【第29話】 交渉は難航
サブタイトルを変更しました。
「お前が、ラグナルを倒した戦士か?」
「違うよ、倒したのは弟ゴブ。こっちだよゴブゴブ」
お兄ちゃんは私を差し出す。
え?前に出されて、ちょっと怖くなった私は、慌ててお兄ちゃんの腕にしがみつく。
お、お兄ちゃん、こえーよ!知らない人の前に差し出さないで!酷いよ!
「お前ではない?お前は魔石を、首から下げている。代表でこの場に来ている。その魔石はラグナルから得たものだ」
「そうだけど、なんで分かったの?ゴブゴブ」
「そんなにでかい魔石、自然界には滅多に無い。我々のコレクションにも無い」
「ふーん、そうなんだゴブゴブ」
「そうだな、我々の条件は二つ、魔獣を倒した技が見たい。魔獣から得た魔石が欲しい。この二つクリアーで、お前らも砦の住人」
「その二つか」
おばばさまが確認するかのように呟く。
「え~っ、これは大事なものだからあげないよ!ゴブゴブ」
魔石を握り、後ろに下がるお兄ちゃん。
お、お兄ちゃん、おばばさまが、とんでもない目で睨んでいるよ!
「そ、そこをなんとかできないか?我々はどうしても魔石が欲しいのだ」
「う~ゴブゴブ、ゴブゴブ」
「まずは、技を見せましょうか?ゴブゴブ」
私が間に入る。
「おお、それは良い、それが良い」
すっと女性のドワーフが前に出る。
大地に手を翳すと、軽い振動が起きる。
「ゴブ?」
すると大地に光る文様が現われ、文様と大地が混ざり始める。
ドンッという音と共に、突然地面が盛り上がり、魔法で形成されたオブジェができあがる。
高さ1m直径3m程の円柱だ。
「うわぁゴブゴブ」
私がびっくりして見ていると、術者がニッコリと頬笑む。
「大地の魔法は、我らドワーフの得意分野です」
そしてどこから取り出したのか、その手には黒い菱形の鱗、魔獣の鱗が握られていた。
「これは先日頂いた、魔獣の鱗です。間違いなく、本物のラグナルの鱗でした」
「なぜ本物だと?ゴブゴブ」
「……私達に加工出来ないものは、そんなに多くはありません。偽物だとしても、これには本物と同等の価値があります」
その鱗をパチリッとオブジェにはめ込む。
そして静かにその場を離れ、拝見、とよく通る声で、叫んだ。
いつの間にか城門内に多くのドワーフが集まり、こっちを見ている。いやいや、仲間にして欲しいのは、私達ゴブリンなのだが。勿論、我が同族ゴブリン達も静観している。
ゴブリンに生まれて驚くことばかりだが、ゴブリン、視力が凄い。雨粒が止まって見える。昼間、星が見えたりする。その視力で同族達を見る。
お父さんやお母さんが心配そうに見ているのが分かる。今にも走って応援に来そうだ。
さて、技を見せるとは言ったモノの……やりづらい。
注目されるのはやはり苦手だな。目が良くなった分、視線も必要以上に感じる気がする。
ちらり、とヤベンさんを見る。
視線が合う。不敵な笑みを浮かべていたが、槍を携え、こっちに来る。
「ゴブ、下がっていろ」と一言。
「?」
(阿騎、俺たちは兵器に改造された妖精だ。おっと、できるよな、念話?)
「!」
(生まれて間もないお前が、あの技を披露するのは良くない。恐れられる可能性がある。危険視される。で、俺の出番さ)
(さ、再現できたの!?昨日の夜だよ?)
(言ったろ?兵器だって)
……ヤベンさん、突然優しくなって格好いいこと言っているけど、なんか怪しい。
私を女の子として扱っていないか?それとも私の自意識過剰か?
「ドワーフ、近いゴブ」
「ヤベン、下がれ、お前はお呼びではない。我らドワーフの王は、その少年の技が見たいと仰せだ」
腰の左右に、2本の鉈を下げたドワーフがヤベンさんを咎める。
「ゴブ?シシナ、誰に何を言っている?」ヤベンさんの目が光る。
「……王が」
シシナと呼ばれたドワーフは、ヤベンさんに圧倒され口籠もる。
え、王様だったの?エルフさんとお話ししたドワーフ!では、オブジェを作った女性はお妃さまだろうか?
私の驚きをよそに、ヤベンさんは再び警告する。
「近いゴブ」
静かに下がるドワーフ達。
カチャリ、と軽快な音を立て、槍を構える。
「ゴブッ、参る」
言葉も言い終わらぬうちに、槍に気合いが入る。足下にはサインが浮かび上がり、黒い鱗めがけて槍が一瞬、踊る。その動きは目のいい妖精達にも正確には見えないだろう。
何事も無かったかのように、槍を納めるヤベンさん。
チラリ、とオブジェを作った女性を見る。
あ、目を逸らした。
「!」
ヤ、ヤベンさん、左腕が折れている?
(動くなよ、阿騎)
エルフさんが私を見ずに語りかける。
(え?エルフさん、でも!)
(問題ない、骨折程度なら直ぐに再生する。問題は無傷のオブジェだ)
オブジェは無傷、静かに佇む。
「どうしたヤベン、なんともないぞ?!再生はしているようだが、お前、骨折しているよな?折れているよな?はははっこれはお笑いだ。あの鱗、本当に倒して手に入れたものか?病か寿命で死んだ魔獣を、偶然手に入れたものではないのか?その見栄えだけの技で本当に倒したのか?」
かなりの嘲笑を含んだ声と態度で、もの申すドワーフ。
ここで、爆笑した人物2名。
我が兄とエルフさん、である。
「阿騎、聞いたゴブ?昨日のヤベンさんと同じこと言っているよゴブゴブ!大人って簡単に信じないんだね。どうしたら信じてくれるのだろう?」
ヤベンさん、苦いお顔だ。
「サイザン、エルフ、ここで笑うか?」
おばばさまも苦笑いである。
ドオオン、地響きと共に、オブジェが砕ける。
その突然の現象に、その場にいた全員、ぴょんと跳ね上がるように驚く。勿論私も。
後方に佇むゴブリン達も、城門内のドワーフ達も驚く。
なにこの時間差!
あ、ちっちゃい子、ビックリして泣いている!可哀想に。
しかし斯く言う私も人生初の『腰が抜けた』状態を堪能している。
これって本当に脚に力が入らない!私ってホントに兵器?あ、ヤベンさんも驚いている。
「そういうことか」ヤベンさんが呟く。
どういうこと?
あ、砕けたオブジェが光っている?これ外側は泥だけど、中は……。
「水晶か、よく砕いたな、ヤベン」
エルフさんが感嘆の声を上げる。
す、水晶!水晶って簡単に加工できないくらい硬いよね?確か硬度7では?
「なかなかエグいことするじゃねーか、ドワーフ。砦に入れる気は、最初から無かったと受け取るが?」
ヤベンさんが凄む。
ドワーフの王が女性ドワーフを睨む。
「このようなことをして、何を企んでおる?水晶だと?余の申したこと、聞き違えたか」
「では、私はこれで、いくわよシシナ」
「……はい」シシナさん、殺気が漂い始めた?
その不気味な雰囲気に反応するかのように、私も力が漲り始めた。背筋がすっ、と伸びる。
そして脳内アラートがチカチカと点滅し始める。
なんで?私は無警戒だが、脳内は警戒している?脚にもしっかりと力が入り、ワクワクし始める。
ヤベンさんを一瞥し、その場を立ち去ろうとする二人のドワーフ。
え?王様置き去りでいいの?お供の人とゴーレムは残っているけど。
その背中に言葉を投げつけるヤベンさん。
「おいシシナ、安心しなゴブ。この技、おまえらドワーフに使う予定はない。この技は相手を選ぶからなゴブゴブ」
「何だと?」
「ゴブ?水晶を砕く我に挑むか?」
ち、挑発して、どうするつもりなの?やめなよ、ヤベンさん!もしかして、笑われたこと、根に持っている?
シシナという名前のドワーフは、振り向きざまに両腰の鉈を2本抜き、素早い動きで襲いかかった。
「なめるなっ!ゴブリン風情がっ!」
その重圧な見た目からは、想像できない動きだ。低い姿勢で瞬時に間合いを詰める。
え?
(きさまの技は危険すぎる!水晶を砕く技など、あってはならん!お前が暴走したら誰が止めるのだ!)
私の前で素早く鉈を構えるシシナ。振り下ろす寸前である。速い!
ん?
え?
私なの!?攻撃対象!!
わ、私!?なんで!どうして!
振り下ろされる凶器が鈍く光る。
よ、避けなければ!
次回投稿は……30分以内の予定です。
サブタイトルは お兄ちゃんの魔石 です。