【第36話】 止まらない筆
おはようございます。
朝刊です。
紙が捲れる音が、一斉に響く。
そして、段々と聞こえ出す筆記用具の音。
カツカツ、カリカリ。
みんな、すごいなぁ。
勉強、したんだろうなぁ。
取敢えず名前を……場所、どこだ?
おそらく、この欄だろう。
シュート家・明季、と。
カツカツ。
借りた、この鉛筆もどきは、もう終了。
筆記試験が、名前だけでありますようにと、お祈りしたが、無理であったか。
そりゃそうだ。名前だけの試験、聞いたことがない。名前だけの解答用紙は、よくあると思うが……え?ない?少なくとも、ここに一枚ありますよ。
ふっ、と不思議な雰囲気が近づく。
あれ?なんだろう?さっきから?
魔力感知は使用していない。なのに、何かが触れてくる。
試験官のエルフさん二人。
ゆっくりと教室を徘徊している。
不正の取り締まりだ。
お顔が、よく見えないな。
……どうでもいいか。
問題用紙を見てみる。
……何回見ても、まったく分からん文字の羅列。
解答用紙を見てみる。
空欄を埋めることができない。
溜息も出ない。
私は、何をしているのだろう?
この学校に、通学したくなったのだろうか?
あれだけ嫌だった学校。
ワームや、ドラゴンとの戦いが過ぎる。
ニトお父さん、リュートお母さん。
ホッシーやドロトン君。
あ、ドロトン君、ン・キングに紹介していないぞ。
……いや、必要ないかな。
あの二人は、引き合う気がする。
あの五人、チリ、どうなったのだろう?
簡易転生した女の子は?
あの怪我したワームは無事だろうか?
コロ叔父さんがまとめたとは思うけど、どうだろうか。
王都を目指せと、色々な人が私に告げた。
来たよ、王都。
そしてこの王都には、彼女がいる。
逢いたいよ!メイドン。
メイドンまであと少しだ。
ふと、視線が泳いで、私の独眼は、妙齢・女性・試験官の横顔を捉える。
……ん?
ドキッ。
……あれ?
ドキドキッ。
……何かが動いた。思い出だろうか?感情だろうか?
心拍数が、ピョンピョンとジャンプし始める。
その横顔は、とても印象的だ。ガッチリ、と意思を鷲掴みにされた。
忘れてはいけない、何かだ。
誰かが震えている。
シルバーっち?
私かな?ゴルちゃん?
そこを、もう一人の女性エルフさんが横切る。
え?
あ、このエルフさん達、双子だ!
無意識に、問題用紙を裏返した。
他の人はどう見るだろうか?この二人。
私は、目が、離せない。
衝動が起きた。
この気持ちに逆らえない!
このエルフさん達の時間を止めたかった。
何かに刻みたかった。残したかった。
それ程、この二人は私に衝撃を与えた。
震える手で、描き出す。
もう描かないと決めた絵。
あっさりと、心がひっくり返った。
線が、一つ極まる。
すると、もう止まらない!
次々に生きた線が私の手から生まれる。
私は時間も、何もかも忘れて、双子のエルフさんの似顔絵を、解答用紙と問題用紙の裏に描いた。
もう描くことは無いと思ったのに、この二人は、私に絵を描かせた。
この二人のエルフさん、誰だ?
涙が、流れそうになるほど、懐かしさを覚える!
筆が止まらない!
取敢えず、描き終えた解答用紙は表向きにして、と。
問題用紙に描いた、二人目のエルフさんの似顔絵を仕上げにかかる。
「やめ!」
え?まだ描き終えていない……。
「はい、そこまで、試験終了!筆を置いてください!終了です!」
「こら!そこ!さっさと筆、置きなっ!」
嫌だ。まだ完成していない!
私は満足していない!
射るような周囲の視線。
知るか!
「試験はここまでだ、シュート家のアケイくん?か?」
いつの間にか、横に立っている老エルフ。
ん?
アケイ?くん?
うげ!?綴り、また間違えた!?
ち、ちゃんと書いたよ!
なんでアケイ?
「問題用紙、解答用紙はそのまま、もう手を触れるな、いいな?」
「手を触れてはいけません、そのまま退室して下さい!」
停止する私。
周囲の声が聞こえてくる。
簡単だったね?
そうね、基本問題ね。
問3、どうだった?
……溜息一つ。
筆入れ返して、帰るとするか。
シンお姉ちゃん、どうだったろうか?
まあ、お姉ちゃんのことだ、多分、合格だろう。
「連絡事項がある、シュート家・明季、残るように、後は、解散。以上で入学試験は終り、終了だ」
え?私、居残り?なんで?
もう、早く帰りたいのに……。
外はもう夕刻だ。
陽は傾き、空は、鮮やかな夕焼けを作り始めている。
居残りとは?
思い当たること?何かあったかしら?
……ありすぎる。
どれだ?
次回配達は 2023/03/16 朝7時頃の予定です。
サブタイトルは お腹すいた です。




