【第37話】 おばばさま2
そう、それは夜寝るとそれは始まる。
お昼寝でも同じ。
寝ても起きても修行!
……私の安らぎの場所はどこ?
「安らぎ?安らぎの場所は自分で見つけて、確保するものじゃ。欲しかったら探せ、作れ」
「ローローは冷たい」
「ほっほっほっほっ冷たいか、魔法使いはクールでなくては務まらん」
「え~っ、昨日の夜はホットな熱い感情が魔力を高めるって言ってたじゃん!」
「おや?そうじゃったかな?じゃ今日は魔法について少し深く教えよう」
こんな感じで修行が始まる。
夢の中の日本庭園、いつもの場所。
ネーネーは池の亀さん (白色) とお話中である。
なんか楽しそう。
「いいか、魔法はイメージじゃ」
ふんふん。
「じゃが、イメージだけでは発動しない」
ふんふん。
「魔法は魔力で扱う。魔法を使うためには、魔法が必要なのだ」
ふん?
「己の内側に魔法、魔力が無ければ、己の外側にある魔力は扱えない」
ふっ?
「実践するぞ、炎をイメージして、炎を作り出す。ワシの魂魄の内に秘めている魔力が世界に満ちている魔力に働きかける。炎の出来上がりじゃ」
おおっ!
「この炎は物質世界にある炎とほぼ同じ性質になる」
「質問!」
「なんじゃ?」
「真空状態でもこの炎は消えないのですか?」
「消えない」
「え?!」
あり得ない。
「魔法の火に酸素は必要ない。必要なのは魔力。これは魔力が形を変えているだけだ。ただし、酸素にも反応はする」
「酸素は、あればいいが、無くても燃えると?」
「そうじゃ」
「便利」
「ただし、行使者の魔力は減り続ける。酸素の代わりにな」
「げっ、減るのですか、どうしたら増えます?」
「外の魔力を魂魄に取り込む、すると回復する。ただし上限は個人で異なるぞ、お主は上限が、かなり高く強力な魔法が使えるが、減った魔力は急激に回復しないからな、注意しろよ。魔力は自然と魂魄が周囲から取り込むのじゃ。取り込む量は大体皆同じ、だから使いすぎには注意じゃな」
「補充は簡単にできないと?」
「そ」
「今回の講義は、魔法を使うのに極めて重要事項なのですが、私、朝起きてこの事覚えています?」
「無理じゃろな、半分も覚えてはおるまい」
「ローロー!それじゃ意味無いんですけど!」
「夢の記憶を思い出すのが、起きているお前の修行じゃ、生き残りたければ必死に思い出すんじゃな」
「それすらも記憶できそうに無いんですけど!」
「ほっほっほっほっ生きることにしっかりと向き合うんじゃな、それしか言えんよ」
そして朝、目が覚める。
この繰り返し。
夢の中で何かしている。何をしている?
思い出せない!
何か重要なことを教わっているのに!
このことを、おばばさまに相談してみる?
本当は自分で解決しようといたが、まったく手が出ない。
どうしたらいいか、わからん!
かといって、ほっとくわけにもいかん!
今後のゴブリンやドワーフの将来を左右する夢だと、それは分かっているからだ。
このおばばさまを信用していいのかしら?
前世では紙切れ一枚で命を落とした。
夢の記憶を再現する、思い出す方法かヒントがほしいのだが……。
私は正直、素直に聞いてみた。
「ゴブ、私はおばばさまを信用していいのですかゴブゴブ?」
「はて?基本ゴブリンは他者を信用しないぞ」
「ゴブ!そ、そうなのですか!?」
「信用するけど、信じない。信じないが、信用する。この矛盾だらけの考えが基本スタンスじゃ」
……わからん。
独特の文化だな、理解に苦しむ。
「ゴブゥ」
「好きに判断するよい」
エルフさんを心配しているお人柄だ、相談してみよう
「ゴブゴブ、夢の中で教えを受けています。多分ですけどゴブ」
「!!」
「ゴブ、目が覚めると、何一つ思い出せませんゴブ。いや時々は思い出しますがゴブゴブ。この記憶を再現したい、思い出したいゴブ。方法はありますか?ゴブゴブ」
「ちょっと待て、阿騎!お主危険な状態だぞ?分かっておるのか?」
「ゴブ?」
「夢のお告げほど危険なモノはないぞ」
「ゴビ?」
「相手は魔物かも知れん。種族の守護者かも知れんし、精霊かも知れん、本来ならば審神者が必要じゃ」
「ゴ……?」
……わからん。
おばばさま何を言っておいでだ?
「困ったことに、ここに審神者はおらぬ」
「ゴブ、質問」
「なんじゃ?」
「サニワとはゴブゴブ?」
カードかゲームで少しは聞いたことあるけど、この世界では??
確かご神託を解釈して伝える人だったかしら?
あと、伝える神様が本物か偽物か判断する人、だったかしら?
「阿騎に夢見をさせている者が、異界の魔物だったら打つ手がない。この島には異界の魔物と戦う戦士はおらぬし」
「ゴブ、そんなに危険なのですか?」
「昔、ン・ドント大陸に夢見る者、オークがいた。このオークは夢の教えこそ世界を救う教えだと信じて疑わなかったのだ」
夢からの教え、これは同じだ。
「この者に夢を見せたのは異界の魔物だ、魔物は血を好み、負の感情をエネルギーとした。要は苦しみや、悲しみ、恨み、妬み等の感情が糧だったのだ」
「ど、どうなったゴブ?」
「オークは王に退治された」
「ゴブゥ!」
「オークの教えは異常だが沢山の妖精を引きつけた。そしてその集団エネルギーはさらなる魔物を呼び寄せた。この者達はついに異界のゲートと化し、異界の魔物達が侵略を始めたのじゃ。彼らには異界の魔物達が天使に見えたそうじゃ、これで世界は救われると」
「……」
「遙か昔の話じゃが、王族に伝わる大切な伝承じゃよ。そして異界からの侵略を止めたのも夢のお告げじゃ。さて阿騎、お主の夢はどちらじゃ?」
……わからん。どっち?それを聞きたいのだが。
少なくとも侵略はしないと思うし、悪意はないと思う。でも怨霊みたいな存在とか言っていなかったかしら?
なんと答えようか?
「ゴブ、この夢、止めようがないのですねゴブゴブ?」
「そうじゃな、審神者もおらぬしのォ。知恵絞って検討するか」
「おばばさまが、サニワされるのですかゴブゴブ」
「ワシだけではない、お主も考えろ!ホルダーじゃろ?その知識を生かせ!」
これ相談して良かったのかしらん?
「ゴブゥ、私の知識なんて微々ですゴブ。言えるとすれば、もし変なこと口にし始めたら、私を退治してくださいゴブ」
これくらいしか考えつかないよ。
「天晴れ。その心がけよろし!夢の中で、どのような事を覚えている?」
「ゴブ、思い出せたことは魔力の使い方とか、剣術、剣の使い方とかゴブ」
「……そうか、お主を鍛えているのだな、悪い精霊には見えぬが」
「ゴブ、他はよく思い出せませんゴブ」
どうする?おばばさま?
「お主の記憶を覗いてもいいが、悪しき者だったらワシまで汚染されてしまうな?おそらくワシ以上の存在であろうし」
「ゴブゥ、どうしますおばばさま?」
「夢の思い出し方を教えてやろう、とりあえずこれが一番無難じゃ」
「ゴブ!いいのですかゴブゴブ!」
「それで悪に走ったらナイダイに成敗してもらう、よいか?」
「……ゴブゥ、それでいいですゴブゴブ」
「では教えるぞ」
「はいゴブ」
「夢の再現は、半分眠るのじゃ」
半分眠る?
また意味不明なことを……。
「どういう意味ですかゴブゴブ」
「そのままじゃ」
そのままが、わからん!
「よいか、夢現の状態を意識的に作るのじゃ、夢と現実を同時に感じる状態に意識を固定する。するとリアルと夢の両方に意識が跨がる。その状態になると双方の記憶が手に入る、分かったか?」
「ゴブウ、ぐ、具体的には何をどうすればいいのですゴブ?」
「起きるように寝る、寝るように起きる、まあ実践してみるがよい」
ゴブリンの文化って奥が深い……深すぎて理解が追いつかない、それとも理解できないのは私だけか?
ぴこぴこ。
おばばさまの左目がピクッと動く。
ん?いまメイドンの足音が聞こえた……かな?
「さて話はここまでじゃ、いつでも遊びに来い。他にも色々話をしてやるし、ワシが知っていることは全て教えてやろう」
扉を見るおばばさま。
ん?
バンと扉が開く。
わっ!気配を消して扉を開けた!誰!?
「ゴ、ゴブ、あ、阿騎!早く帰ろう!」
「ゴブ?ど、どうしたのお兄ちゃんゴブゴブ?」
「に、逃げてきたゴブゴブ!じゃ、おばばさま、今度トビトカゲ持ってくるね」
「ああ、楽しみにしておるよ。あの二人から逃げ出すとはサイザン、お主才能アリだなハハハハッ」
遠くから声がする。
「ゴブブッどこに行ったああっ!」
「俺達から逃れたぞ!?ホントに機織りの後継者かゴブ?並の戦士以上の動きだぞ!!」
「ひ~っゴブゴブゴブゴブ、あ、阿騎、はやくはやくゴブ!」
おばばさまの笑い声を後ろに、私達は猛ダッシュで家に帰った。
さてでは、夜寝るとき朝起きるとき、早速実践してみるか?
上手くいくのかしら?
次回投稿は2022/07/21の予定です
サブタイトルは それは大空に舞った です。