【第51話】 クッキーではない
諸事情で、ちょっと早い時間になりました。
どうする?嘘はいやだ。
こ、ここは、正直に話そう。
エノンに隠しごとはしたくない。
とは言うものの、噴水で匂い消して、隠そうとしたけど。
反省である。
唯々反省。
これだけ密着しているんだ、念話が通じるはず。
(心配したんだよね、ごめんねエノン。探してくれてありがとう)
この『探す』がエノンの秘密の言葉だった。
私は無意識にその言葉を口にした。
秘密の言葉は、誰だって持っている。気づかない人が殆どだけど。
この言葉は、心の扉のパスワードだ。
人族に掠われたエノン。
探し出したのは、コロ叔父さんと騎士団。
見つけて欲しかったのだ。探し出して欲しかったのだ。
だから、エノンのパスワードは『探す』
私にもある。
私の言葉は『添う』である。
ここではない、何処かへ行きたかった亜紀。
一人、動けなかった亜紀。
神社に行こう、と寄り添ってくれた、まどか。
故郷へ、王都へ、みんなで寄り添って目指した。
これが私のパスワード。
「そ、その言葉、使われたら、うち、怒れない!」
(正直に話すよ)
「聞きたくない、聞かなければよかった、って話、沢山ある。だからうち、聞きたくない!」
ああ、気づいているか、生徒会シスターズから貰ったって。
まあ力の大半は無くしたとはいえ、獣人族には変わりない。匂いで分かるか。
酷いことしたな、私。
たかがクッキーの一枚や二枚で、なにグズグズ言ってる!けっ!
とは言えない。
そこではないのだ。
隠そうとしないで、ちゃんと素直に伝えればよかったんだ。
そう、クッキー貰うことはそれ程問題ではない。
クッキーではない。
私が、隠そうとしたこと、が大問題なのだ。
だから反省。
ごめんなさい、エノン。
なんと言おうか?
「みんな聞こえたよ?」
ええええええっ!
え?え?え?え?え?え?え?
き、聞こえたぁ!?
ちょっと待ったぁ!
みんなって?みんな?
私、思考ガードしていたよ!?
ど、どこから?
「隠そうとしないで、ちゃんと素直に伝えれば、辺りから、聞こえだしたんよ」
誰だ?ゴルちゃんか?それともシルバーっち?
あっ!シルバーっちが反応した!
彼女の仕業か。
(精霊が繋いだみたい)
「え?」
(夕方ね、クッキーの匂いがしたんだ)
「ん?」
(それで、ついて行ってしまったの)
「え?」
(油断して、捕まって)
「えっ?」
(美観に覗かれて、女の子だって言われて)
「なっ!」
(怒って、唸って、威嚇した)
「そ、それで?」
(うん、嫌うなよって、あと、謝ったのに、どうしてって)
「ラッキー、謝ったのなら許してあげないと……」
(そしたら、エノンに話が飛んじゃって)
「う、うちに?」
(いや、それがさ、毎日謝りに行っているのに、会わせてくれない、て美観、泣き出して)
「ええっ!?」
(嫌われたくないらしい、私にも、エノンにも)
「……それ、うち、悪役っぽい!」
ええっ!?そんなことはないと、思うけど。
「ラッキー、早く復活して!うちのためにも!」
そうなんだけど。
早く復活したいんだけど。
あと少しで満月に向けての上昇期だけど。
この姿は、本能が選択したもので、私の意思ではないし。
どうやったら人バージョンに戻れるかも曖昧だよ。
「そしたら、シスターズに明季くん、元気だよって言える!会わせられる!うち、悪役から解放!」
(ゆ、許してくれるの?)
「学校や、みんなと仲直りする!あっ!」
仲直り!?学校!?
(エノン、私のことで嫌っていたんじゃないの?)
「実は明季くんの知らないところで、もめた」
(ええ?どんな内容?)
「あれだけの呪符、土に埋めるのは大変だ、なぜその作業に気がつかなかったのかって、学校と生徒会を攻めた」
うわっ、言っちゃったの?
「そしたら、シンが止めた。商工会の技術が明らかに上で、見つけるのは無理だろうって」
この件に関しては、ダークエルフが上だな。
レイランお姉ちゃんなら、あるいは?
「うん、レイランなら見つけたと思う」
「……」
「……」
「上がろうか?ラッキー?湯あたりしそう」
ざばぁーと巨大湯船から出るエノン。
うわ、お肌が真っ赤だよ!
(エノン、なんでラッキーって言うの?)
「わんわんの時は必ずラッキーと言うよ、誰が聞いているか分からないし」
さすが傭兵団、慎重だね。
エノンに、何がしてあげられるだろう?
じっと見る。
「ラ、ラッキー、向こう向いていて!うち、恥ずかしい」
(え?脱ぐときはパッと脱いだのに?)
「いいから、着るときは見ないで!」
私は、着るときも脱ぐときも恥ずかしいのだが?
まあ、脱ぐときは怒っていたし。
(怒ってくれて、ありがとう。でももう、あの二人、怒るのやめよう?)
「うん、賛成。うち、思った。うち、怒り続けるの、向いていない。あの二人、いい匂いがする。あ、クッキーじゃないよ、うちも仲良くなりたい!」
うちも、仲良くなりたい?
エノンは凄いな。私だったら、怒り続けていつかも。
私に、何ができる?
なにか参考になることは?
デートらしき記憶は、まどかと過ごした日々か?
まどかの好きなこと、歌、カラオケ、旅行、ゲーム!
私の好きなこと?まどかと一緒にいること。
では、エノンの好きなこと?
(満月期は、エノン、狼や鳥に成れるんだよね?)
「う、うん」
(傭兵団や、孤児院の仕事、沢山あるの?その……夜も)
「?孤児院の見回りや、お世話は傭兵団みんなでするし、うち、そんなに忙しくないよ?なんで?」
(じゃ、満月の夜、わんわんデートしょう!)
「え?」
(思いっきり走らない?そうね、東の砦まで!)
「行く!うち、明……ラッキーと走りたいっ!」
決定!
次回投稿は 2023/03/26 夕刻になりそうです。
サブタイトルは 学校行きます、と言ってみた です。




