【第50話】 砦へ
ん?気がつくと私の左右にゴブリンが?
「阿騎くん、大丈夫ゴブゴブ?」
「ナイダイさんが横に付けってゴブ」
魔力を使いすぎて、魂魄のバランスを崩した私は動けない。
魔力はコップ以上にあるかも知れないが、使う私がまだ小さすぎるのだ。ため池の管理、放出は水門で行った方がよい。私は小さな蛇口で水管理しているので自然と無理をする。私の身体での魔力行使は、まだまだ無理があるのだ。あと1年もすれば少しは楽になると思うのだが。
(うちらが付いている、大丈夫だよ!阿騎くん)
(ナイダイさん、阿騎くん確保、これから帰るね)
(阿騎は短期決戦タイプだ、強いが本人が思っているほど丈夫じゃない。頼んだぞ)
(青3番は?)
私は目だけを動かし青3番を探す。
(先頭を歩いているよ、大活躍だよね、青3番!)
青3番はナイダイさんの槍を手に皆を先導していた。
ナイダイさんは?
あ、殿を務めている、さすがだ。
上空から見たけど砦の方が明るかった、火事だな。何が燃えているのだ?
気が焦る。
でも今は落ち行け、砦にはヤベンさん、コロさんがいるし、美観お姉さんや玲門お姉さんだっている。
(エルフさん、怪我はどう?)
(まだ上手く動けない、砦の黒い霧はどうなったろう?)
(上から見たとき、明るかった。多分攻撃を受けている)
(斥候は出せんぞ、もし敵に出くわしたなら対応しきれない。青3番を先頭に、このメンバーで警戒して進むのがベストだと思う)
(戦力の分散はできない?)
(そうだ、ナイダイも負傷しているし)
私とエルフさんは、木とツタで作った簡易担架に乗せられて移動中だ。
(私が動ければいいのだが、今回は役立たずだ)
(そんなことはないよ、全員生きて帰還だよ)
(血を流しすぎた、少し休まないと斥候は無理だ)
(そう……)
(お前はどうだ?阿騎?)
(動けない。トイレどうしよう?まだ我慢できるけど)
(くすっ)
(ひどい!エルフさん!これも深刻な問題だよ!笑わないで!)
(いや、私の人狼との合成が知られて、不気味に思われるか心配していたのだが、阿騎、トイレの相談か?お前には救われるぞ)
(エルフさんはエルフさんだよ、変わりない。それよりどうしよう)
うう、前世の記憶邪魔だよ!私、あれ触れないのに!
「と、とまってくれ」
「ゴブ?どうしたのエルフさん?」
「阿騎がおしっこ」
エ、エルフさん!ストレート過ぎますぅ!恥ずかしくて泣きそうだよ!
「分かったゴブ、阿騎くん、起きれる?手を貸すよほらゴブゴブ」
「ゴブ、うちの肩につかまって!男子!周囲警戒お願いゴブ!」
「ゴブ、わ、わかったゴブ」
「警戒?まかせろゴブゴブ」
両脇を支えられ、どうにか用を足す私。
うう、恥ずかしいよう。
身体に力が入らん!
ん?
(阿騎くん、男の子だけど、女の子だからきっと恥ずかしいだろうなぁ、でも、うち女の子だし、少しは安心してくれるかな?女の子同士だし……どうだろう?)
……こ、この子優しい!それにこの気配り、いったい……花丸印が付いているってことは、悪口言われたとき、庇ってくれた子だ!
この印、私と魔力が同等か私以上の者が霊視すると見えるだろうな。
メリットは位置が分かり、私と繋がりやすい!これだけ、だけど。
そうだ、感謝の気持ちは、ちゃんと伝えないとね。
「あ、ありがとうゴブ」
「!」
(ああああああ阿騎くんがありがとうって!う、うれしいいっ!)
(ん?なんか嬉しいぞ?誰だ、喜んでいるヤツ?)
(お?阿騎くんがありがとう?英雄にありがとう、って言われるの感動!)
(おい、トイレのお世話して感動ってなんだ?あとで説明しろよな?嬉しい気持ちが先行して訳が分からんぞ)
(うおおおっ阿騎くんが愛おしい!誰の感情だこれ!絶対俺の感情じゃねーぞ!!)
嬉しい感情が、8人全部に広がるのね。
まだ歩けない私は、再び担架のお世話になる。
暫く進むと異変に気づいた。
まだ皆は気づいていない。
(おい、阿騎)
(エルフさん変な臭いがする)
(これは?何かが焦げる臭い?あと空の色がおかしくないか?)
イヤな予感。やはり黒い霧だけではなく、砦は攻撃されている。
「!」
「ゴブ!砦が!」
鬱蒼とした森を抜けると、予感が確信に変わった。
かなり薄いが、黒い霧が漂っている?
空が赤い。赤すぎる。
砦は襲撃を受けていた。
破壊された第一の門が見えてきた。
扉周辺には魔獣ラグナルの鱗が散乱している。
「ゴブ、この数は?」
どこかにいるはずだ、魔力の流れを妨害しているヤツが。
飛び出そうとする8人とナイダイさん。
「ゴブ、駄目だよ、落ち着いてゴブゴブ。魔力感知と念話が使えない。どこかに流れを妨害している者がいる。まずそいつをたたく」
「ゴブ、どうやって見つけるゴブ?」
「霊視を使い、黒いオーラを探すゴブ。そしてこれを叩きながら砦に侵入する、いいゴブ?」
わかった、と次々に返事をする小さな戦士達。
するとエルフさんが身体を起す。
「ゴ、ゴブ、エルフさん!寝ていないとゴブゴブ!」
じっと砦周辺を見るエルフさん。
「第一の門、右側に一つ、森の中に一つ、門の上部に一つ、先程のヘビもどきの魔獣がいる。あいつを叩けばその周囲の念話は回復するかもしれん」
「凄いゴブ」
「そうでもないさ、魔力感知に頼りすぎて失敗した。オーラを見て位置を知るか、言われてみれば簡単だが、気がつかなければ死だ、ナイダイ、行けるよな?」
「ゴブ、傷は癒えた。子供達ばかりに頼ってはいかんな」
私以外は全員動けそうである。
「阿騎は後方で指示、皆それでいいな?」
「分かったゴブ」
「青3番、お前は阿騎を守れいいな?」
「良、我、守護者?」
「そうだお前は阿騎のガーディアンだ」
それぞれに返事をする戦士達。
今回の人族の目的は何だ?子供達を使って私を誘き出した。
捕獲部隊も用意していたし、目的の一つは私だ。ホルダーの確保であろう。
あとは、新種の魔獣や兵器のテストかな?
城門が壊されているし、対ゴーレムの兵器も?
海岸側が異様に明るいから、メインの戦場は向こうか?
ドワーフの王妃が手引きしたなら、まずゴブリンの村が心配だ。
「ゴブ、うち阿騎くんと一緒にいたいゴブ!」
「なんでだよゴブゴブ、早く砦に行って人族をやっつけないとゴブ!」
「違うゴブ!今回の人族の目的は阿騎くんゴブ。阿騎くんと一緒に行動しないと駄目ゴブ!」
パチッと霊音か響く。あ、今皆で意識を共有したな。
「ゴブ、そうだな、阿騎くん一緒に行こうゴブ、いいよね?エルフさん!」
「しかし……そうだな、そうしよう。だがあの3匹、どうやって倒す?」
「ゴブゴブうちら、一人一人は魔法出力小さいけど、8人の集団魔法で一気に氷漬けにするゴブ。そこをナイダイさんに仕留めてもらうゴブ。エルフさんには魔獣の正確な位置を教えて欲しいゴブ」
そして見事なコンビネーションで、魔獣を次々に撃破していく。
次回投稿は2022/08/11の予定です。
サブタイトルは システムダウン です。