【第31話】 砦の中で
ドワーフ達との暮らしが始まります。
この砦、とにかく広い。
門は正面に3つもあり、第一の門、第二の門と進むほどに小さく強固になっている。
通常、3っの門は閉じたままだ。
実際は門の横に潜り門という小さな門があり、それを使って出入りしている。
潜り門は高さ1m程のトンネルみたいな門で、緊急時はトンネルと同じ形の鉄の固まりで塞ぎ、外部の侵入を防ぐみたいだ。
その先の居住区は海に面した山で、トンネルだらけのダンジョンみたいなっている。
東の大山の高さは、え~っと、そうそう標高は600mくらいであろうか?(正確には665mである。アキは後に計算してこの数字を出している)海岸や周囲の地形を利用した要塞だ。
ここの攻略はかなり難しいのでは?
私達ゴブリンは第二の門周辺に住むことになった。緊急時はダンジョン住居に避難するのだが、通常はここでの生活である。
ゴブリン一家族が、それぞれ決められた土地に家を建て、暮らす計画だ。
今は建設ラッシュ、とても騒がしい日々だ。
水や食べ物は、東の大山の恵みで湧き水や川、海から十分に確保できる。
時々魔獣が遠方の森に出現するが、ゴーレムが動き出すとサッと姿を消す。
あれは相当痛い目に遭わされたな、と見る。
「ゴブゴブ、アキ、今日はメイと会う日だ。一緒に行こうゴブ」
お兄ちゃんが私の手を掴み、進み出す。
……なんか嬉しい。
「ゴブゴブ、第三門の先、中央広場にメイはいるんだって」
「お兄ちゃんが魔石を填め込むんだよね?ゴブゴブ」
「そうだよ!どんなゴーレムなのだろう?お父さん、アキ、連れてきたよゴブゴブ」
「ゴブゴブ、よし、出発だ」
一人走り出すお兄ちゃん。
「ゴブ?あれ?お母さんは?」
見渡すけどどこにもいない。
「お母さんは玲門さま達とキノコ狩りだゴブ。お山の影側に、美味しいキノコが沢山あるらしいゴブゴブ」
「ゴブ、そうなんだ」
影側?北側のことか?
「お父さん、あと少しで完成だね、お家!ゴブゴブ」
木とレンガと、鉄板を器用に組み合わせた家、これが我が家。
もう寝泊まりはしているけど、ほんと、あと少しで竣工だ。
「ああ、今度の家は頑丈だぞゴブゴブ」
お父さんの薬の部屋、お母さんの機織りの部屋、キッチン、リビング兼寝室、トイレは川で、お風呂は巨大浴場の共同お風呂、屋根裏が私達の部屋だ。
似たような作りの家が40戸程並んでいる、これが私達ゴブリンの新しい村。
「簡単には壊れないぞ、ワシらの技術も使っているからな」
屋根の上から声がする。
そう言ったのは、建設を手伝ってくれているドワーフのサナさん。
硬化皮膚がイチョウの葉みたいになっている、力持ちさんだ。
彼は共存賛成派で、私達ゴブリンを恐れない。
もし私達が暴走したらどうするの?と聞いてみたら、あっさり、全て始末する、と言った。
「俺は戦士だから躊躇いはない。それに暴走したゴブリンは、お前達とは明らかに別の生き物だ、そう思えるほど凶悪な容姿になる」
相手にとって不足はないよ、と笑ってみせた。
なんともまあ、豪快なドワーフさんである。
で、このお家で初めてお泊まりしたとき、お父さんとお母さんに聞いてみた。
魂魄が合っていないことどう思いますか、と。
そして私は女の子としての自覚があると。
答えは簡単だった。
「ゴブ?なにを悩んでいるのですゴブゴブ?阿騎は、阿騎でしょうゴブゴブ?」
あれ?お母さん、以外とあっさり?
「阿騎、男の子だろうが女の子だろうが、私達の愛情は変わらんゴブ。我々の寿命は5年だゴブ、後悔のないように生きなさい。私達の生き方だゴブ」
保育器を叩き壊す人もいれば、無条件で愛情を示すゴブリンもいる。
どちらも私の親だ。
私は無条件で愛情を示すゴブリンに憧れる。
阿騎は、ゴブリンお父さんや、ゴブリンお母さんみたいになりたい。
「お父さん、私、サナさんを待っているゴブ!先に行っていいよ!サナさん早く行こうゴブ!」
とにかくお兄ちゃんが騒いで大変なのだ。
ゴーレム、ゴーレム、と。
そういえば生前、人気アニメの1/1の巨大ロボット(18mくらいかな)が駅前に展示してあったが、近所の男性陣、子供から大人まで大興奮していたなぁ。あれと同じか?
私が屋根の上にいるサナさんに声を掛ける。
視線を感じ、辺りを見回すと、道向こうで、エルフさんが手を振っていた。
さあ、皆で出発だ。
エルフさんとサナさんは知り合いみたいで、よくお話をしている。
サナさんを、紹介してくれたのがエルフさんだ。
「どうした、心配事があるのか?」
エルフさんと私とサナさん、三人で歩いていると、サナさんが問いかけてきた。
私の曇った表情を、素早く読み取ったのだ。
「シシナさんみたいなドワーフ、多いのかしらゴブゴブ?後方支援のゴブリンだったらあの攻撃は避けられないゴブ」
「……あいつはドワーフの恥だ。突然、刃物を向けるとは……それも武器を持たぬ子供にだぞ!安心しろ、あの一件であいつは反対派からも批判されている。暴力解決などありえんのに、愚かなヤツだ。反対派は無闇に恐れているだけだ、心配ない。シシナは牢屋の中で反省すればいいのだ」
「牢屋の中で?」
果たして、反省するかしら?
「我らドワーフは罪を犯すと、その親族、特に母親か父親と一緒に牢屋に入れられる」
「ゴブッ!?」
エルフさんが私を見て呟く。
「あいつは研究所から逃げるとき、ゴブリンに父親を殺されている。母親も重傷を追って、今でも脚が不自由だ」
即座にサナさんが反論する。
「だからといってエルフ、阿騎を襲うのは見当違いだ。こいつが何かしたか?魔獣を倒した者を恐れて、不意に襲う。愚か者の行為だ!ドワーフのドは、度量のドだ、あいつは器が小さすぎる!卑怯なヤツは好かん!!」
「……」
エルフさんは黙して何も語らない。悲しい顔をして私の横を歩くだけだ。
王様にお話ししたら、会わせてくれるだろうか?
シシナさん親子と会わなければ、とこの時、強く思った。
本日次話投稿予定。今から30分以内?
サブタイトルは エルフさんの矢 です。




