【第39話】 新しい魔法
22日投稿になりました。
ゆっくりと二人の女性が歩いてくる。
一人はかごを持ち、もう一人は?
あ、落とした鳥を持っている。
な、な、な、何故二人がここに?
「ゴブゴブ、キノコ狩りよ」
美観お姉さんが、かご一杯のキノコを見せながら言う。
「こんにちは、皆さんゴブゴブ。ビックリしましたゴブ、突然落ちてくるんですものゴブゴブ」
「ご、ごめんなさいゴブ、怪我はありませんでしたかゴブゴブ」
うう、玲門お姉さん眩しい、声も可愛いし。目を合わせられない!
しかし、自然と唇に目が行く。
ふっくらとした唇。い、いかん今度は目が離せん。
私に、記憶を移してくれた人。
私や母を守ろうと、命を投げ出した人。
呼吸の止まりかけた私を、必死に助けてくれた人。
私は、この人を……なんだこのドキドキ。
一瞬、まどかの影が過ぎる。
その姿を見せたのが、私の良心なのか、脳内住人なのか、兵器としてのバランス感覚なのかは、分からない。分からないが、冷静になった。気持ちがフラットになった。
私の雰囲気が、がらりと変わる。
「!」ちょっと驚くサナさん。
「どうした?雰囲気が変わったぞ?スイッチが入ったか?」
エルフさん、なんのスイッチ?
まず鳥をじっと見つめる私。
「ゴブ、サナさん、この鳥、食べられますよね?ゴブゴブ」
「ああ、こいつ鳥の中でも特に美味いぞ」
「虹鳩といってな、捕ることが難しい鳥よ」
エルフさんが補足する。
「ゴブ、美味しいの?」
「ああ、祝いの席に出るくらいだ」
「ゴブゴブ玲門お姉さん、食べます?それ」
「ゴブ?え、こ、これを?阿騎くんが落としたのでしょう?も、もらえないよ、ゴブゴブ」
「びっくりさせてごめんなさい。謝罪します、二人で食べてください」
「!!!!!!!」
その場にいた全員が私を爆見した。
一人を除いて。
ヒュンと音を立て、ブーメランが戻ってくる。
パシッと軽い音を鳴らし、コロさんの手に収まる。
「阿騎、気に入ったぞゴブゴブ。この武器は風魔法との相性が抜群だゴブ……ん?どうしたゴブ?」
「コロ、よく聞け。虹鳩をこの二人に食べて、だとよ」
「誰がゴブ?」
「阿騎が、美観姉妹にだよ!」
「ゴブ、阿騎、お前二人同時に求愛とは、凄いなゴブゴブ。だが決魂は2年生からだぞ?」
「ゴビッ?き、求愛?ケッコン!?」
ま、またなんか踏んだ?
「虹鳩は簡単には捕れない。それを渡し食する、と言うことは『虹を呼ぶ鳥をあなたに捧げます。どうか我が君と呼ばせてください』と言う意味があるらしい」
「ゴブッ、え、エルフさん、どういう意味ですかそれゴブゴブ!」
「ようはこの鳥あげるから、妻になってくださいってことだよ」
一年生前で夫になるのか?と付け加えるエルフさん。
「つ、妻?夫?ゴブゴブ」
「まあ、求愛行動は双方向、男女どちらからでもOKだ。虹鳩は男からのみ、らしいが」
(女性→男性は桃かジャバラだそうです。因みにこの島にはない)
ど、どどどどどうしよう!?
あ、また動揺が始まった!
知らなかったとはいえ、取り消しは、非常に失礼極まりないことだよね?
お姉さん達はどう思っているのだろう?
「レーどうするゴブ?それ、とにかく美味いらしいぞ?取敢えず貰っておくかゴブゴブ?」
「と、取敢えずなんて駄目だよゴブゴブ」
「真面目だなぁレーは。んじゃ断るかゴブ?私は年下でもいいけどゴブゴブ」
「ゴブ!姉さん!」
わ、玲門お姉さんお顔が真紅だ!
「ゴブ、それに魂は女の子だろ?その辺のがさつで下品な、ヤローゴブリンより、遙かに優しくて、そうそう話も合うし、子育てなんかも参加してくれて、助かると思うのだが、どうだ?ゴブゴブ?」
「ゴビッ……ど、どうだって……」
玲門お姉さん、オーバーヒート?フリーズ?
「冗談ゴブ。多分、知らずに渡したんだから素直に貰っておこうぜゴブゴブ。阿騎、ありがとなゴブ、こんな美味しいモノ。喰ったことないけどゴブゴブ」
「あの、阿騎くん、ありがとうゴブゴブ」
「ど、どういたしましてゴブゴブ……」
「どうした、歯切れ悪いな?他に言いたいことでもあるのか?」
そう言ってエルフさんはブーメランを大空に投げた。
「ゴブ、じ、実はゴブゴブ」
そう、実はあるのだ。
昔から考えていたことで、魔法が使えたらやってみたいこと、リストの上位にある実験。
「何を言いたい?早く言った方がいいぞ?」
パシッ。戻ってきたブーメランを、華麗に受け止めるエルフさん。
この人、なにやっても決まるんだよなぁ弓矢が苦手なんてホントかしら?
「投げ矢に通じるモノがあるな、これは使える」
「ゴブ?私達に言いたいことですかゴブゴブ?」
「ゴブ、美観お姉さんは炎魔法の使い手ですよね?玲門お姉さんは氷と水ゴブ?」
静かに頷く二人。
「ゴブ、そして二人は、強さを求める戦士ゴブ」
私は脳内に浮かんだ言葉を口にした。
あ、二人の雰囲気が変わった。
「その戦士に何用だゴブゴブ?」美観お姉さんが戦士の顔付きになる。
「ゴブ、ファイヤーウォールの使い手」
「ああ、魔獣には効果無しだが、あれが私の最高出力魔法だ」
「ゴブ、同じ魔力で、あれ以上の技になるかもしれないゴブ」
「な、ゴブ?本当か!?」
「まて、同じ魔力で出力が異なる?不可能だろう?」
エルフさんが眉を寄せる。
「今から見せるゴブ」
私はファイヤーウォール小型版を50m程先に作る。
「小さいな、しかし、一年にも満たないのに、よく作れるな、関心するぞ」
「ゴブ、エルフさんこれからだよ。美観お姉さん、玲門お姉さん、あれを今から圧縮するね、できる?」
「ゴブ?圧縮?圧縮って?できるかな?見ればどうにか、ゴブゴブ」
ファイヤーウォールは段々と小さくなり、大地の一点と化す。
一点に見えるが、よく見ると小さな光の粒が、いくつも集まっている。
「ゴブ、あんなに小さくして、どうするつもりゴブ?ファイヤーウォールは固定魔法、あれでは攻撃も防御もできないゴブゴブ」
「玲門お姉さん、よく見ていてねゴブゴブ。力の配分間違えると、このお山が半分くらい吹っ飛ぶからゴブ」
「おい、半分とは大きく出たな?」
思わず笑い出すサナさん。
魔力と物理の関係が今ひとつだが、本気で発動したら、多分この島の形が変わる。
ファイヤーウォールは更にエネルギーを増しながら圧縮される。暫くすると魔力が結晶化を始める。
もう、いいかな?
次に、玲門お姉さんの目の前で水の玉を沢山作ってみせる。そしてそれを拳大の大きさに圧縮する。
「ゴブゴブ、これであのファイヤーウォールの結晶達を包むゴブ。さてどうなるゴブ?」
玲門お姉さんは答えた。
「火に水でしょうゴブゴブ?火が消えるのではなくてゴブゴブ?」
「では実験。合わせると、こうなる!」
目の前の水粒の集合体は消えて、遙か前方で炎の粒達と重なる。
重なる瞬間、火を解放し、水を更に圧縮する。
ドドドドオオオオン。
水蒸気爆発。
地響きと共に、半径50m以上の大地が大きく抉られる。
勿論、私達も巻き込まれる。
おっかしいなぁ脳内シミュレーションでは、ドカン、くらいだったのに。
ここまで凄いとは。
ごめんなさい、配分間違えました。
これからが大変だった。
まず、メイドンがやって来た。
「なにごとデスか?」
次、ナイダイさんがやって来た。
「ゴブゴブっ!敵襲かっ」
次、ゴーレム赤1番がやって来た。
次、ゴーレム緑2番がやって来た。
次、武装ゴブリンが沢山やって来た
次、武装ドワーフが大勢やって来た。
そしてドワーフの王様がやって来た。
めちゃくちゃ怒られた。
ゴブリン村長がやって来た。
とんでもなく怒られた。
村に帰る。
ヤベンさんに怒られた。
おばばさまに怒られた。
また村長さんに怒られた。
おとーさんに怒られた。
お母さんは、怪我はなかったの?と心配した。
お、おかあさん、ご、ごめんなさい。
この時だけ、涙が沢山出た。
お母さんの言葉一言が、一番響いた。
お兄ちゃんは言った。
「ゴブゴブ!阿騎、今度は俺も誘ってよ!阿騎ばっかりずるいゴブ!」
お兄ちゃん、そんなあなたに、私は救われます。大好きです。
玲門お姉さん、あなたを吹飛ばすのは2回目ですね。虹鳩も折角集めたキノコも、どこかに飛んでいきましたが、どうか嫌いにならないでください。
な、な、なんて言って謝ればいいんだあああああっ!!!
……ごめんなさい。
いったい、ごめんなさい何回言ったら足りるのかしら?……しくしく
次回投稿は2022/07/23の予定です
サブタイトルは 私は謹慎中 です