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【第2話】 襲撃     

 さて帰宅して第一声。


「こら、ナツ!ばれたらどうするの?会社では端末使って文字でやりとりしないと!」


 私は机の上に設置してあるやや大きめのパソコンに向けて声を荒げる。


「ゴメンナサイ」


 ナツは私の相棒、親友、家族。


「亜紀、部長さんはいい人だけど、あの資料はやばいよ」


 ナツは私の好きなボカロの声で話し掛ける。


「やばい?正直な数字だけど」


「数字の桁と取引先、不透明過ぎる。おそらく相手は多国籍企業だよ、これ、デープサーチしていいかな?」


「デープサーチ?ハッキングは駄目よ、記録が残る」


 うまくやるから、とナツ言うが私は反対した。どんなに上手くサーバーや巨大なコンピに侵入しても必ず痕跡が残る。

 

 ナツの存在は世間様にばれるとヤバイ。


「亜紀、分かったよ、でも危険と判断したらリアルに干渉するからね」


 そう言ってナツは沈黙した。


「ナツ、心配し過ぎよ。でも、ありがとう」


 私はなるべく明るく言い、ゲームの世界にダイブした。


「……亜紀はホント、ゲーム好きだね」


 ちょっと不機嫌にナツが話し掛けてくる。


「プレイすればするほど強くなる、のが好きなの」


「レベルアップ?それはアバターが?亜紀本人が?それだけでは、ここまでハマらないでしょうに。だってRPG系のゲームみんなカンストじゃん」


「新人さんとクエストしたり、迷子の道案内とか楽しいのよ」


「リアルでも、人に親切にしたらいいのに」


「リアルで私のレベルがカンストしたら、親切にするわ」


「……」


 ナツは再び沈黙した。

 ゲーム世界で、リアル世界の鬱憤を晴らし、私は糠床を混ぜて就寝した。

 …

 ……

 あ、

 あの夢だ。

 誰かが話しかけてくる。

 燃えている人?炎の巨人みたいな、柱みたいな、何だろう?

 私に話しかけているのだが……?

 何を言いたいのだろう。

 挿絵(By みてみん)


 翌朝、会社に出勤した私は、リアルの恐ろしさと認識の甘さを思い知る。

 部長が交通事故で意識不明の重体になっていた。


 偶然か、これ?


 トイレに篭ると、イヤフォンから訊きなれた電子音が囁く。


「亜紀、部長さんは事故では無い、第三者が関与している」


 恐怖が、私の心臓を鷲掴みにする。


 冷たい汗が背中を流れ、ごくり、と唾を呑む。


「サーチしたの?」


「ああ、相手は悪名高い多国籍企業だ。今、私とバトル中だ」


「!」


「心配するな、どんなAIが挑もうとも、私には勝てない」


「慢心はダメよ!何時からバトルを?」


「ビルに入ってからだ。事務所裏の自動販売機を加熱して破裂させ、亜紀を殺害、若しくは病院送りにしようとした」


「そんな……」


「大丈夫、制圧して亜紀の安全を確保する。後少し待て、そうだな30分、時間をくれ」


「ナツが30分?強敵だよ!」


 昨日の資料、あの会議資料が原因か?


 トイレを出ると、直に専務に止められた。


「ああ、秋津川君、赤崎部長の資料どこにあるか知っているかね?」


 こいつは敵だ!直感が告げる。資料よりも部長の安否が先だろ!


 脂ぎった顔、ギラギラと血走った眼に、小刻みに震えている手、明らかに挙動不審を告白している。


「どの資料でしょうか?」


 私は平然を装い問い返す。


 血走った眼で私を一瞥し、怒気を孕んだ言葉で言い放つ。

 

「資料と言ったら、今日の役員会資料に決まっているだろう!」

 

 この専務は女性社員をすぐに怒鳴りつける。

 給湯室やトイレで泣いている人を何人も見た。

 そして社長には、はい、しか言わないゲロヤローだ。

 

 なんでこんなセクハラ、パワハラヤローが専務なのだ?

 セクハラ、パワハラはこの会社の専務の必修科目か?


 このゲロヤローは忘年会で赤崎部長ともめて、部長を殴っている。


 殴られた部長は全く動じず(ちょっと、いやだいぶ格好良かった)、殴った専務は手首を骨折するという伝説を作っている。


「知りません、部長のタブレットかパソコンの中では?」


「いやぁ見つからなくてね、君のパソコンも調べていいかね?」


 私は、何故です?と言う言葉を呑み込んだ。


「いいですよ、どうぞ、あ、横山君、一緒に対応いいかな?」


 トイレから出てきた横山君を捕まえ、やや早口でお願いする。


「いいですけど何事です?部長の見舞いの件ですか?」


 呑気だね、横山君。


 事務室に戻り私は手短に説明をし、その場を離れようとした。

 屋内と屋外、どちらが危険か?どちらにしろ、この場からは離れた方がいいと判断したのだ。


 すると、専務に手首を掴まれた。


 冷たく、汗ばんだ手。

 ぬるりとしたその感触に、私は一瞬息が止まった。

 穢された、そう思えるほどおぞましい手だ。


「何処に行くのだね?」


 その気持ち悪い手を振りほどく……ことができない。

 リアルの私はあまりにも非力だ、涙が出そう!


「セクハラですよ?坂本専務」


 静かな声色で横山君が専務を睨む。


「私が説明を求めているのだぞ!逃げることは許さん!」


「逃げるとは、穏やかではないですね?」


 そう言い終わらないうちに、横山君が専務の手首を掴む。


「ぐっ」


 専務は一言、声を漏らすと、あっさり私の手を放した。


「坂本専務、何があったのです?」


「手を放せ!傷害で訴えるぞ!」


 手首を握っているだけなのに、そんなに痛いの?

 それに傷害?専務、忘年会で何しました?酔って覚えていませんか?


「どうぞご自由に」


「あ、ありがとう横…」


 お礼を言い終える前に、事務室のドアが荒々しく開く。


 オートロックのドアが開く?


 そこには、見知らぬ警備員服姿の不審者が2名立っていた。いつもの警備員さんではない!したがって私はこいつらを不審者とした。


 反射的に私は警備員の入ってきたドアの反対側、麻雀用語で言う対面に設置してある緊急避難用のドアより逃げ出だそうとした、が、足が震えて動かない。


 この銀行事務室は基本オートロックだが、不審者等が侵入してきた時を考え、出入り口の他にもう一つ手動の出口がある。


 設計思想はいいが、私みたいに竦んで動けなければ意味が無い。


ドン!と横山君は専務を突き飛ばし、私の手を引いた。


「こっちに!早く!」


私は横山君に引かれるまま、事務室から出た。



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