【第42話】 君たちの名は、思い出の名3
おはようございます。
朝刊です。
私はそのままレイモンお姉さんを抱き、ジャンプして魔獣と距離をとる。
巨大な魔獣ゾンビはその巨躯を霧散させていく。
「お、おい、なにがあった?今のはなんだ、シン!?明季は何をしたのだ?玲門は生きているのか?おい、エノン!」
「うちらに聞かないで」
「ああ、私らでも、あれが何なのか分からないんだ」
「……まさか、OVERKILLじゃないだろうな?勇者や魔王の技だぞ!」
勢い余って、校舎の屋上まで来てしまった。
膝を着く私。
さすがに疲れた。
ずっしりとした重み。
命の重みだ。
……いや軽いですよ、軽いんだけど重いんです!
お姉さんの柔らかい肌とぬくもりが、両腕に伝わる。
震えて私にしがみついている、お姉さん。
「レイモンお姉さん、大丈夫?」
私の声に、はっとして手を放す。
視線が交わる。
「怪我、していないよね?」
こくこく。
お姉さんの眼から、ポロリと一粒、涙が零れる。
「だ、大丈夫?」
再び聞く私。
こくこく。
?
じっと私のお顔を見ている。綺麗な瞳だな。
あ、ほんのり、お化粧している!
まどかみたいだ!
ん?お姉さんの髪に汚れが。
髪に付いている泥を、チョイチョイと指先で落とす私。
学校の屋上は結構高い。
見下ろした世界は沢山の灯が揺らめき、とても綺麗に見えた。
獣人の村とは大違い、夜が明るい。
荒い呼吸が、落ち着いてきた。
レイモンお姉さんの小さなお顔が、直ぐ側にある。
息使いまで分かる距離だ。
「なんで知っているの?」
掠れた声。
「?」
「私の名前、なぜ?おかしいわ?」
おかしくない。
忘れられない名前、思い出の名前だ!
知らないわけ、ないだろう!絶対に忘れない!
あなたの記憶が始まりだった。
故郷の記憶。
あの島を抜け出し、共に戦い、ここまで来たんだよ?
あれだけの旅、なんで覚えていないの?
皆で、ここまで来たんだよ?
恐ろしい魔族や、狡猾な人族と戦い、ここまで!
私の目からも、ポロリと涙が一粒、落ちた。
ん?え?あれ?ここで確認。
「え?違うの?名前?レイモンお姉さん、だよね?」
「はい、私は玲門、エルフの、クレス・ダイナ・玲門」
背後に気配。
「そして私がクレス・ダイナ・美観、助けてくれてありがとう、感謝する。だが、妹を屋上に連れ込むとは許しがたいな」
あ。
お顔、近すぎたかな?
ごめんなさい。
しかし連れ込むとは心外です、私は犯罪者ではありません!
回避と言ってください!
いや、待てよ?今の私は、見知らぬ獣人。
ただの受験生だ。
そっとレイモンお姉さんを腕から降ろす。
……なんか、降ろすの、名残惜しい。
レイモンお姉さんは、ささっとミカンお姉さんの後ろに回る。
ショックである。
凄まじく悲しくなった。
警戒されたか。
仕方あるまい。
二人をじっと見る。
ミカンお姉さんは腕に血の滲んだ包帯、レイモンお姉さんは俯いてこっちを見ない。
こうして、生きて、また逢えた。
今度は吹飛ばすことなく、ちゃんと助けることができた。
でも。
今は、見知らぬ他人だ。
解答用紙や問題用紙に似顔絵描いて、キモいよね?
「なぜ教室に残らなかった?」
「残るわけないでしょう?今のあなた達と同じ、警戒したの」
「!」
「じゃ」
そう言って私は屋上から消えることにした。
「ま、待って!」
?
「何?」
引止めたのは美観さん。
悲痛な声、どうかしたのかな?
「わ、私達、こ、高所恐怖症、た、高いところ苦手なのっ!」
「え?」
美観さん?ここまで登って来てますよ?
「の、登るのはいいの!降りるのが駄目なの!……屋上、その、施錠してあるし」
「壊して階段で降りれば?緊急だし」
「私達、生徒会よ?そんなことできない」
「じゃ私が壊すね」
「やめて!」
美観さんが止める。
ではどうしろと?美観さん?
無視。
ドアに近づき、蹴りを……!
「やめてください、学校を傷つけないで下さい」
ピタリ、と止まる私。
玲門さん、どうしろと?
うう、この玲門エルフさんには逆らえない。
前世が、前世だし。
よろよろと二人に近づく私。
あ、警戒している。
徐に二人を抱きしめる。
「きゃっ」
「……!」
そしてそのままジャンプ、と。
まず、一番高い樹木、次、照明器具、次、校門、はい、大地。
ぺっ、と二人を解放する。
へなへなと座り込む二人。
ああ、もう違うんだ。
私の知っているボンバーズは、もういないんだ。
ボンバーズは高いところ、怖がったりしないし、座り込んだりもしない。
魂は同じかも知れないけど、別人だ。
前世の記憶、邪魔だ……悲しいくらい、邪魔だっ!
私のアホ!比べたら、彼女達が、可哀想だろう!
「クレス・ダイナ家の人達、手荒でごめんなさい。昔の友人達に似ていたので、つい馴れ馴れしく振舞いました、本当にごめんなさい。あなた達とは、もっと良いかたちで出会いたかった。では」
あ、魔力がヤバい。
視界が狭くなってきた。
「明季くん!ここにいたの?うち、探したよ!」
「エノン」
「どうしたの?」
どうしたんだろうね。
こんなに悲しいことはない。
「エノン、腕は、大丈夫?生命属性の技、限界まで使ったよね?」
「それが、痺れて痛いんよ、早く満月、来ないかな」
「そうだね、満月は、みんなを元気にする」
「……どうしたの?明季くん?うち、分かるんよ。疲れすぎている。早く孤児院に行こう?」
「エノン」
「な、なに?」
「膝枕いいかな?」
「え?ここで?」
夜で多少は暗いが、学校正門前である。
うち、恥ずかしいよ、とか言うかしら?
「いいよ、おいで、明季くん」
「!」
カラン、と軽い音を立て、私の背中から外れ落ちる朱槍。
まずい、もう眼がよく見えない。
エノンの張りのある暖かい太腿に頭を預け、私は吸い込まれるように意識を失った。
次回配達は 2023/03/20 朝7時頃の予定です。
サブタイトルは 学校どうする? か、わんわんの冒険 のどちらかです。




