【第67話】 わんわんは迷子
今晩は。
本日2回目の投稿です。
「その魔石の話は、生徒達に公表してもいいのか?」
「ええ、かまいません騎士団長さま」
あ、今トルクちゃんとセンバさん、魔力で合図を送り合った。
「生徒会が痺れを切らしているようだな、入学式は二日後、始業式は五日後だ、忘れないように。それと、学校の出入りは自由だ。ただし、夜間は禁止。異界の生徒達やゴーストが多くてね、憑依でもされたら大変だからな。では、改めてようこそ王都聖龍門学校へ!君たちを歓迎する!」
「帰りに事務室に寄るように、渡す書類がある。生徒会が案内するようだ」
私は、これから始まる一人暮らしに対して、大きな不安顔で、ポシェットくんはニコニコ顔で、校長室を出た。
「どうした、難しい顔しおって?」
早速、おばばさまが聞いてきた。
「いえ、一年生が寮だなんて、知らなくて、その……」
「不安か?期待もあろう?」
こくこく。
「校長室の後、いきなり生徒会室ではちと負担が大きいか?事務室に案内しよう、その後は寮を見ておくか?どうじゃ?」
こくこく。
「案内、よろしいのですか?」
「おお、いいぞ、任せておけ!」
てくてくと、歩き出す私達。
無言である。
目立つのは嫌だが、この巨大要塞のような校内を、迷子にならず、歩ける自信はない。
方向感覚はしっかりしているから、まあ、いざとなったら窓から外に出るか。
てくてく。
何か、お話ししましょうよ?
「お……生徒会長、お話があると言われていましたが?」
「あ、ああ、あれか、本来なら生徒会室で、もてなして話したいのじゃが」
おもてなし?お願い事だろうか?
歯切れが悪いなぁ。
はて?魔石の融通かしら?
てくてく。
また沈黙?
何か、言いづらいことかしら?
ん?ヤベンさん?
「オルガン会長は一枚、絵を描いて欲しいそうだ」
え?絵?
「副会長達が、羨ましいらしい」
「生徒会とトルク校長の、絵の奪い合いバトル、凄かったぞ」
「最終的には試験用紙だったからな、学校側の勝利になったが、美観、泣いてたな?」
「ああ、相当悔しかったらしい」
そ、そんなことが!?
「絵は、陽の煌めき月の明り、と言われて、とても神聖なものとして扱われる」
そこまで!?
悪意の絵もあると思いますが?怖い絵とか?
あ、シルバーっちが思念を送ってきた。
ああ、それでも絵を大事にすると?
「いいですよ」
おばばさまだし。
どれだけ前世でお世話になったか。
阿騎の名付け親でもあるし。
……サイザンお兄ちゃんも。
一緒にあの時代を生きた、大切な仲間。
思い出してもらえないのが、悲しいけど。
「い、いいのかっ!?」
飛び上がって、振り向いた!?
そ、そんなに嬉しいの?
「ええ、いいですよ、でも入学してからです。それでいいなら……」
「や、躍息だぞっ!」
「はい」
てくてく。
周囲の目が気になるぁ。
まあ、このメンバーなら仕方ないか?
「この槍が気になります?」
「「ああ」」
ヤベンさんとナイダイさん、ハモってる。
立ち止まり、槍を背中から外し、ナイダイさんに見せる。
「手に取ってもいいですよ?」
「それは駄目だろう?これはゴブリン族に伝わる朱槍だろう?明季くん、これはとても大事な槍だ。簡単に人に渡してはいけない、それにこの朱槍は、持ち主を選ぶと言うではないか?」
「よくご存じで。でも、あなた達二人なら、槍も怒りません。むしろ、一度、手にされることを、槍が望んでいます」
「え?ならば私が」
そう言ってヤベンさんは朱槍を手に取る。
槍は一瞬、ブンッと震え、ヤベンさんの体格に合った大きさと重さになる。
「こ、これは?聞きしに勝る凄い槍だな。ん?これは?槍か?ナイダイ、どう思う?」
朱槍はナイダイさんの手に移る。
ブンッ、とまた形を変える朱槍。
「これは杖か?不思議な感覚だ、懐かしい気がする。明季くん、その内、組み手を願いたいものだ」
そう言って私に朱槍を返すナイダイさん。
「ニトさんに、バトルは禁止されています。あなた達二人が相手なら、運動で済みそうもありませんから、当分はお断り致します」
「ふふ、フラれたな、ナイダイ?」
階段を降り、一階の事務所まであと少し。
「あ、明季さまは多才なのですね」
ポシェットくん?私が、多才?何を言ってるの?
「歌を歌い、槍術、体術、絵もお描きになる。恵まれた才能で羨ましいです」
恵まれている?私が?
この一言が、引き金だった。
前前世の記憶が蘇る。
一瞬で、怒りが込み上げてきた。
ああ、マズイ!気分が荒れる!
私の大事な絵。
大切な、大好きだった絵。
この私が、羨ましいだと?
恵まれた才能だと?
押さえろ、亜紀!
彼に悪気はない。
悪気はないが……これは!?
悔しさ、悲しさ、後悔、苦しさ、破壊の衝動がどんどん膨らんでいく!
落ちついて、亜紀!過去は変えられないのよ!
駄目だ!怒りでクラクラする!
意識を逸らして、外にっ!
外は?どっち?
獣人族だから、方向感覚や匂いで大体の場所は分かる。
多分、右端の上の階は音楽室だろう、楽器の匂いがする。2階中央は調理の実習室か?食堂ではないな、色々と分かるけど……人が多すぎて混乱しそうだ!
なにこの階段の多さ?
壁が多すぎる!
外が少ししか見えない!
風の匂いがしない!
ここは、開放感がないっ!
暴れて、校舎から飛び出しそうだよ!
ああ、なるほど、アイお姉ちゃん、これが嫌だったのだ!
そしてパニックになったわんわんは、自分がどこにいるか分からなくなる。
獣人族って、狭いところ、嫌い?閉所恐怖っぽい?
あれ?皆、どこ?
ここ、どこ?
ううううっ。
グルルルルッ!
しくしく。
次回投稿は 2023/04/08 20時頃の予定です。
サブタイトルは わんわんは迷子・中庭にて です。
5月で投稿しはじめて、1年になります。
私の作品を読まれている、大切な読者の皆さま、どのような一年でしたか?




