
「おい、天才、お前縄跳びも出来ないって?」
そんな言葉からいじめが広がる。
で、帰宅中事件が起こる。夕暮れ時、逢魔ヶ刻だ。
ローロンサが耳元で叫んだ。
(つけられている!走れ!今助けを呼ぶ)
(ローロンサ!リアルに干渉はだめだって!)
そう言いながら私は走った、しかし回り込まれた。襲撃者は3人。
一人は私の髪を掴んだ。が、ご存じの通り、私の髪はウィッグだ、最初は驚いていたが、彼らは私の容姿を見て大笑いした。
「なんだこいつ?こんな奴が秋津川の子供か?笑わせてくれるぜ」
以下略。
罵詈雑言悪態を、永遠と書いても面白くない。おそらく襲撃者は親父か母親に、酷い目に遭わされた類だろう。
両親については調べた。
父は眉なしの金髪、母も眉なし、髪はオレンジ色で身体に落書き、てんこもり。危ない集団のリーダーとその女。
なんてこったい。
私の両親とそのグループは、重くて暗い、悪い犯罪を一通りやっている。
当時の新聞やゴシップ記事、ネット上にあるものや、行政機関なんかのコンピ内にある情報を、ローロンサが集めてくれたのだ。
リアル干渉を許せば、もっと情報が集まっただろう。これ以上情報収集?しないよ、したくない。いや、本当は知りたいのだが、知りたくないっていうのが私の本心かな。
私の両親は、人をいじめてお金を集める天才だった、と記しておこう。
その両親が死んだ今でも、怨念は世界に満ちていて、時折私に降りかかる。両親が死んで何年も経つが、彼らの恨みは収まらない、心は晴れない。
その点では私と同じだ。
だいたい喧嘩というものは、殴った方は忘れても、殴られた方は決して忘れないものだ。人を殴ってはいけない、拳でも、言葉でも。
日本晴れという言葉がある。雲一つない晴れ渡った空のことらしい。空は晴れたり、日本晴れ。私は今まで心が晴れたことなど一度も無い。彼らもそうだろう。
そしていつも酷い目に遭う。
殴られた、蹴られた。眼鏡を踏み潰された。
ああ、高いのに眼鏡。私のお気に入りの眼鏡。
そしてナイフが登場した。
とても書けない、汚くも恐ろしい言葉をそいつが吐いた。
こんなところで、まだ死にたくないな。素直な私の思い。逃げようにも小さい私の身体はもう動かない。せめて脚でも早かったらどうにかなったかしら?口の中は血の味でいっぱいだ。
ばたん!
何かが閉まる音。
いつの間にか黒塗りの、でかい車が止まっていた。眼鏡がないのでよく見えないが、黒くて大きいのだけは分かる。
ああ、ドアを閉める音か、拉致されるのかな?しかしこいつらの容姿に、この車、似合わない。この車、ピカピカで何か上品な感じだ。そんな車がどうしてここに?
ここは細くて狭い通学路。
ドアの前に立っていたのは、身長2mほどの巨人。
黒い服、背広かしら?サングラス?盛り上がった肩はシルエットでわかる。筋肉が凄いぞ、この人。重機だ。人の形をした重機だ。
その重機はモノも言わず私に群がる3人をぶちのめした。
私が覚えているのはそこまで。そこから先は意識を失って見ていない。
次に見たのは綺麗な天井、知らない天井だ。装飾が綺麗な天井に見える。しばらくその綺麗な模様を眼で追う。視力が弱いのでよく見えないのだが、きらきらしたその装飾は何か別世界を思わせた。
身体は痛すぎて、うまく動かない。辛うじて動く目を横に動かすと……?
学年のアイドルがいた。
「気がつきましたか?今、お医者様を呼びますね」
声の主は、私にそっと触れ、綺麗な眼鏡を丁寧に、私の耳に乗せてくれた。
ふおおおおおおっ!いっきにクリアーになる世界!
最初に目に飛び込んできた映像は……か、かわいい!美少女って言葉がぴったりではないか!こ、こんなまぢかで!私が男の子だったら絶対に惚れてしまう!いや、同性の私でもドキドキするぞ!顔ちっちゃい!瞳きらきら!
て、手、やわやわではないかっ!そ、そ、そんなに屈み込んで近づいてはならん!胸元から胸が見えて…うわっ!真っ白、肌綺麗、ち、ち、ち、ちちでかっ!ホントに中学生?
ん?
怪我の痛みも忘れて、あたふたして視線を泳がせていると、私は見慣れたものを見つける。
彼女は医療用キャップを被っていたのだ。
私の視線に気が付き彼女は微笑む。
「お揃いですね」
私は身体をもぞもぞ動かし、自分の状態を確認しようとする。
「少し、起こしますよ」
「?」
おおお、ベッドが動く!
ほんの少しだけベッドが起立し、ベッド横に設置してある大きなドレッサーと眼が合う。
その鏡には医療用キャップを被る美少女と、包帯でぐるぐる巻きにされた、見慣れた人物、わたしが並んで映る。
二人のその頭部には、同じデザインの医療用キャップがのっかっていた。
「ここは?」
かすれた声で、私はごく普通の質問をした。
「私のお家です」
ああ、いい声だなあ。
ぱちん、とゴムが弾けたように記憶が甦る。
「……あいつらは……」
私が独り言のように呟くと、彼女が答えを口にした。
「彼らはもういませんよ、何処かに行きました」
「……」
え?
おいおい、いないとは?何処かに?
「今お医者さまが来ます。説明があるのでしっかりと聞いてくださいね、それと学校と施設には連絡しましたから」
「から?」
「安心してお休みください」
これが彼女との出会いだった。
彼女は清楚で可憐な美少女俳優さんに見える。
だが、実態はゲーム(ネット、カード)とボカロ大好きの電脳住人だった。
そう、ゲームとボカロをこよなく愛し、それが為に仕事をする人であった。彼女の世界の中心はボカロPさん達とゲームなのだ。
幸せな人だなあ、心からの感想、彼女への評価である。熱中するものがある、私はそれを幸せと言いたい。
そう、後の私の趣味の大本は、全て彼女、彼女が私をこの世界に引っ張ったのだ。
数日が過ぎ、私が動けるようになると彼女はとんでもない事を口にした。
私にとっては吃驚することだった。青天の霹靂ってヤツだ。
「少しは動けるようになりましたね」
ぬか床をかき回す私を見て彼女が言う。
結構臭いが強いのに笑顔を崩さない、流石女優さんだ。
私は彼女に質問したいことが山ほどある。なぜ私のぬか床がここにあるのか?彼女のお家だよ?持ってきた、とは言ったが、どうして私がぬか床をもっていると、この人が知っているのだ?
どうして私が襲われているのを知ったのだ?