【第52話】 無謀な挑戦
今まで、何人のゴブリン達が研究所に向ったのだろう?
(ゴブ、何人も止めてきたゴブ、お前達も行くのか)
お父さんの声が遠くに聞こえる。
よろよろと立つエルフさん。
「クッ、つきあうか、止めるなよ、ばーさん」
「わしに寂しい思いをさせるなよ?」
「善処するよ」
一斉に立ち上がる8人。
「駄目だ。お前達8人は次の世代の希望だ」
「ゴブ、しかしおばばさま」
「うちらはゴブゴブ」
「お前達は残れ、ナイダイお前もだ」
おばばさまが口を開く。
(おばばさま、行ってきます)
私は密かに念を送った。
「必ず帰って来いよ」
無謀な挑戦が始まった。
無理ゲー?それでも止めないよ。
私に愛情を注いだお母さん、たとえ寿命が5年でも繋いでみせる。
(早く門を抜けるぞ、ドワーフが止めに入る)
(え?なんで?エルフさん?)
即、念話で返す私。
(メイだ。人族はメイを恐れているが、欲しがってもいるのだ。メイが人族に捕獲されたら、妖精族は簡単に制圧される。研究所に飛び込むメイを人族はどうする?逃がすわけがない!絶好の機会と思うはずだ。そんなのドワーフが許すわけない!ヤベン、聞こえるか?)
(なんだ?エルフ、子供達は全員無事と聞いたが?俺は忙しい!話は後にしろ!)
(何を暢気なことを言っている?討ち入りだ!付き合え!)
(討ち入り!?カチコミか!!相手はどこのドワーフだ?シシナの眷属か?王妃の親衛隊か?一日2回も戦闘させる気か?少しは休ませろ!)
(人族、研究所)
(は?)
(解除装置を取りに行く)
(無謀だ、生きて帰った者は一人もおらぬ)
(だよな)
(面白い、その話、のった!)
(集合場所は弐の村、いいな)
(分かった)
(弐の村?)
どこだろう?
(先日襲われ、廃墟になったゴブリンの村さ)
弐の村に集まった戦士は
サイザン
メイドン
エルフ
ヤベン
コロ
阿騎
以上6名。
この6名で、人族の研究所を攻略することになった。
お兄ちゃん(機織りの技能伝承者)以外、全て戦士系、回復系なし、とんでもないパーティーだ。
目的は、延命プログラムの転写された、魔石の奪取。
期間は1日。
短すぎる!攻略なんて無理ゲーだ。でも今回は、それでもアタックする。
皆、先の戦いでボロボロだけど。
私も回復には遠く、走るのがやっとだ。
それでも進む。
最悪、私一人でもアタックする。
私一人の場合は、研究所に侵入、人族の研究員を捕獲しフルボッコ、魔石の場所を丁寧に聞き出し奪取、退散となる。
え、魔石が偽物だったら?大丈夫、自分の、このゴブリンの身体で試すから、問題なし。丁度今、ボロボロだしね。
その前に、聞かなければいけないことがある。
「皆、何故、私達兄弟に付き合うの?生きて帰った者はいないのにゴブゴブ」
エルフさんが答える。
「阿騎、今、お前に死んでもらうと困るのさ、私が。私の計画には、お前が必要だ。ここで恩を売りたい。私は私の利益のため、打算で協力しているだけだ。気にするな」
エルフさんは打算と言ったがはたして。
「俺も同じゴブ」
コロさんも同様らしい。因みにコロさんも、ヤベンさん同様、エルフさんが呼び出した。
「俺達に故郷があるのなら、一度でいい、その大地を踏みしめてみたいゴブ。ン・ドント大陸は憧れなのだ。その大地を走り抜けたい、そのための協力だ。夢のために命を落とすのなら、それも一興ゴブ」
「ゴブゴブああ、お前は小さい時から、故郷の話を聞かされていたからなゴブ」
「ゴブ、そう言うお前はどうなんだヤベン」
コロさんが聞き返す。
「知っての通り、俺は5年生だゴブ。実は魔力還元が始まってね、明日の昼か夜頃には天に帰る予定だゴブゴブ」
「!!」
「ゴブ、お前達の討ち入りとは関係ナシに、一人でカチコミの予定だったのさ。だから俺が倒れても気にするな、以上だゴブ」
いなくなる?ヤベンさんが?
5年の寿命、実際目にすると、これはきついな。
「付き合ってやるよお前ら兄弟に。それで策はあるか?」
エルフさんが問う。
「あるゴブ」私は一同を見回した。
「まず3班に分けるゴブ。1班は私、阿騎とヤベンさんゴブ。これが正面からアタック。敵を引きつける囮その1ゴブ。もし、私かヤベンさんが倒れたら、念話で送る。死を身近に感じたら皆、逃げていいよ。2班はエルフさんとコロさん。囮その2ゴブ。裏から進入もしくは外壁付近で後方攪乱をお願いしますゴブ。そしてメイドンとお兄ちゃん……サイザン。この二人は研究所に侵入し魔石を奪取。奪取後、即、離脱ゴブ。合図は念話かメイドン、信号弾とかあるゴブ?」
「ありますデス」
「ゴブ、色は?」
「お好みの色を用意しますデス」
「成功した場合、緑。失敗は赤で合図はするゴブ、いい?」
「了解デス」
「それと日中、お日様が真ん中に来たら作戦は終了ゴブ、どんな状況でも各自で退散ゴブ、どう?」
ヤベンさんとコロさんが渋いお顔をしている。エルフさんもだ。
コロさんがピッと指を動かす。
「ゴブ?」
「ゴブゴブ、俺と阿騎はポジションチェンジだ」
「何故ゴブ?」
「ゴブゴブ、阿騎、お前は強力な戦士だが、短期決戦型だゴブ。正面の囮に向かない。その点、俺とヤベンは熟練の戦士だゴブ。経験が豊富で囮に向いているゴブ」
「戦いの記憶なら、玲門おねえさんから沢山貰っているゴブ」
「よく聞けゴブゴブ」
ヤベンさんが一歩踏み出す。
「いいか、記憶があっても、理解できなければ意味が無いのだゴブ。戦いの記憶があっても、再現できない技、戦術は多くあるゴブ。良くも悪くも、やはり経験なのだゴブゴブ。それにお前は今、動くのがやっとだゴブ」
「ふふっゴブゴブ」
「ゴブ?何がおかしい?コロ?」
「ゴブ、いや動くのがやっとなのは皆同じだゴブ。おそらく一番元気がいいのはサイザンくらいだろうゴブ」
「ゴブ?お兄ちゃんゴブ?」
ヤベンさんがニヤリとする。
「ゴブこいつは凄かったぞ!メイとのコンビネーションで次々に魔獣を倒していったゴブ。俺の後はこいつだゴブ。おばばさまのガードゴブ」
そんなに?
「ゴブ、阿騎が伝えた技を使いこなし、凄い働きだったゴブ」
コロさんまで、お兄ちゃんを褒める?
「新しい技も派生しているゴブ。阿騎、お前の技が無かったら今回の戦で、我々は死に絶えていただろうなゴブゴブ。皆お前には感謝しているゴブ」
田崎さん、ぬき、はこの世界で沢山のゴブリンや妖精達を助ける技になったよ。
次回投稿は2022/08/14の予定です。
サブタイトルは 癒やしの波動で癒やされたい です。