【第33話】 最強ゴーレム起動
サブタイトル変更しました。
無敵?パワー系のスーパーゴーレム?
楽しみである。
ゴブリンの視力で遠くのお兄ちゃんを見る。
そしてゴブリンの聴力で二人のお話を聞く。
「ゴブゴブ、大っきい塔だね、王様」
お、よく聞こえる。妖精さんはべんりだね、一流の諜報員になれるかも。
「よいか、魔石はここの窪みに置く、置いたら直ぐに、ワシと一緒に弟の所まで逃げて行く」
「どうして逃げるのゴブ?」
「メイが目覚める、この塔壊れる」
あ、お兄ちゃんの目がキラキラに。
「こ、この塔壊して、中からゴーレムが出てくるの!?」
塔を見上げるお兄ちゃん、つられて私も見上げる。
危なくね?お兄ちゃん。
いやここも危険かも。
「そうだ、メイ、起動だ」
「おおおお、ゴゴゴゴゴブゥ格好いいっ!!」
首から下げている綺麗な八面体を外し、躊躇いなくセットするお兄ちゃん。
カチッ!
ブンッ
あ、振動が。
初めはちょっとした振動だった。
「退避!退避!メイさま起動!メイさま起動!」
騒然とし始める広場。
バキン、と塔にひびが入る
振動は更に大きくなり、もはや地震である。
塔は倒れることなく下から次々に崩壊していく。
まるでだるま落としされたように、塔の先端が徐々に下がっていく。
崩れゆく塔、大音響、立ち上る砂煙。
私は考える。
これは洗濯が大変だな、着物、埃だらけだよ。あと掃除も。
瓦礫のお片付け、どうするのよ?男子ども、ちゃんと後片付けしろよ?
女子に任せて逃げたりするなよ?
あれ?今、私、男子か……はい、率先してお片付けします。
砂煙が落ち着き、視界が広がり始める。
崩れ去った塔の後には、巨大な影が……ん?
巨大な影、どこ?
そこには何もなかった。
青い綺麗な空が、粉塵の間から透けて見える。
え?塔の中、からっぽ?
思わず私の横に逃げてきた、お兄ちゃんと目が合う。
「けほっ、けほっ」
瓦礫の方から?
「ゴブ?なに?」
「だ、誰か!こんな埃だらけじゃ、フィルターが詰まってしまいマスです!」
な、なんか瓦礫の中にいる!声がする!
「上手く動けないデス」
動けない!?
「!」
逃げ遅れたんだ!ゴブリン?ドワーフ?
「ゴブッ!じっとしていて!今、助けに行くから!」
私は全速で、埃まみれの瓦礫の中に突入した。
どこ?どこだ!
すると、前方の大きな岩の隙間が動いた。
そこか?
ガラガラと壊れ去る大岩。
その中で……?
ピコピコと何か動いている?
リボン?ねこ耳?三角形のオムスビみたいなモノが二つ、しきりに動いている。
「ゴブリンさん?ドワーフさん?手を貸してくださいデス!」
差し出された手を疑いもなく掴む。
「!」
ひゃっ!つ、冷たい!?硬い!
え?人の手にそっくり!
「ありがとうデス、起動して直ぐは上手く動けないのデス」
瓦礫の中から出てきたのは……こ、これ、前世で見たことある!
なぜ、このデザインがこの世界に!?
身長は160㎝ちょっとか、全て金属製のゴーレム。
フリルも、スカートも金属製、あ、さすがに関節はロボットらしいか?
これは、どこからどう見ても……。
「初めて?お会いしますね、一般登録しますデス」
「……登録ゴブ?」
「では、改めて。初めまして、ゴーレムのメイドン、デス」
メ、メイドさんだぁああああ!!
うわ、ロボットだけど綺麗な目!睫ながっ!ピコピコ動いている猫耳はセンサー?リボン?あ、ヘッドドレスか?か、可愛いではないかっ!
「は、初めまして。こ、こんにちは阿騎……です」
私は名前以外、返す言葉を見つけられず、ただただそのゴーレム=メイドロボットを、見つめた。
どのくらい、見つめていただろうか。
パチンと意識の焦点が合う。
こ、こ、これは!作った人に会ってみたい!質問してみたい!このデザインのオリジナルはどこの何なのか聞いてみたい!突っ込みどころが、てんこ盛りではないか!
あ、お兄ちゃん?
お兄ちゃんは言った。
「ゴーレムどこ?」
ここだよここ、ここにいますよ、お兄ちゃん。
「!」
あ、メイドンの表情が変わった!ほっぺたが、ほんのりと赤く染まり始めた!
これ、ホントに金属?
ピコピコと音を鳴らし、お兄ちゃんに歩み寄るメイドン。
わっ、足跡が猫の足跡みたいだ!肉球も再現してある!見た目はローファーみたいなのに!
ん?
ピコピコ。
そのまま、バ、バックしてきた!なんなのよこれ!
私の横に並ぶメイドン。
「ゴブ?」
ガチャンという機械音と共に各関節が伸び、ブシューと煙が出てきた。
な、なにこれ!蒸気?
「清掃中、清掃中」
は?
「清潔度86パーセント。対妖精交渉、良判定」
首がぐるぐると回る。どうやらボディーをチェックしているみたいだ。
「破損ナシ」
ピコピコ。
再びお兄ちゃんに歩み寄るメイドン。
「失礼いたしましたデス。は、初めまして!メイドンです。あなたが私に、魔石を与えてくれた方ですね?ありがとうございますデス!」
そっとお兄ちゃんの手を握るメイドン。
!!!!!!!
な、な、な、なにしているのっ!
お、お兄ちゃんに!さ!わ!る!な!っ!
その手をはなせぇええええっ!!
「フレンド登録をしますデス!」
!!
ち、ちょっとまて!私と対応が、ずいぶん違うのではないかい?
身繕いして、お友達登録?助けに行った私が一般登録?
そ、そ、それに、私のお、お兄ちゃんになれなれしく近づいて!手を握って!その手は私専用だ!!私しか握ったらだめ!
「ゴブゥ?君がゴーレム?」
話し掛けないで!お兄ちゃん!
「はい、人族の天才科学者、地牛博士が作り上げた八番目のゴーレム、メイドンです。お名前を、頂きたいのデスが」
自慢?自慢なの?知らないよ!地牛博士なんて!誰それ!お兄ちゃん、名乗らなくていいからね!
「お、俺の名前はサイザン、ゴブ。薬師ニトと機織りリュートの子だゴブゴブ」
な、名前なんて教えなくていいよ!か、顔が赤いよ、お兄ちゃん!
「フレンド登録しますデス……?ゴブリン項目、サイザンはすでに登録がありますデス。相談役、お
ばばさまの思い人で、正直者で曲がったことが大嫌い、単純で可愛いゴブリンとありますデス」
か、可愛いなんて……メイドン嫌い!
「相変わらずだな、メイ」
「ゴビッ!」
ビックリする私。
い、いかん周囲が見えていなかった。戦場だったらアウトだ。
「!これはエルフさま、お変わりありませんか……傷跡が増えています、無理はいけませんデス」
「メイ、余計なことは言うな。またお前と会えて嬉しいよ」
「はい、メイドンも嬉しいです。デスがエルフさま、私の名前はメイドンです、メイではありません。訂正を希望しますデス」
「愛情表現だ、メイでいいだろう?」
「あ、愛ですか?それならば許可しますデス。しかし公の場ではメイドンとお呼びください」
「善処するよ、メイ」
そう言ってエルフさんは、何故か私の頭をぐりぐりと撫でた。
なぜか、苦しそうなお顔である。
ん?笑いを堪えているのか?
「ゴブ?」
しなやかな肢体を折り曲げ、その綺麗な唇を私の耳に近づけた。
「おい、全部聞こえていたぞ」
「ゴブ?」
聞こえていた?何が?
「お前の思考は周囲にダダ漏れだ。今度、コントロール方法を教えてやるよ。私はサイザンと手を繋いでよく散歩するが、あの可愛い手が、お前専用とは知らなかった。私も駄目か?」
……だ、ダダ漏れ?
「咄嗟に、コロが結界を張ったから大丈夫とは思うが、注意しろよ」
エルフさんは肩を震わせながら立ち去った。
「ゴブゴブ、あの、あの、あの、コロさん?」
心の呟き、全部……聞かれた?
「……気にするなゴブ」
コロさん、目を逸らさないでぇ!
「ゴブゴブ、結界、ありがとうございました。念話の技とか、色々、今度教えてくださいゴブゥ」
私は消え入りそうな小さな声で言う。
うう、こっちも、ま、まともに目を合わせられない!
「いいぜ、エルフとヤベンも心配していたからなゴブゴブ、皆で修行だゴブ」
その日はお祭りになった。陽気なドワーフ。お酒を飲み、皆メイドンとの再会を喜んだ。
私はひたすら反省タイムである。
ゴブリン達も招待されたが、一部の記憶の伝承者とおばばさましかメイドンを知らない。これは何事だ、と冷めた目で見ているのが大半である。
メイドンは主賓でありながら、給仕に忙しそうだ。いったい何のお祭りなの?
メイドンの復活祭でしょうに。
そして一夜が明ける。
朝、なぜかメイドンは、我が家のキッチンで料理をしている。
「ゴ、ゴ、ゴブュ!ち、ちょっとメイドン、何しているの?」
「これは、阿騎さま、おはようございますデス。メイドンは朝のご飯を作っております。メイドンは何でもできます。お掃除もお任せくださいデス」
「……は?ゴブ?」
なぜかは分からない。なぜここにメイドンがいる?知らないのは私だけか?
メイドンは我が家のメイドさんになっていた。
どうして?何があったの我が家?
次回投稿は2022/07/18の予定です。
サブタイトルは そして一夜が明けた です。