【第68話】 わんわんは迷子・中庭にて
今晩は。
投稿です。
いつもより、ほんのちょっと長いです。
呼吸が浅く速くなる。
ああ、まだ私は小さな子供なんだ。
意思や魂に、身体が追いつかないのだ。
魄が、保護者を探している!
ごめん、私の身体、散々無理させすぎた!
戦いの連続。
君はまだ子供なのに!
こんな所に一人じゃ寂しよね?心細いよね?
それに加えて亜紀が乱れた。
私は、力が腰から抜け、座り込んでしまう。
「どうしたの?気分、悪いの?」
誰かが声を掛ける。
誰だ?知らない学生さん?
「そ、外へ出たい、空がみたい」
大量の汗が身体から噴き出し流れる。
「空?分かった、外ね?こっちよ」
優しい、柔らかい手が、私を導く。
そして、するり、と肩を貸してくれる。
え?私、汗臭いよ?
ありがたいけど……。
扉を開けると、中庭に出た。
陽の光が眩しい。
風、緑の匂い。
広いなぁ。
よろよろと進み出る。
ひゅっ!
空気が肺に!
ああ、息が少しだが楽に!
でも、立っているのは無理みたい。
ずるずると座り込む。
「大丈夫?お付きの人は?」
?
お付きとは?
「いないの!?」
「……知らない」
「知らない?あなた獣人族のお姫様じゃないの?」
「そんなんじゃない」
「保健の先生、呼んでこようか?」
「いらない、少し風に当たりたい」
「お水、汲んでくるね、いい?じっとしているのよ!」
親切な人。
私より、ちょっと大きい?
あ、落ち着いてきた。
深呼吸一つ。
こんなことで、これから先、やっていけるのかしら?
座ったまま、辺りを見回す。
中央に像がある?
!
あの像、見たことがある!
ヨロヨロと近づく私。
ああ、やっぱり!この像、メイドンだ!
メイドンがなぜここに?
あ、でも、メイドン、こんなに足、細くない!乳もこんなにデカくないぞ!
誰?作ったの!
事実誤認があるわ!
……逢いたいなぁ、メイドン。
どこにいるのよ!
「もう!じっとしていてって言ったでしょう!?」
「あ」
「はい、お水。ゆっくり飲むのよ?慌てずに」
「げほげほげほげほっげほげほげ」
「人のお話聞いてる!?」
「……あじがとう」
うう、涙が、鼻水が、涎が……とんでもない醜態だ……。
あ、綺麗な刺繍のハンカチ。
「よ、汚れるヨぉげほげほっ!」
「それが、ハンカチのお仕事よ、あそこのベンチまで歩ける?」
こくこく。
ゆっくり座らせてもらう。
ぼーっとしてメイドンの像を眺める。
すると、このハンカチ女子は声を掛けてきた。
「メイさま、好きなの?」
「大好き」
嫌いなわけない!
「私もよ!」
え?そうなの?メイドン、知っているの?
じっと見てみる。
いや、メイドンの像ではなく、隣の女の子を。
メイドンのメイド服っぽい、服を着ている?
いや、よく見ると、メイドさん?
……誰だこの人?
「あの方は初代校長って呼ばれているわ」
「あの方?」
「メイさまよ」
「えっ、ええっ?」
メイドンが?
「子供達を集めて、お絵かきしたのが始まりって、言われているの」
「いつの話?」
「王都ができた時らしいけど、もはや伝説ね、遙か遠い昔のお話よ。それから文字や、数字を教えて、人が集まって学校になったんだって」
本当かしら?
だとしたら、メイドンは、いつの時代に作られたんだ?
地牛博士って?
「あの、色々ありがとう、私は……」
「シュート家・明季姫でしょう?」
「え?姫?違うわ。私は村長の娘A、またの名をアッキーよ」
「ええっ!?うふふふっ、あなた面白い人ね。私はメイドナ家・バ・イオリーナ・バウリス、いおりって呼ばれているわ」
「メイドナ家?」
「メイさまに助けられた子供達が、大人になって起した『家』で、王都最古の名のあるお家です」
「それって、あなたがお姫様じゃないの!?」
「え?姫?違うわ。私は王都の娘B、またの名をイオリちゃんよ」
……この子、好きかも。
お顔も、どことなく、まどかに似ているし。
「メイドンのお話、いっぱい残っているの?」
「メイさまは、ご自身のことは語られません。ですから直接のお話は、ほとんど伝わっておりません」
残念。
「あの、アッキーさま」
「アッキーでも明季くんでもいいよ、イオリちゃん」
「!」
もじもじ。
お?イオリちゃんって呼んだら、なんか嬉しそうだぞ?
でもこの子、私にどう対応していいか、困っているみたい。
明らかに私より、見た目は年上だけど?
「ア、アッキーはなぜメイさまをメイドンって呼ぶの?」
「?」
メイドンはメイドンでしょう?
他に名前ないし。
「メイドンはメイドンでしょう?」
メイって呼ぶと、メイドンデス、て言葉返していたし。
いや……待て、ちょっと待て!何か踏んだかな?
「その名前はメイさまの真名で、私達と、北のゴブリンしか知らないはず。それに北のゴブリン達はメイさまをとても大事にしているから、真名で呼ぶことはないの」
やっぱ踏んでる!
どうしよう?
介抱して、助けてくれたし、何て言えばいいの?
「北のゴブリン達が闘神のお話をしていたわ。闘神さまが現れた、と」
「……」
「闘神のお話は残っている。メイさまの盟友でホルダー阿騎、と呼ばれていたらしいの、知っている?アッキー?」
何を、どこまで知っているの?
降参するか?
降参しそう!
(その者は信用してよい)
え?ゴルちゃん?
(メイドナ家は、阿騎さまやサイザンさまが、いつ帰還されてもいいように、メイさまや私達、北のゴブリンが影ながら見守り、育てた一族です)
え?では、この子は私の素性を知っているの!?
(いえ、この出会いに、お膳立てはいっさいしていませんよ。この子が自分の力で、あなたを捜し当てたのです。そうしないと意味がありませんから)
(ハラハラして見ていたぞ)
見ていたのね、ゴルちゃん。
ならば。
「……メイドンは……」
「?」
「メイドンは、メイと呼ばれることを嫌っていた」
「えっ?」
「でもエルフさんが、愛情表現だというと、愛ならば許可しますって嬉しそうに言った。イオリちゃん、愛情込めてメイって言わないといけないよ?」
「!!」
「北のゴブリンさん達は私を闘神、ホルダー阿騎と言う。闘神と言われるほど、立派な存在じゃないんだけどなぁ。見たでしょう?先程の、ヘロヘロの私。イオリちゃん、がっかりしても知らないからね」
認めたぞ、私はホルダー阿騎で、ホルダー明季だ。
どうする?イオリちゃん!?
震えながらイオリちゃんは立ち上がり、私に深々と一礼した。
「ホルダー阿騎が帰還したら、使えるようにとメイさまから伺っております。私達一族は、あなた様のお帰りを何年待ったでしょう……お帰りなさいませ、ご主人さま」
え?……まさか、このセリフを、異世界で聞こうとは……。
次回投稿は 2023/04/09 20時頃の予定です。
サブタイトルは 生活、楽になる です。




