【第57話】 攻略開始
「あれが研究所だ」
エルフさんが指さす。
森の中に白い建物が見える。
よく見ると、窓が一つも無く、半球である。
どこが正面?あれでは死角がないんですけど!?
それにデカい!
プラン練り直し?
「ゴブ、草木をよく見るんだゴブ」
ん?ヤベンさん?
「3カ所、下草が薄かったり樹木がないところがあるだろう、あそこがゲートだゴブゴブ。逆にゴブ、草木が茂っているところは、行き来がないところだゴブゴブ」
「草木は茂っているが、違和感がある場所が2カ所ある。メイドン、分かるか?」
「ハイです。以前と同じゲートが一カ所と、違うゲートが一カ所デス」
「少し、間取りを変更したみたいだな、メイドン間取りの予測はできるか?」
「行動制限クリアー、予測できます。侵入経路、3パターン。上部天窓よりの侵入が良」
「天窓?」
「はいデス、研究所の天窓位置は構造的に変更できませんデス。1.天窓2.新しいゲート3.旧ゲートのいずれかより侵入しますデス」
研究所に近づくと、木々がねじ曲がり、異様な風景になり始めた。
なんだこの臭い、凄い悪臭だ。
「では、阿騎、月が隠れたらスタートでいいか?」
「はいゴブ、エルフさん」
「細かいところを詰めるぞ、サイザン、寝るなよ?」
「ゴブ!わ、分かりましたエルフさん」
いくつものパターンを考え、検討を繰り返す。
そして分厚い雲が月を覆う。
さて魔石奪取オペレーション、スタート。
では、最初の一撃!
いくぞ、水蒸気爆発魔法!
建物の正面ゲートと思われる場所に大音響の一撃を加える。
半球場の建物に亀裂が入り、一部は吹飛ぶ。
ゲート部分にヒットしたらしく、みごとに破壊される研究所。
え?
人族の反応は早かった。
吹飛んだ建物内部から黒い霧が這い出てきたのだ。
「!」
「ゴブ?反応は早いが、これはゴブゴブ?」
「ゴブ、焦っていないかゴブ?」
「こちらにとっては、好都合デス」
攻略メンバー全員に星印を付けたので、皆私と霊的に繋がりやすい状態になっている。
魔力感知や念話は電波や無線に近い感じである。
私の花丸印は、霊的に繋がるから有線に近いかな。
結果、私が司令塔。
位置の把握はしているので黒い霧はそれ程怖くない。
それにメイドンの癒やしの波動で、活性化された私達は、いつものように動ける。
ただし。
「いいデスか、忘れないでくださいね。一時的に癒やされたのであって、本来なら皆さん十分な休息を必要としている身体なのデス」
「ゴブ、切れたらどうなるゴブゴブ?」
コロさんがメイドンに尋ねる。
「動いた分の疲労が、加算デス」
「どれくらいで切れるゴブ?」
私は聞いてみた。
「個人差はありますが、半日はメイドンの『おっぱい波動』が皆様の細胞を活性化し続けるはずデス」
「「「「ゴブ!おっぱい波動!」」」」
これが、この機能の正式名称らしい。
そのネーミングのセンスに、思わず私達はハモってしまう。
「だからそこで私の胸を見るな!ゴブリンども!」
「「「「……」」」」
ごめんなさい、エルフさん。
でも目が向うのです。男子の本能かしら?
しかし、地牛博士って???
「移動するぞ」
エルフさんが先行する。
「ゴブ……8、9、10……」
カウントする私。
「15ゴブ!」
水蒸気爆発魔法、2発目!
ドームの左側側面に亀裂が入る。
うひ~っが、頑丈!
「昔はあそこがゲートだったが、位置を変えたか?」
「ゴブ、いくぞヤベン」
コロさんが静かに言う。
「阿騎、お前に会えて良かったぞゴブゴブ。この技『割り』末代まで残るといいな。さて、最後の勤めだゴブ。コロ、参るぞ」
コロさんとヤベンさんは黒い霧の中に身を躍らせた。
同時に反対側からお兄ちゃん、メイドンが侵入する。
「さて、ヤベンとコロが敵と接触したら、進むぞ。用意はいいか?」
「いいゴブ」
「魔力は大丈夫か?」
エルフさんが尋ねる。何度も倒れている私だから、心配なのだろう。
「まだ大丈夫ゴブ、あ、エルフさん動きがあったゴブ!」
脳内で星印が点滅する。
「では行こうか」
「ゴブ」
後方より近寄る私達。
建物の一部がスライドし、出てきたのは。
「よく見えないな、感じからしてラグナル5匹?かなりデカいぞ。だが数が少ない、通常ならここまで近づけない程、魔獣が徘徊しているのだが」
「ゴブ、それと10匹くらい小さいのがゴブゴブ?」
「!」
「ゴブ?どうしたの?エルフさん?」
「この感じは……獣ゴブリンだ、戦えるか、阿騎?」
「ゴブッ!」
え~っ!ど、同族と!?
でもサナさん、言っていたな?最早容姿が全然違うと。
大胆な足音、荒い息づかい。
来る!
黒い霧から飛び出てきたのは、私達とは似ても似つかぬゴブリンだった。
ゴブリンだと分かるが、これは無いだろう!と言えるキャラクターデザインだ。
つり上がった赤い目、尖りすぎの耳、不規則な角、大きな口に鋭い牙、だらだら垂れている涎。
それと……ああ、駄目だ。これ以上の描写は18禁にしないと、どこかから怒られそうだ!私的にはこの時点でモザイク必要なのだが。
よくも私達の同族をここまで落としたな、人族!
最早、怒りしか感じない。
迫り来る同族を相手に、何の躊躇いも無く抜きを放つ。
振りかぶられた剣は私に届かず、魔力還元していく獣ゴブリン。
パシッとその小ぶりの剣を取る。
小ぶりながらもその剣はずしり、と重かった。
この剣の重さ、どこかで……?
次回投稿は2022/08/27の予定です。
サブタイトルは 夢の再現と人族 です。