【第47話】 思い出の歌
投稿遅れてすみません。
「ゴブその槍、折ってもかまわん」
「ゴブ、使わせてもらうゴブ」
「ウウ」
「青3番……?」
「ウウ、エルフ、イナイ」
!
悔しいんだろうな、青3番。
「ハッチ、開カナイ」
「ゴブ?はっち?」
マウス状の頭は転倒の衝撃で、半分くらい大地にめり込んでいる。
ごんごん。
殴打の音か?青3番の頭部から?
バコン、音を立て炊飯器の蓋みたいに開く青3番の頭部。
ビックリして見ていると、中から……ゴーレムが出てきた!
骨組みだけのメイドン?スケルトン?
大きさも同じくらいだ。あ、手は長いんだね。
スピーカーみたいな頭、お顔は大きなレンズが一つ。
「ゴブ!も、もしかしてこっちが本体?」
こくこく。
凄い仕組みだ。でもこれ、きっと機密事項の一つでは?
「青3番、ナイダイさんをお願い」
「良」
「では、行ってきます。みんなを奪い返してくるゴブ」
私は妖精の走りで黒い霧を追う。
黒い霧は薄くなったけど、念話も魔力感知もうまくできない。
アンテナ1本?
そんな感じだ。
それでも花丸印の方向は分かる。
ん?黒いオーラが前方に一つ。
待ち伏せか?ブーメランを横に投げ、そのまま直進する。
黒いオーラからは悪意が揺らめき立っている。
この霊視、オーラが見えて便利だ。相手の状態がよく分かる。
バコン!と黒いオーラを後方から襲撃するブーメラン。
黒いオーラは怒り襲撃方向へ針を放つ。
その隙に接近、くらえ一撃!
思いっきり抜きを放つ。
魔獣は魔力還元する。
お兄ちゃんの友達、私の歌を聴いて喜んでくれた子供達、助けなければ!
ん?
声が聞こえる?
子供達だ!
歌?歌を歌っている!?
歌声は、山頂付近から聞こえてくる。
私が屋根の上で歌っていた曲だ。
花丸印の子待っててね、必ず助けるから!
マーキングの付いた子ならば、念話が繋がりそうな気がする。
山頂は小さな広場になっていた。
黒い霧はどこにもいない。
どこへ行ったのだ?満たした方が有利だろうに?
これなら密かに魔法を使っても分からないのでは?
そこには子供達が8人と、巨大な蛇のような生き物が一匹いた。
見るからにボスだ。今までのヤツと形は同じだが、大きさが違う。
怖くはないが怖い。
亜紀は怖がっている。でも阿騎は恐れない、静かな怒りに満たされている。
黒い霧がないので、相手の容姿がよくわかる。
念話もできるようだし、ナイダイさんまで届くかな?
巨大な蛇のような生物は、全身が鱗ではなく、長く赤黒い鋭い針で覆われている。
頭部は獅子とワニを合成したような容姿で、一角獣みたいな細く長い角が一本、頭部から伸びている。先端が、黒くくすんでいる?
大きさがイヤだな。
このデカい牙だらけの口は、ゴブリンを一呑みにできる大きさだ。
「あ、阿騎くん!」
「ごら、歌え!歌い続けろや、殺すぞ?」
し、しゃべった!!
今までの魔獣とは明らかに違う!!
これは?
「お前か?歌、教えたのは?誰から教わった?この歌?いい歌じゃねぇか」
まさか、このアニメの歌を知っている?
そんなはずはない!
巨大な胴体がうねる。
全身を覆う針が、身体に合わせて不気味に蠢く。
これ、もしかして体毛か?
ウニみたいな感じだが?
ヒュン。
!
トス。
針の一本が私の耳を掠める。
正確な攻撃。
〈やはり筋肉を使って、針を押し出している〉
「答えろや、次は当てるぞ?」
「……」
どうする?
「ギャウッ」
悲鳴が上がる。子供の一人が腕を押さえ倒れる。
「ゴブッ!なっ!」
針が一本、右腕に突き刺さっていた。
助け起し、針を引き抜こうとした仲間の動きが止まる。
「お、そうだ、よく気が付いたなぁ針は返しが付いている引き抜けば、傷口が抉れるぜゲハハハハハッ」
すると針が水に包まれる。
「ゴブ?」驚いたのは私だ。
瞬時に凍りするり、と抜ける。
「お!なかなかやるなぁちび共」
「ゴブ、子供に酷いことするんだねゴブゴブ」
「別に、お前に当てるとは言ってねえぇぜ?次は目だ、答えろや」
ああ、酷いという感覚か無いのか?
どうする?
どうしよう?
答えるだけだ、でも答えたら駄目だ。
答えたら対等ではなくなる。今の私は亜紀ではない阿騎だ。
亜紀にできないことが、阿騎ならできる。
「……」
ヒュン。
針が飛ぶ。
キンッ
乾いた音が響き、体毛の針が落ちる。
「な!」
驚く魔獣。
「ゴブ、なぜ歌にこだわる?答えろゴブ、次は目だゴブゴブ」
「きさまぁ死ぬぞ?」
子供の目を狙った針は、私の氷の玉で弾かれ地面に落ちた。
エルフさんの投げ矢を見て思い出した技がある。
そしてこの魔獣の左耳には、同時に弾いた玉が穴を開けていた。
指弾ってヤツだ。
魔法で作った氷の玉を握り、親指でピン、と弾く。それだけの動作だが、効果は抜群である。魔力を込めた氷の玉は弾丸のように飛び、対象物を打ち抜く。
魔法の玉はサナさんから貰った真球がモデルだ、正確にブレずに飛んでいく。
「ゴブ、ピアスする?右耳にも、開けてやろうかゴブゴブ?」
この異形のヘビ、本気で子供の目を狙った。こいつに手加減、情け無用だな。
ん?
ずるり、ヅルリ、と何かを引きずる音。
「おい、ゴブリン、どうするよ?更に状況が悪くなったぜぇ?魔獣一匹追加だぁ」
逃がした残りの1匹か?
目の前のヘビのような魔獣より、二回りほど小さい、同じ魔獣が近づいてきた。
その口には。
「ゴブッ!エ、エルフさんっ!」
牙に刺し貫かれた、血だらけのエルフさんがそこにいた。
時間指定は無理がありました、すみません。
次回投稿は2022/08/06の予定です。
サブタイトルは 反撃 です。