【第25話】 技の伝承
大地をドンドンと何度も踏みつけ、ギリギリと歯ぎしりをするヤベンさん。
わ~っ歯ぎしりする人見るの、初めてかも。
するとナイダイさんが笑い出した
「わはははははっ、こいつは感情制御の呪縛を解き、怒りを魔力に変換出来るまで修行したのだ、人族の呪縛制御を断ち切るほどの修行したのに!しかし残念だったな、あははっ」
「笑うな!ナイダイ!せめてきさまが倒したというなら、まだ救われるぞゴブ!」
「リュートの子よ、こいつはお前に嫉妬しているのだ、今から謝るそうだから、これまでのお前や、お前の家族に対する暴言、許してやってくれ。ほれ、ヤベン」
「くくくくっ」
「静かに笑うな!エルフ!ゴブゴブ!」
「おい、夜中だぞ、静かにしたらどうだ?くくくっほれ、ヤベン」
ヤベンさんは身を正し、一礼する。
「ぶ、武人として、八つ当たりは恥ずべき行為であった、許せ、ゴブゴブゴブゴブ」
素直……なのかな?このゴブリンさん?しかし。
「はい、謝罪の言葉、確かに受け取りましたゴブ、ですがヤベンさん」
「な、なんだゴブ」
身構えるヤベンさん。目つきが怖いよ、小さい子泣いちゃうよ?
「魔獣はまだまだ沢山いるのでしょうゴブゴブ?」
「ああ、少なくともあと100以上はいるゴブ。奴らの狩り場で数えたから間違いはないゴブ」
「研究所での魔獣生産は止まっているようだ。数匹事故と病気で死んでいるのを確認しているが、補充されていない」
エルフさんが説明したが、事故が気になった。事故とはどんな事故?
「ゴブ?事故?」
「ああ、リーダーを決めるためにグループで殺し合った」
お互いに殺し合いまでして、リーダー決めるの?
普通、動物はそこまでしないよね?まるで人間みたい。
「ゴブゴブ、では」
「ゴブ?では?なんだ?」
「では、誰が一番多く倒すか、競えばいいゴブ」私は静かに言い放った。
「!」
あ、コロさんがちょっと動いた。今、指と瞼が!
「ほう」
エルフさんの目が光る。
「い、言ってくれるなぁゴブゴブ、俺たちにはその術がないのだっ!くそっ!」
私は立ち上がり、ちらりとナイダイさんと、その重そうな槍を見る。
ナイダイさんは軽々とその槍を掴み、ポンッと私に投げ渡す。
掴んだ感想、それ程重くない、あと短いな。
ゲームで使っていた槍はまだ長かった。
脳内シミュレーションで、ゲーム画面をできるだけ正確に再生してみる。
槍のデモ、使い方、これを伝承した記憶と照合して実際に身体を使って動かしてみる。
ブン、ヒュン。
うまくできないなぁ。
「!」
「おい、ナイダイなんだあの型は?動きは?ゴブゴブ」
初めはぎこちないが、だんだんと動きが変わってくる。
「い、いったいどこで覚えたのだ?」
エルフさんの眉間に皺がよる。
ヤベンさんとナイダイさん。この二人は努力を重ねている武人さんだ。武人は田崎さんを思わせる。
意地悪なゴブリンだと思っていたけど、反省して?謝ってきた。
この私に許せ、だって。
他人なんて許したことのない私に。
このゴブリンズになにかしてあげたいな、私は素直にそう思った。
技をチートにコピーしただけの私には、この技を教えることは出来ないだろう。
しかし、この達人級(おそらく間違っていないと思う、この二人の立振舞いは田崎さんにそっくりなのだ)の二人なら……。
私の動き、一つ一つを食い入るように見る4人。
槍使い、槍術が好きだった私は(ゲーム内だよ)動画を集めまくり、アトロニアにサンプリングさせゲーム内に持ち込んだのだ。
ゲーム内の私の動きはリアルそのもの。え?AI(属性:世界最高峰グループ)になにさせてんねん、だって?聞こえませんよ。
その私と、まどかとローロンサと三人でゲーム内を暴風のように駆け抜けたことを思い出す。
私の槍は(朱槍だよ)一部で熱狂的に支持されたものだ。
そして、私の好きな槍術は宝蔵院流槍術、人物は丸橋忠弥!この人に尽きる!
これは校長先生の影響なのだ。先生は歴史小説、時代小説が大好きで、これを読め、とか、あれを読めとか、よく薦められたものだ。
このコピー槍術と伝承された武術を脳内で合わせてシミュレーションし、私の身体で実証、これを何度も何度も繰り返す。
すると私だけの型が仕上がりはじめる。
できた、かな?よし、やってみよう!
足下から魔力を練り上げ、力を込めると、大地にサインが浮かび上がる。
「うわ、これ何ゴブ?」力が集まっているのは分かったので、おそらく魔力の流れが大地に刻まれ、現われたのだろう、気にせず『ぬき』と同じ要領で槍に力を込め、篝火に向って放つ。
「ふんっ」
ボウッ、と音を立て消える炎。炎までの距離は5m以上ある。
「!」
「何だ、今の技は!」エルフさんが固まる。
コロさんの目は見開かれ、ポカーンと口を開けている。
そしてドワーフさんから借りたゴツイ鉄の燭台が、キンッと音をたて、バラバラと砕け散る。
やったね!脳内シミュレーションでは出来る、となっていたけど、実際に出来るとやっぱりうれしいな。
「ナ、ナイダイ、い、今のは何だ!ゴブ?」
「魔法か?魔力の流れは見えたか?しかし……しいて言えば波動かゴブ?」
「技は見せましたゴブ」
槍を丁重に返す私。その時ナイダイさんの目を見る。気力に満ちた目がそこにあった。
私は、拳で使った技を槍で再現して見せた。
脳内シミュレーションではこの二人、習得可能となっているけど、果たして?
「もう眠いので寝ますゴブ。明日はドワーフとの話し合いですよね?フォローをお願いしますゴブ。戦士のお話、ありがとうございました。おやすみなさいゴブ」
「どうしたのゴブ?」
お母さんが心配そうに目を擦りながらこっちを見ている。
「トイレゴブ、もう終わったゴブ」
そう言って私はお母さんの腕の中に潜り込んだ。
残された二人は砕けた燭台をじっと見つめる。
「凄いな、いったい何処であの技を習得したのだゴブ?尋常ではないゴブ。あの者、技は見せたと言ったゴブ。我々が使いこなせると思っての判断だろうか?」
「なめたことしやがってゴブゴブ!」
「うれしそうだな?ヤベン、さて再現してみるか?ゴブゴブ」
屈強な戦士が二人、槍を持ってニヤニヤしている。
絵的にちょっと怖いなぁ原因は私だけど。
次回投稿は2022/07/06を予定しています。
サブタイトルは 愛が試されるとき です。




