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【第24話】 戦士の心得と槍使い

 私はそっと、お母さんの腕の中から抜け出し、篝火の近くに歩み寄った。


「俺は4年生のナイダイ、お前に挑んでいたそいつは、5年生のヤベンだゴブ」


「わたしも自己紹介したいけど、まだ名前がないの、ごめんなさいゴブゴブ」


「はははっ、面白いヤツだな。謝る必要はないぞゴブ」


「そ、そうなのですかゴブゴブ」


 少し離れてはいるけど、お父さんや、お母さん、起きたりしないかな?


「ゴブゴブ、戦士の結界だ、簡単には破れん。今起きている者以外は、すやすやお休みだゴブ」


「!」


 考えを読まれた!?


「魔力は感情を伝えやすい、覚えておけ」


 お姉さんに貰った記憶は、戦術や武器に関する知識、言葉や衣食住に関しては詳しいが、礼儀作法や儀式作法については殆ど無い。感情の扱いや影響についても殆ど無い。


「小さな子供を、夜中に起すのは感心しないな」


「!」


「ゴブッ、エルフ……」


「あ、エルフさん!今晩は!ゴブゴブ」


「チープな結界だな」


 エルフさんは静かに歩み寄り、私の頭を優しく撫でた。


「やあ、今晩は。小さな戦士よ」


挿絵(By みてみん)


「エルフ、感心しないな、とか言いながら、お前も気になるのであろう?ゴブゴブ」


「……まあ、な。あの魔獣を3匹も倒したとなると、尋常ではない。それも拳だぞ。私の矢でさえ追い払うのが精一杯なのに。明日の交渉で心配事か?」


「ああ、その交渉で、すこし教えておきたいことがあってなゴブ」


「心得か?」


「そうだゴブ」


「戦士の心得についての記憶はあるかい?ゴブゴブ」


「ありませんゴブ」素直に答える私。


「やはりな、俺たちは基本、兵器なのだゴブゴブ、人族に改造されたな」


「作法や風習は殆ど伝承されない。戦闘に無関係だからな。知っているとは思うが、寿命は5年だ。死亡すると魔力に還元し消えて無くなる、まれに魔力の結晶、魔石を残すくらいだゴブ」


 消えて無くなる?

 魔獣と変わらないってことか?


「お前はラグナルを倒した戦士だ。ゴブリンの戦士について、少し話しておいた方がいいと思ってなゴブゴブ」


「戦士の話は、身内ではない戦士が話す、しきたりになっているゴブ」

 

 ヤンベさんが渋い顔で話す。


「おい、なんで俺が、みたいな顔するなよゴブゴブ。相手は超戦士だが、まだ名も無い者、1年未満ゴブ。優しく説明だゴブ」


「ふふっ」

 

 エルフさんが皮肉っぽく笑う。

 私ではなく、エルフさんを睨むヤベンさん。


「わかったよゴブ。まずさっきも言ったが、俺たちは兵器だ、それも実験中に逃げ出した試作兵器の末裔だゴブ。これを忘れてはいけないゴブゴブ」


「何故ゴブ?」


「戦いの中で、気分が高揚し、より好戦的にならなかったかゴブ?」


「!」好戦的になった、かも。


「これは我々の感情ではなく、植え付けられた感情だ。この感情に呑み込まれてはいけない。呑み込まれると暴走し、死に至るぞ。不安定な兵器は自ら自壊するように、プログラムされているからな」


 ヤベンさんが確認するように私を見る。


「2つ目は、今度は逆に感情の起伏が押さえられる時があるゴブ。これもプログラムされた機能だ。戦闘や過酷な生活において、容易にパニックに陥らないよう本人の意思とは別に、支障になる感情や記憶が抑えられるゴブゴブ」


「私のお母さんは感情豊かに見えますがゴブ?」


 私は質問をしてみた。


「リュートやニトは後方支援タイプだゴブ」


 後方支援?直接の戦闘はしないタイプ?苦手?


「彼らの感情の起伏は、潜在士気に働きかけるので、感情豊かに見えるのだゴブ。こうなるとどれが本当の自分の感情か分からなくなる。それでも、それを自分として捉え行動するゴブ、これが3つ目だゴブゴブ」


 分かったか?と目で合図するヤベンさん。


「な、なんとなく分かったゴブ」


「4つ目は、それぞれ個体差があるということだゴブ」


「ゴブ、個体差?それぞれ違うゴブ?」


「その通り、実験内容によって成長速度や能力の強弱、有無があるのだゴブ。5年生でも魔法が使えない者もいるし、お前のように魔獣を倒す者もいる。そして5つ目は敵でも味方でも、弱いからといって侮ってはいけないし強いからといって恐れてもいけない」


 油断するなってことかしら?


「そして最後、これが重要だ。我々は致命傷や重い病気になると、機密保持のため強制的に魔力に分解されることがある。以上だゴブ」


 機密保持のため?使い捨ての消耗品扱いじゃない!酷い!


 それを素直に受け入れろと!?


「おいヤベン、以上だゴブ、はないだろうゴブ?俺たちのこと、特にお前のことは話したほうがいいゴブ」


「……」


 あれ?

 ヤベンさん、話にくいことかしら?


「では俺から話そうゴブ。俺とヤベンの先祖は、研究所から脱出する時、おばばさまのガードをしていたゴブ。俺たちは代々おばばさまのガードなんだゴブゴブ」


「ゴブゴブ」こくこく。


「エルフに解放された、他のゴブリン達は逃げたが、俺たちの先祖は施設に残って、おばばさまとドワーフや他の妖精達を解放して回ったゴブ。そこで魔獣、最初の魔獣ラグナルと出会ったゴブ。襲ってくる同胞、あらゆる攻撃を受け付けない魔獣、脱出は非常に困難だったゴブ」


「戦いの記憶があるゴブ」


 場所も経過も分からないが、同族と戦っている記憶がある。

 凄惨としかいいようがない記憶だ。


「そうかゴブ、我々はその時から、代々武闘派の血脈を強化して、ゴブリン最強を目指してきたのさ。魔獣を倒すのは我々の悲願であり、目標の一つだったゴブ」

 

 うわ、それを私がやっちゃったのね。

 

 あ、ヤベンさん震えだした。目が怖いかも。


「そ、そ、それを貴様がクリアーしただとォ!?ゴブゴブゴブゴブ!!薬師と機織りの息子が、なんで倒せるのだっゴブーッ!それも拳でっ!」


 し、知りませんよ。それに今更、そんな事情、言われたって。

次回投稿は2022/07/02を予定しています。

タイトルは 技の伝承 です。

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