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【第43話】 夕暮れの告白

 いや氷と金属、撓みとか歪みとか違うでしょう?

 ヤング率や断面2次モーメント無視できるかな?ドワーフの経験だけで完成するかしら?


 それとも、難しく考えすぎかな?


〈ドワーフの経験だけで巨大ブーメランは作れる〉

〈飛ばし方も、飛び方も、ゴーレムのキャッチもドワーフは見た。彼らの経験で十分に作れる〉


「無理か?」


「ゴブ、できる」……と思う。


「そうか、できるか、完成するか。ドワーフ達よ、早速作るぞ」

「ゴブゴブ金属、材料はあるのですかゴブ?」


 砦は殆ど鉄製だし、道具や建築材料も金属が多い。

 どこから調達しているのだ?


「呼べばよい、呼べば来てくれる」


 え?鉄を呼ぶ?呼ぶとは?

 私は答えを求めるようと、エルフさんを見る。


「ドワーフは大地に祈りを捧げ、金属を呼ぶことができる。多分、召喚魔法の一つ、と思うが」


「ゴブ!金属召喚?」


「ああ、条件は色々とあるようだがな、その辺は秘密だそうだ」


「阿騎、阿騎、世話になった、よくやった。そなたに褒美、喜ぶよろし?」


「ゴブ?え!ご、ご褒美もらえるのですか!昨日、あんなことしたのに!」


 サナさんが青3番から下りてくる。


「お、よかったな、あれは珍しいものだぞ!10年、いや30年に一度か?アレは虹鳩より貴重だぞ」


「なにゴブ!なにゴブ!」


 わ、なんだろう!捕れる?虹鳩より貴重って?


「さあ受け取れ、喜んで踊れ!」


「!!」


 ……王様がその手に持つのは……私より、王様よりデカい体長3m程の……とかげさん?


「ゴビーッ!!」


「おお、そんなに嬉しいか!我キングも嬉しいぞ」


「凄いな、ここまで大きくなるとは」


「ああ、ここまで成長する前にワシらや、角イノシシ、タックルベアーなどに捕食されるのだがな、よく生き残っていたモノだ」


「うっかりトビトカゲ、と言うらしい」


「ほう?」


「つい、うっかり、気がついたらデカくなっていた、と?」


「ははははっおもしろい名前だなぁ以外と新種かもしれんぞ?」


「なあに、美味ければそれでいい」


 皆、欲しいのかな?もはや恐怖なんですけど、その大きさ。ちっちゃい魔獣みたいではないか!


「ゴブ、王様、大きすぎて持って帰れませんゴブ」


 それとなく断る私。


「お?では届けよう、ではこれにて解散」


 届くのね、アレがお家に……。

 ?

 青3番がこっちを見ている?

 ……気がする。


 私は背伸びをして、手を振る。気づくかな?

 青3番は直ぐにその大きな腕を振り上げ、ブン、ブンと振り返してくれた。


 私は嬉しくなって、楽しくなっていつまでも手を振り続けた。


「阿騎、夕暮れだ、そろそろ帰るゾ」

 

 エルフさんが余った手を握り、ゆっくりと引っ張った。

 村長さん、エルフさん、コロさん、私、大地に長い影が並ぶ。

 おばばさまとヤベンさん、ナイダイさんは王様と何やらお話があるらしい。


「阿騎、話しておきたいことがあるゴブ」

 

 こちらもお話だ。


「なんですか、村長さんゴブゴブ」


「ドワーフの王妃のことと、メイについてだゴブ」


 メイドン?王妃のことは分かるけど、メイドンとは?


「コロ、周囲警戒」エルフさんが厳しく命令する。

「いいぜ、ゴブ」

「阿騎、はっきりと言うと、私は、いやここにいる3人は、お前がホルダーだと確信している」


「ゴブッ!」と、突然、なにこの発言?


「そこでだ、メイがお前を一般登録したと聞いたが本当か?」


「はいゴブ。お兄ちゃんがフレンド登録で、瓦礫から助けた私が、一般登録なんて、酷いと思いませんかゴブゴブ!」お兄ちゃんばっかり!


「聞き違いではないのか?」


「ゴブ?」


「フレンド登録は友達、この場合、妖精だ。一般登録は一般人、つまり人族を指す」


「!」


 メイドンが私を人族として認識?私ゴブリンだよ!


「メイはお前を、人族として認識していることになる。そして接近を試みている。メイの目的が分からん、注意が必要と思う」


「ゴブゴブ、注意?メイを危険視するの?」


「……危険視はしていないが」


「ゴブ、気にしすぎでは?人族?私はゴブリンだよ?ゴブゴブ」


「あいつは確かに私達を解放したが、あれは人族の兵器だ。少しは警戒したほうがいい」


 警戒?警戒とは?


「メイドンがスパイだと?ゴブゴブ?」


「違う、そこまでは言っていない。あいつは確かに研究所の人族と敵対している。それは間違いないのだが、問題もあるのだ」


「問題ゴブ?」


「以前、メイにこの島の地図と研究所の間取りを聞いたことがある」


「え?それ凄いゴブ!」


 地図があるなら、見てみたい。世界地図とかかな?それに研究所の間取り!トップシークレットでは?攻略に役立つ!


「メイは公表を断った」


「え、どうしてゴブ?」


「分からん、メイは沈黙で答えた。それからメイはお前同様、魔獣を倒すことができる。そこで反撃を試みたことがある」


「こちらから先制攻撃ゴブ?」


「ああ、だがメイはこれも断った。主より、守れ、と言われているから、進んで攻撃はしない、と。メイは何かしら行動に問題があるのだ」


「ゴブ行動制限があると?」


「そうだ、それ、その通り」


「ゴブゴブ、メイは我々の解放者だが、注意をしてくれ。特に阿騎に対する質問とか行動には」


 数式で議論したな?

 軽率だったかな?


 ここで一つの考えが浮かぶ。


 この考えに対して、脳内アラームが鳴り響いた。

 まるで、私の考えを否定するかのように。


〈違う、駄目だ、その考えは間違っている〉


 私はその考え、疑問を口にしてみた。


「ゴブ、ねえ村長さん、エルフさん、コロさんゴブゴブ」


「なんだ?」


 私の雰囲気の変化を、即、感じ取ったのはコロさんだ。


「……ゴブ?」


「ゴブゴブ、ブーメランや魔獣を一撃で倒す技、地形を変えるほどの魔法攻撃、ため池クラスの魔力、私とメイドンの違いは何?あなた達にとってホルダーの位置づけは?」


「……」


 彼らは答えない。


 沈黙。


 暫くして、エルフさんがそれを破る。


「阿騎、君は元人族の女の子ではないか、と思う。それも優秀な子だ。家族を大事にするから、愛情ある家庭に育ったか、その逆、家族から迫害された子だと思う。ただ、その異常な力は説明できない、私にも分からない」


 異常ね。


「ゴブ……異常?それでもゴブリンだよゴブゴブ、メイドンを警戒するように、私も警戒するの?」


 泣きたくなった。


 この世界に私一人しかいない、そんな孤独な気持ちになった。

 この気持ちは、前世でも味わった。

 心が死んでいく悲しい気持ちだ。


 不条理な暴力、忘れることができない暴言、暴行。なぜ忘れられない?


「す、す、すまん。お前を問い詰めるのが目的ではないのだ」


「ゴブ?目的?」機械的に、私のうつろな目が動いた。


「お前はゴブリンだ。ニトとリュートの大切な子供だ。大切な仲間だ!そして私はエルフだ」


「……?」目的?どんな目的?何が言いたい?


 私が目的、という言葉に興味を示すと、兵器としてのバランス感覚が目覚めた。


 暗い、悲しい気持ちが横に逸れて、目的とは何だろう?と考え始め、沈んだ気持ちが薄れていった。

 ホルモン、という言葉が脳内に響く。我々ゴブリンは体内で、セロトニンやオキシトシン、ビタミンを大量に作ることができる。

 

 なんだこの考え、知識?私はそんなこと知らないぞ?レイモンお姉さんの記憶だろうか?セロトニン?聞いたことがある、たしか幸せホルモンとか言うヤツだ。

 

 兵器としての能力が、先程までの沈んだ気持ちを霧散させた。

 ふっ、と言葉が脳内に浮かぶ。

 

 作戦遂行に邪魔な感情は制御される。


 これは気をつけなければ、と思った。気持ちは穏やかになったが、失いたくない感情までも消されてしまいそうだ。


「同じ妖精族として頼みがある」


 この私に頼み事?相手、間違っていない?


「阿騎、お前のその知識と力で私達を助けて欲しいのだ、これが言いたかったのだ」


 助ける?この私が?


「なにをする気なの?ゴブゴブ」


 目の焦点が合ってきた。脳内でアラームが鳴り始める。

 しかしこのアラームは?


 おかしい、ドキドキ、ワクワクするアラームだ!先程と全然違う!


 村長さん?なに激しい感情?!怒りに近い?

 コロさん?これは?憧れか?悔しさ?


「私達は……」


 私達は?エルフさん?なに?


「この島から脱出し、故郷に帰りたい」


 え、帰る?帰る!


「そう、帰りたいのだ。目指すは、ン・ドント大陸、妖精族の首都ルゥリー・トゥルゥリー」


 その帰りたい、という言葉は、私を激しく打った。


挿絵(By みてみん)


次回投稿は2022/07/31の予定です。

サブタイトルは 記憶の中の懐かしい場所 です。

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