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【第56話】 その名はOVERKILL

 修行が始まる。


「まず、技を確実に当てるために重速術を覚える、いい?」


 こくこく、頷く私。

 重速術とは?名前の通り、速さを重ねる、のかな?


「意思の力で全ての細胞を動かし、意思を全ての細胞、魄に行き渡らせる。すると動きが違ってくる。速すぎる動きになる」

「?????」

「この動きはスローモーションに見える」

「?????」


 早すぎて遅く見える??


「戦いで、相手がスローモーションに見えたら、重速術の術中と思いなさい。相手は必殺の技を仕掛けてくる。これは要注意よ、分かった?」


 こくこく。ここは分かる。


「さて、覚えようか重速術」


 これが大変だった。


 目覚めている阿騎も同じアキなのだが、夢で修行している亜紀の苦労、分かっている?思い出すだけで使えるなんて、チート過ぎない?私の苦労分かる?

 この重速術、便利なのだがもの凄く魔力を使う。魔力の少ない者は修得できない技だそうだ。因みにこの『少ない』の基準は勇者の一族と魔族が基準で、殆どの妖精族はこの技、使えないらしい。

 

 1年以上修行していた気がするが、まだほんの一晩なんだよね。


「さて重速術、少しは使えるかな?ではOVERKILLを教えましょうか」


 こくこく。


「切る、をKILL、するとOVERKILLになる。そしてKILLを切る、これもOVERKILLになる」

「?????」


 まったくわからん!


「実践あるのみね」

「じ、じっせん!ネーネー、実践って?」

「私の中の怨霊の一つを浄化しなさい、今から変わるから」

「はひ?」


 ビックリしていると、ネーネーが変わった。ぐるりと!

 そこには黒いマントを纏った人物がいた。いや人物になった?

 この人、吸血鬼だ、直感で分かった。


挿絵(By みてみん)


「こうして会うのは初めてだな、亜紀。君がこの技を覚えるのなら、わたしの意思、消えても構わんよ」

「え?」

「まず、私を剣で切ってみるがよい、迷いは無用だ」


 躊躇うと、ローローが声を掛けた。

「切りなさい、彼の思いを無駄にしてはいけない」


 深呼吸を一つ。

 イメージすると、左手に剣が現われる。

 更に意識を変える。

 夢ではあるが、現実に近づくように!

 すると、剣に重さ、が発生する。夢の中でも感覚が発生する。

 ホントに阿騎!私凄い修行、毎晩しているのよ!いい加減思い出してよ!

 ま、阿騎は私だけど。


「では、参ります」


 躊躇うことなく剣を振るう私。

 サクッ!


「よい太刀筋だ」


 スーッと再生する吸血鬼さん。


「魔法剣で焼いても、私は再生する。灰になっても、勿論再生する」


 何度斬っても再生する。

 現実に近い夢だから、ここで致命傷を負うとリアルの私は死亡する。

 吸血鬼さんも致命傷を負うと、消滅するはずだ。

 吸血鬼さんは言う。

「亜紀、私の意思を切るのだ。そして切るをKILLとOVERKILLになる」

「?????」


 だから、わからん!


「私の意思を切る、切り離す。私は魂の記憶を元に、意思で魔力を使い、魄である肉体を再生している」

「???」


 ん?分かってきたような?

 じっ、と見ていたローローが口を開く。


「意思を切ると、魔力が使えず、魂の情報を元に肉体が再生できない。が、意思を切っても魂が切れた意思を繋げるのだ。だから切る、を更にKILLのだ、再生できないように。これをOVERKILLという」

「??」


 なんか分かってきた?


「さあ、あとは実践あるのみ。まずは重速術で私を捕らえようか?私も亜紀を重速術で捕らえてみよう、いくぞ!」


 こうして重速術で相手を捕らえる修行が始まる。

 ……阿騎、必ず思い出してね?ホント恨むよ?


 ……もう、何年も修行しているみたいだ、いや修行している!


 私は瞬時に相手を重速術で捕らえることができる。

 ここまではできる。


 だけどOVERKILLは今だ修得できない。


「焦ることはない、魔力、エネルギーがどんなにあっても、修得できない者は多くいる。この技は簡単ではない」

「よく、この不祥の弟子に付き合われますね」

「はははっ亜紀、君は必ずこの技を習得する、そして私は戦士亜紀にこの技を教えた者として語り継がれる者になる。名誉ではないか?消えゆく定めであった亡霊、怨霊の私がだぞ!私は楽しんでいる」

「私が修得したら、吸血鬼さんは消えるのでしょう?」

「ああ、そうだ。だがそこまでしても、教える意味がある」


 ……そこまでして教える?私は将来、とんでもない者と戦うのだろうか?


「君は炎の巨人に選ばれた人間だ、ならばこの技は必修だぞ?さあ頑張りたまえ」


 え?あの力の塊のような巨人を知っている!?

 私が見つめると、恐ろしい顔でニヤリ、とした。

 普段の吸血鬼さんではない笑顔だ。


「さあ、何度でも挑みなさい」


 そして、その時が来る。


 加速術で相手を捕らえる!

 捕らえた!

 そして意思を切る!不死者の意思を切り、繋がりを切り、魂魄から切り離し、再生不可能にするため、より以上の力で切る!切るをKILL。


 OVERKILL。


 ぶわっ、と霧散する吸血鬼。不死者である吸血鬼がそれをやめる瞬間である。


「みごと、よくやった」


 そう言い残すと吸血鬼さんはいなくなった。

 存在がまったく感じられない!

 呆然とする私。


 ゆらり、と、その場に現われるネーネー。


「よくやりましたね、見事です」

「……これ、褒められることですか?」

「もともと我々は毒念の塊、怨恨の塊よ。世の中に放たれると厄災しかもたらさない存在なの。亜紀、あなたは彼を救ったのよ、行き場のない思いを解放してあげたと思いなさい」


 この技は、忘れたくないな。

 目が覚めても、忘れたくない。


 だが私は、朝起きると殆どのことを忘れてしまう。

 

 朝起きる私。

 気持ちが晴れない。

 朝日すら暗く見える。

 

 その日の夢は、大切な人を剣で切ってしまった、という悲しい思いしか残らなかった。


 夢の中の私は辛い修行をしている。


 そしてそれを思い出さなければいけない。


次回投稿は2022/08/24の予定です。

サブタイトルは 攻略開始 です。

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