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The Lily 前世の記憶は邪魔である  作者: MAYAKO
一章

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32/406

【第31話】 砦の中で

ドワーフ達との暮らしが始まります。

 

 この砦、とにかく広い。

 

 門は正面に3つもあり、第一の門、第二の門と進むほどに小さく強固になっている。

 通常、3っの門は閉じたままだ。

 実際は門の横に潜り門という小さな門があり、それを使って出入りしている。

 

 潜り門は高さ1m程のトンネルみたいな門で、緊急時はトンネルと同じ形の鉄の固まりで塞ぎ、外部の侵入を防ぐみたいだ。

 

 その先の居住区は海に面した山で、トンネルだらけのダンジョンみたいなっている。


 東の大山の高さは、え~っと、そうそう標高は600mくらいであろうか?(正確には665mである。アキは後に計算してこの数字を出している)海岸や周囲の地形を利用した要塞だ。

 

 ここの攻略はかなり難しいのでは?

 

 私達ゴブリンは第二の門周辺に住むことになった。緊急時はダンジョン住居に避難するのだが、通常はここでの生活である。


 ゴブリン一家族が、それぞれ決められた土地に家を建て、暮らす計画だ。

 

 今は建設ラッシュ、とても騒がしい日々だ。

 

 水や食べ物は、東の大山の恵みで湧き水や川、海から十分に確保できる。

 時々魔獣が遠方の森に出現するが、ゴーレムが動き出すとサッと姿を消す。


 あれは相当痛い目に遭わされたな、と見る。


「ゴブゴブ、アキ、今日はメイと会う日だ。一緒に行こうゴブ」

 

 お兄ちゃんが私の手を掴み、進み出す。


 ……なんか嬉しい。


挿絵(By みてみん)


「ゴブゴブ、第三門の先、中央広場にメイはいるんだって」


「お兄ちゃんが魔石を填め込むんだよね?ゴブゴブ」


「そうだよ!どんなゴーレムなのだろう?お父さん、アキ、連れてきたよゴブゴブ」


「ゴブゴブ、よし、出発だ」

 

 一人走り出すお兄ちゃん。


「ゴブ?あれ?お母さんは?」

 

 見渡すけどどこにもいない。


「お母さんは玲門さま達とキノコ狩りだゴブ。お山の影側に、美味しいキノコが沢山あるらしいゴブゴブ」


「ゴブ、そうなんだ」


 影側?北側のことか?


「お父さん、あと少しで完成だね、お家!ゴブゴブ」


 木とレンガと、鉄板を器用に組み合わせた家、これが我が家。

 

 もう寝泊まりはしているけど、ほんと、あと少しで竣工だ。


「ああ、今度の家は頑丈だぞゴブゴブ」

 

 お父さんの薬の部屋、お母さんの機織りの部屋、キッチン、リビング兼寝室、トイレは川で、お風呂は巨大浴場の共同お風呂、屋根裏が私達の部屋だ。


 似たような作りの家が40戸程並んでいる、これが私達ゴブリンの新しい村。


「簡単には壊れないぞ、ワシらの技術も使っているからな」


 屋根の上から声がする。


 そう言ったのは、建設を手伝ってくれているドワーフのサナさん。

 硬化皮膚がイチョウの葉みたいになっている、力持ちさんだ。

 

 彼は共存賛成派で、私達ゴブリンを恐れない。

 

 もし私達が暴走したらどうするの?と聞いてみたら、あっさり、全て始末する、と言った。


「俺は戦士だから躊躇いはない。それに暴走したゴブリンは、お前達とは明らかに別の生き物だ、そう思えるほど凶悪な容姿になる」


 相手にとって不足はないよ、と笑ってみせた。

 なんともまあ、豪快なドワーフさんである。


 で、このお家で初めてお泊まりしたとき、お父さんとお母さんに聞いてみた。

 魂魄が合っていないことどう思いますか、と。


 そして私は女の子としての自覚があると。


 答えは簡単だった。


「ゴブ?なにを悩んでいるのですゴブゴブ?阿騎は、阿騎でしょうゴブゴブ?」

 

 あれ?お母さん、以外とあっさり?


「阿騎、男の子だろうが女の子だろうが、私達の愛情は変わらんゴブ。我々の寿命は5年だゴブ、後悔のないように生きなさい。私達の生き方だゴブ」


 保育器を叩き壊す人もいれば、無条件で愛情を示すゴブリンもいる。

 どちらも私の親だ。


 私は無条件で愛情を示すゴブリンに憧れる。


 阿騎は、ゴブリンお父さんや、ゴブリンお母さんみたいになりたい。


「お父さん、私、サナさんを待っているゴブ!先に行っていいよ!サナさん早く行こうゴブ!」

とにかくお兄ちゃんが騒いで大変なのだ。


 ゴーレム、ゴーレム、と。


 そういえば生前、人気アニメの1/1の巨大ロボット(18mくらいかな)が駅前に展示してあったが、近所の男性陣、子供から大人まで大興奮していたなぁ。あれと同じか?


 私が屋根の上にいるサナさんに声を掛ける。


 視線を感じ、辺りを見回すと、道向こうで、エルフさんが手を振っていた。

 さあ、皆で出発だ。

 

 エルフさんとサナさんは知り合いみたいで、よくお話をしている。

 サナさんを、紹介してくれたのがエルフさんだ。


「どうした、心配事があるのか?」


 エルフさんと私とサナさん、三人で歩いていると、サナさんが問いかけてきた。

 私の曇った表情を、素早く読み取ったのだ。


「シシナさんみたいなドワーフ、多いのかしらゴブゴブ?後方支援のゴブリンだったらあの攻撃は避けられないゴブ」


「……あいつはドワーフの恥だ。突然、刃物を向けるとは……それも武器を持たぬ子供にだぞ!安心しろ、あの一件であいつは反対派からも批判されている。暴力解決などありえんのに、愚かなヤツだ。反対派は無闇に恐れているだけだ、心配ない。シシナは牢屋の中で反省すればいいのだ」


「牢屋の中で?」


 果たして、反省するかしら?


「我らドワーフは罪を犯すと、その親族、特に母親か父親と一緒に牢屋に入れられる」


「ゴブッ!?」


 エルフさんが私を見て呟く。


「あいつは研究所から逃げるとき、ゴブリンに父親を殺されている。母親も重傷を追って、今でも脚が不自由だ」

 

 即座にサナさんが反論する。


「だからといってエルフ、阿騎を襲うのは見当違いだ。こいつが何かしたか?魔獣を倒した者を恐れて、不意に襲う。愚か者の行為だ!ドワーフのドは、度量のドだ、あいつは器が小さすぎる!卑怯なヤツは好かん!!」


「……」


 エルフさんは黙して何も語らない。悲しい顔をして私の横を歩くだけだ。

 

 王様にお話ししたら、会わせてくれるだろうか?

 シシナさん親子と会わなければ、とこの時、強く思った。

本日次話投稿予定。今から30分以内?

サブタイトルは エルフさんの矢 です。

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