表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/406

【第51話】 システムダウン

 辺りから魔獣の気配が消える。

 虫の音が聞こえ始めた。


(念話が通るね)


(あ、ホントだ通じるね)


(ああ、やったね!俺ら凄くね?)


(慢心は駄目だよ!)


(そうだよ、うちら阿騎くんの真似しているだけだし)


(なんだよ、阿騎くん、阿騎くんって、そんなに好きなのかよ!)


(……ポッ……大好き……)


(おい、俺ら8人みんな繋がってるんだぜ?8人とも阿騎くん大好きになっちまう!)


(えっ?いいわよ?阿騎くん格好良かったし!)


(あ、俺も問題ない。頼りになる弟?可愛い妹?自慢できるぜ!)


(な、なんだよお前ら!俺まで好きになってきたじゃないかっ!)


 壊れた第一の門を潜り、辺りを警戒する。


「ゴブ、これは……」


 ナイダイさんが眉を寄せる。

 異臭が充満し、ラグナルの鱗や、ヘビ型魔獣の針が散乱している。

 特にラグナルの鱗は凄かった。まるで鱗の絨毯である。


 何匹襲ってきた?


(念話が繋がるぞ)


(門に誰かいる)


(ナイダイだ!)


(子供達は?)


(みんな無事か?)


 飛び交う念話、これ、今の私にはカットしないと重いかも。


(阿騎!阿騎は!)


(あっ!お、おかあさん!)


(ああ、無事なのね……)


 !


 え?お母さん?


 念話か切れた?

 私は簡易担架の上で藻掻いた。


「ゴブ?ど、どうしたの!阿騎くん!」


 家に運んでもらった、そこには。

 そこは怪我人が溢れていた。

 ゴブリン、ドワーフ、入り乱れていた。

 血と汗の臭い、その中にお母さんがいた。


「ゴブ、帰ったか阿騎、子供達は全員無事のようだなゴブゴブ」


「ゴブ、お父さん?」


「俺の傷はたいしたことないゴブ、だがリュートは……ゴブ、あと一日だろう」


 なっ、お、おかあさんが、私のお母さんがっ!


「阿騎くん、ごめんなさいゴブ。リュートさん守れなかったゴブ」


 そう言ったのは玲門お姉さんだ。

 振り向くとそこには血だらけのお姉さんが蹲っていた。


「ゴブ!れ、玲門お姉さん!」


 動きが止まる私。


 お姉さんの視線の先には美観お姉さんが……!


挿絵(By みてみん)


「す、す、すまん……が、がんば……彼奴ら、つ強くてよ」


 私は美観お姉さんに歩み寄り、そっと手を握った。


 私のせいだ、私が二人に頼んだから。どうしよう?ごめんなさいではすまない、どうしよう。


(玲門を頼んだぞ)


(え?)


「ゴブッ!?い、意識が!」

 

 意識が消えた!?掴めない!どこ?美観お姉さん!


「おねちゃん……」


 悲しく呟く玲門お姉さん。


 どういうこと?これは?

 え?おばばさま?


「システムダウンじゃ、明日の今頃、リュートと美観は魔力に還る」


「!」

 

 そ、そんな!


 足音が近づく。ピコピコ。


 メイドンとお兄ちゃん?

 自然とドアに目が向く。


 ガタン。


「ゴブ、サナさん、建付け悪いゴブ」


「そんなことはありませんデス、サイザンさまのお家は、お城並のきょうどがありますデス」


「ゴブ?なんでお城並ゴブ?」


「もしもの時に備えて、頑丈に作れと王様が指示していましたデス。今は簡易避難所デス」

 

 疲れ切ったお兄ちゃんと、無数の針が刺さったメイドンがそこにいた。


「ゴブ!お兄ちゃん!」


「ゴブ阿騎!無事だったんだゴブゴブ!凄く心配したんだからね!」


 そう言ってお兄ちゃんはパタリと倒れた。


「ゴブ疲れた、ちょっと寝る……ゴブゴブ」


「ゴブ、メイドン」


「はい阿騎さま、質問デスか?」


「ゴブ、経過、状況報告できるかゴブゴブ?」


 私は怒りと恐怖で震えだした。


「状況報告。ゴブリン、死者18名、重傷者9名、この9名は明日魔力還元。軽傷10名、ドワーフ死者31名、重傷者19名、軽傷者36名。ゴーレムは全て破壊され小型化」


 全て破壊!?巨大ゴーレムの攻略に成功している!?


「夕刻、阿騎、エルフ、ナイダイ、子供8人救出に向う。同時刻黒い霧の襲撃。この霧の機能は、魔力感知及び念話の遮断、と思われる。またこの黒い霧は2種類あり完全に魔力感知、念話を遮断するモノと、遮る程度のモノがある」


「ゴブ、術者は何人だ」


「一人と5匹。一人は逃走、残り5匹は仕留めています。黒い霧と共に山裏海岸に人族の船5隻確認、内4隻接岸、魔獣3種類、80匹が上陸。内訳はラグナル40匹、対ゴーレム兵器ヘビ20匹、対ドワーフ兵器ナメクジ20匹。次時間をずらし正面門よりラグナル80匹、ヘビ40匹、攻撃開始」


「ゴブ、凄い数だ。それを全て撃破して今に至る?」


「はい」


 メイドンはどこで、この正確な情報を得たのであろうか?

 

 聞いてみるか。


「ゴブ、衛星軌道上からの情報は私でも閲覧できるゴブ?」


 さて、なんと答える?


 メイドンは無表情になり私を見つめた。

 体内工場を持つメイドンを造った科学力、人工衛星くらいあるはず!


 前の世界の知識だけど、どうだろう?


「情報の閲覧はできません、これらの情報は受信のみデス」


 受信のみ?一方通行か。これは人工衛星を認めたのかな?微妙だな。


 しかし、どこから誰が送信しているのだ?


 ざわつく周囲、私達の会話が原因か?今はそれよりも。


「ゴブ、お父さん、お母さんは3年生ゴブ、まだ2年残っているゴブ!」


「我らゴブリンの運命だ、避けられぬゴブ」


「ゴブ、誰が決めたの?誰の判断?」


 答えは誰も知らない。

 運命?なぜ、お母さんが死ななければいけないのだ!美観お姉さんも!この世界は酷い!


「ゴブ、お父さん、言ってたよね?人族のパスワードで解除できるって?ゴブゴブ」

 

 お父さんは沈黙する。


「ゴブ、メイドン!」


「はい、何でしょう阿騎さま」


「お母さんを助けたい、美観お姉さんを助けたい、パスワードについて知りたいゴブ」


「延命パスワード、5年の寿命は変更できませんが、怪我や、病気、過労、が原因で魔力還元するゴブリンは、パスワード入力で延命できます」


「メイ!」


 エルフさんが叫ぶ。


「……」


 メイドンはお母さんを一瞬見た。


「ゴブ、メイドン?何を隠している?」


「……パスワードを入力してもリュート様は回復しないかもしれません」


「ゴ……何故ゴブ?」


「疲労の蓄積が多すぎます」


 体調はやっぱり悪かったんだ!


 気づいてあげられなかった。大事なお母さんなのに!


「出産後の避難生活、心労、メイドンは忠告しました、おばばさまに記憶操作をしてもらい、負担になる記憶を消すようにと。でも聞き入れてもらえませんでした。思い出は消したくないと。メイドンは無力デス」


 おばばさまは知っていたのだ。


「ゴブ、それでも!」


「研究所に向った者は大勢いる。病気や怪我を止めようとして。そして帰ってきた者は誰もいない!」


「ゴブ、メイドン一人で取りに行ける?」


「無理デス。メイドンには行動制限があり、一人では研究所に行けないのデス」

 

 研究所、という名前が出た瞬間、暗く沈んだ気持ち、諦めの気持ち、嫌悪の感情が辺りに満ちた。


 皆、誰かを助けようと研究所へ向ったのだろうな。


 そして帰ってこない。


「ゴブ、二人ならいける?」


「行動制限が解除されます。二人以上ならメイドン、お供できますデス」


「ゴブ、研究所のどこに解除装置があるか、分かるゴブ?」


「技能開発研究所、第2区、総合制御室にありますデス」


「それはどんな形?持ち運びは簡単?」


「解除装置は魔石です。大きさは親指ほどで20個以上保管されていますデス」


「今もその数?」


「規定では、20個以上の保管が定められていますデス」


 すっ、とお兄ちゃんが起き上がる。


「よく寝たゴブ。俺と行こう、メイドン!」


「危険デス、サイザンさま一人では、生還できませんデス」


 即答か、判断基準は?


「ゴブ、いいよ、魔石はメイドンが持って帰れば。お母さんや玲門お姉さん、他の皆も助かるのでしょうゴブゴブ?」


「まてゴブ、待つのだ。ゴブゴブお前が死んでしまったら、母さんは悲しむぞゴブ。これは今まで、何度も繰り返してきたことだ、それにリュートは……」


「ゴブ?今まで何度も?」


 あ、お兄ちゃん怒りだした!

 私も怒りが込み上げてきた。


「ゴブ!とーちゃん。それでも行くよ。来いメイドン!」


「……はいデス。メイドンはサイザンさまと一緒に行きますデス」


「お、お兄ちゃんゴブゴブ」


 無謀だ。


「阿騎、止めるなゴブ!」


 走り出す若いゴブリン。


「何言っているの?止めないよ、私も行くゴブ、お父さん、必ず帰る!!それまでお母さんをお願いゴブゴブ!」


「阿騎!お前はまだ回復途中だ!無理をすれば魔力還元するぞ!そんな身体で何ができる?」

 

 エルフさんが叫ぶ。


「ゴブ?エルフさん、私は後悔したくないゴブ。それが我儘でも。お父さんごめんなさいゴブ」


 脚に力が入らない、それでも。


 後悔はしたくない、後悔だらけの人生は一回で十分だ!

次回投稿は2022/08/13の予定です。

サブタイトルは 無謀な挑戦 です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ