【第3話】 迫り来る死
出たが、どこが一番安全だろう?屋内でアタックが始まったと言っていたけど?
外に出ればナツの負担は軽減するのかな?
いや、部長は屋外で被害にあった。敵企業のAIはナツを相手に30分も戦えるスペックだ。警察に行く?説明は何とする?
「早く、走って!」
会社を出て、駅構内をかなり走ったが何処へ向かえばいいのか。
「ど、どこへ行くつもりなの?」
息切れが激しく、目が回る。
電車や人混みの騒音で、私の小さな声など掻き消されそうだ。
心臓は今までの人生で一番早く動いている。こんなに本気で走ったことは、産まれて初めてだ。
「警察だよ、会社の幹部達、異常だ」
後少しで30分、ナツは大丈夫だろうか?
その時、黒い影が過った。
ゆっくりと倒れ始める横山君。彼は立てた鉛筆が倒れる様に、パタリと倒れた。
ゴツッと鈍い音が響く。
コンクリートの縁石に向かって、頭から倒れたのだ。
私は横山君を支えようとしたが間に合わなかった。
横山君!
私の声は、叫び声にも成らず、ただ口を開けるだけだ。
そして黒い影が私に迫る。
手に警棒を持った不審者2人、会社にいた警備員だ。
「!」
追いつかれた!だが私は……目の前の横山君を残して行けない!
カンストはしていないけど、どうしたらいいか分からないけど、おいていけない!どうする!?
警備員の一人が私の髪を掴み、引き倒そうとする、が私の髪はウィッグ、かつらだ。手に私のウィッグを握りしめ驚く警備員。
目の前に現れたのは、斑に髪の毛の生えた19歳女子。
私の姿をみて再び驚く警備員。
この私の姿、読者さん、君も笑うかい?
怯んでいた私だが、気持ちに力が入った。血を流し倒れている横山君の姿を見ると、更に怒りの激情が込み上げてきた。
その怒りに身を任せ、一番近くにいる警備員の足の甲をおもいっっっきり踏みつける。
「ぎゃあああっ」
そいつは悲鳴を上げると、痛さのあまり身を丸めるように、私に対してお辞儀した。
私は拳に力を込め、そいつの顎の先端を横殴りに打ち抜いた。
ぺちっ。
情けない音が鳴る。ほとんど聞き取れない音だ。
が、180㎝は余裕にあるそいつの身体は、がくんと膝を着き、うつろな目で動かなくなった。
脳が揺れたのだ。ふん、格闘ゲー300戦無敗の拳だぞ。
もう一人の警備員は眼を見開き私を見た。
「わ、悪いようにはしないっ、おとなしくしてくれ」
あほか、こいつ?悪いように?誰が信じるか!
「横や……」
私は横山君に駆け寄ろうとしたが、何者かに突き飛ばされた。
ふわっと体が浮く感覚、次に来る衝撃。
「ぐっ」
息が詰まる。
混乱する私、何が起きたの?全身が痛い、動けない!
誰かが私をプラットホームから突き落としたのだ!駅のホームドアが開いている?なぜ?転落防止のゲートが?いや、それよりも……。
振動が体を揺する。
目の前に巨大な電車の顔が迫る。
「秋津川っ!」
横山君が叫びながら右手を伸ばす。
血だらけの手だ。右目も血が入って開いていない。
私は右手を伸ばそうとするが動かなかった。目の前が白く染まり音がなくなる。
すると記憶があふれ出し、思い出が駆け巡り始めた。
え?
これ、
もしかして、
……
走馬灯だ。