【第34話】 そして一夜が明けた
我が家の一員として振舞うメイドン。
「お、お父さん!」
説明を求めようとしたが……・
「やあ、おはよう阿騎、メイドン、あとで薬草摘みいいかいゴブゴブ?」
「はい、ニトさま。メイドンはお手伝いしますデス」
ち、ちょっとお父さん?いつからなのこの設定?
「ゴブ!あ、メイドン」
「これは、おはようございますリュートさま」
「ゴブゴブ、ニトの後でいいから、染め物、手伝ってゴブ!」
「はい、リュートさま。メイドンはお手伝いしますデス」
お、お母さん?さも当然のごとくメイドンに頼み事?
私、何も聞いていませんが?
「はよう、メイドン。はよう阿騎、ゴブゴブ」
カチン。
私が二番目。お兄ちゃん!メイドンより先におはようって言ってよ!
「こ、こ、これはおはようございますサイザンさま。朝食は、あと少しだけお待ちくださいデス」
「メイドンは働き者だねゴブ。あとで狩りに行こうよ、角イノシシの狩りの仕方教えてゴブ!」
「はい、サイザンさま。メイドンは狩りのお手伝いをしますデス」
反省は、したつもりだが……なんかイヤ。なんかメイドン、嫌い。
「えーと、メイドン、ドワーフの村とか、王様とか、いいのゴブゴブ?」
「はい阿騎さま。メイドンは自由デス。ドワーフの王様には、サイザンさまのお手伝いをする、と伝えておりますデス」
「ゴブリンと生活しても問題なしゴブ?」
「問題なしデス」
「ゴブゴブ、私達ゴブリンを、敵視する勢力もあるけど?」
「愚かな判断デス。人族の力は、妖精族を軽く凌駕しています。敵視ではなく、協力すべきデス」
協力、か、言い言葉ね。
「私もそう思うわゴブゴブ。それとメイドン、そんなに動いて、働き過ぎて、また止まったりしないゴブ?」
ポッ。
「サ、サイザンさまより頂いた、魔石は純度が高く、申し分ありませんデス。これならばメイドンは後、数百年間、不休で動けます。スリープモードを併用すると、数千年は稼働できますデス」
す、数千年?デタラメな数字ね。耐久年数って知っている?どれだけ長持ちなのよ?魔石は丈夫でも、稼働しているメイドンは故障とかしないの?運用、数千年?部品とか交換しなくていいの?
「ゴブ?数千年って、メイドンは故障とかしないの?消耗品、部品の交換とか、ゴブゴブ」
メイドンはじっと私を見た。
?
なんかマズイこと言ったかしら?
メイドンは一歩私に近寄り、小声で伝えた。
「メイドンはお腹の中に工場があります。体内工場です。ここで必要な部品を作って自分で部品交換しますので、問題ありませんデス」
私は一寸考えて、メイドンに質問した。
「ゴブ……じゃメイドン、メイドンはお腹の中でできるパーツを組み立てると、もう一体メイドンができる?」
「はい、できますデス。しかしそれはパーツでしかありませんデス。メイドンの本体、コアを移さない限り動きませんデス」
メイドンは私としゃべりながらも、難なく料理を完成させた。
「皆様、ご飯デス」
人族の地牛博士の目的って??
美味しい朝食をすませて(美味しいのよ、メイドンが作るご飯。悔しいが今度、料理なるモノを教えて貰おうと思う)私はメイドンと後片付けを始めた。
「ゴブ、阿騎」
「ゴブ?なにお父さん?」
私が尊敬の思いを込めて、お父さんと呼ぶなんて!こんな日が来るなんて!
優しいお父さん。
お父さん、あなたがそこにいるだけで、私は安心できるのです!
「エルフさんが会いたいと言ってきたが、どうするゴブ?お昼にもう一度来るらしいが?ゴブゴブ」
「会うゴブ、いや今から会いに行くゴブ!いいかしら?」
「ああ、行ってこいゴブ」
きっとコロさん達との修行の話だ。
どんな修行なのだろう?
おっと、その前に。
私はサナさんの工房に向う。
「ゴブ、サナさん!おはようございます!」
「お?おはよう。なんだ、阿騎?扉の金具はまだ出来ていないぞ?」
「いや、他に作って欲しいモノがあるゴブ!」
「お、依頼か?トビトカゲ2匹で請け負うぞ?」
「う、トビトカゲ……ごぶ……」
お兄ちゃんに意識を向ける。
集中すると……あ、繋がった!
(阿騎?)
(お、お兄ちゃん!トビトカゲ2匹欲しいの!駄目?)
(母さんジュース3日)
(う、2日にしてよ)お母さんが作った特性ジュースは、美味しいを通り越している味なのだ。最早、中毒?
(はははっ、いいよ角イノシシでは駄目?)
「ゴブ、サナさん、角イノシシでは駄目ゴブ?」
「それなら一匹でいいぞ、大きくても小さくてもかまわん」
(角イノシシでもいいけど)
(そこは……サナさんの工房?今から持ってくるよ)
(あ、ありがとう!お兄ちゃん!)
ん?今から持ってくる?角イノシシを?と、いうことはメイドンと狩りをして早速、仕留めたってこと?楽しそうな感じだったなぁ……なんか複雑な気分。
「で、何を作るのだ?」
私は周囲を見回す。
書くモノなんて無いよね、紙もないし。
私の周囲には、ビー玉みたいな玉や鉈、包丁らしきモノが無造作に置いてある。
注文品?
えいっ、と、魔法で鋭い氷の棒を作る。
鉛筆の代わりだ。
そして工房の土間に、精密な絵を描き始める。
「なんだ?」
「ゴブこんなの。これ見たことありますかゴブゴブ?」
「ないな。何だ、これは?」
「秘密ゴブ、期間はどのくらいですかゴブゴブ?」
「二,三日か、できたら連絡するぞ」
私は土間の図面を細かく説明する。その時、日頃の疑問が浮かび上がる。
「ゴブ、質問」
「なんだ?」
「ゴブ、これ鉄ですよね?」
私は近くの包丁らしきものを見て、尋ねた。
「ああ、鉄だが」
「ゴブゴブ、ここは海辺だし、海風には塩分が混じっているゴブ。なのに殆どの鉄が錆びないか、錆びが少ない、これはおかしいゴブ」
「純鉄だ」
「ゴブッ!純……鉄!!不純物は?」
「無い、全て鉄だ」
「ふ、不可能ゴブッ!」
「わしら以外は、作れないだろうな」
そう言ってニヤリと笑うサナさん
「本来ならこの鉄は柔らかい、だがワシらドワーフはこれに魔力を通し強化する。魔力強化された鉄は生きた鉄、セイテツと呼ばれる」
「ゴブ……」
この技術、前の世界に持って行けたら世界が変わる!
純鉄を作り、加工する妖精。
加工?
もう一つ質問をしてみた。
「ゴブ、真球はできますかゴブゴブ?」
真球は制作不可能とされる完全球体だ。
「!」
驚くサナさん。
「阿騎、お主どこで真球のことを聞いた?」
あ、やばい質問だったかな?
「我々が人族に拉致された原因がいくつかあるが、真球と生鉄も原因の一つだ」
(そのために、多くの同族が酷い死に方をした)
あ、今サナさんの心に触れた?
「ワシだからいいが、他のドワーフに同じ質問はするなよ?」
「ご、ごめんなさいゴブ」
「謝る必要はない、注意しろよ、お主は色々なこと知っているようだからな。作り方は教えてやれぬ、が、答えてやろう。我々ドワーフは真球を作れる。どうだ、凄いだろう?」
「!」
世界が変わる!真球を作れる!?
「お前の足下に落ちている球がそれだ。手に取って見ていいぞ、ほしいなら持って行け」
私は震える手で、ビー玉みたいな小さい鉄の玉を一つ摘まむ。
「ゴ、ゴブ、沢山あるゴブ!」
「ゴーレムの部品だからな、これはドワーフの秘密の一つだ。だから黙っていろよ?無邪気にそれで遊んでいるなら誰も気にしない。まあそいつの価値を知るものはマスタークラスのドワーフ鍛冶屋と腹黒い人族くらいだろう」
人類が熱望する技術の結晶が土間に転がっている!
私はなんだか笑いたくなった。
次回投稿は2022/07/18の予定です
サブタイトルは 意思の伝達 です。