【第35話】 筆記試験、始まる
号外です。
「あ、改めてお礼にきます!」
アナウンスが聞こえてくる。
「合格者は試験官の指示に従い、各教室に入ってくだい。繰り返します!合格者は……」
「明季くん、急ごう!」
エノンに手を引かれ保健室をでる。
え?校庭にはもう、誰もいない?
さて困った。シンお姉ちゃん、どこだ?
試験官の指示とは言うが、どの教室だ?矢印は分かるが、何だ?この文字?
「こっちだ」
ニトお父さんが声を掛ける。
そこは、保健室とは別棟の教室だった。
校舎内は人で溢れて、ん?合格者、多いな。それとも運動場に比べて、狭い校舎内で見るから多く見えるのかしら?
「じゃ、ニトお……ニトさん、エノン、頑張ってくるね!」
「うち、校庭で待っているね!」
慌てるなよ、綴り、間違えるなよ、と小声でニトお父さん。
……ここまで頑張って、皆に応援してもらって、解答用紙は名前だけ?
悔しくて、悲しくて、本気の涙が出そうになった。
教室はまだ着席者は少なく、雑然としていた。
試験官もいない?
教室は分かったけど、シンお姉ちゃんは……いない?
探すか、シンお姉ちゃん、まだ時間あるみたいだし。
意識をシンお姉ちゃんに集中する。
こっちだ。
匂いと、声がする。
私が動くと、その方向に道ができる。
みんな避けてくれる?
怖がられているだけ、かな?
あ、見つけた、シンお姉ちゃん。
!
横にいるのは、アランお兄ちゃん?
「試験が終わったら、孤児院に来てくれってさ。場所は知っているよな?」
「ああ、知っている」
「どうだった?実技」
「明季が怪我をして、エノンがキレた」
「なんだよそれ?シン姉、シン姉が付いていながら怪我させたのか?」
「そう言うな、守ってやりたかったんだが」
「その明季の相手、満月の夜は注意した方がいいかもな」
なんか物騒なお話しているなぁ。
「なに、お話ししているの?」
「お?明季か、今後の話さ、怪我はいいのか?」
「うん、アランお兄ちゃんの怪我は、もういいの?」
「俺の心配は無用さ、筆記試験、頑張れよ」
皆の頑張れが、痛い。
試験官の声が聞こえてきた。
受験生、入室!繰り返す、受験生!入室!
「シンお姉ちゃん、それでリンドウ、どうなったの?」
「詳細は後で話す。試験が終わったら、孤児院へ行くぞ」
「はい、これ」
「なんだ?」
「筆記用具」
「おっ!さすが明季、試験管に借りるつもりでいたけど、用意したのか?」
「保健室で借りたの。だから大事に使ってね。どっちがいい?シンお姉ちゃん」
シンお姉ちゃんだから、木箱かな?
「ピンクをよこせ、そっちがいい」
え?予想外れた。
「はいどうぞ」
「だから、ピンクよこせ!」
「ええっ、イヤだ!私もピンクがいいっ!」
「あ、妹のくせに生意気だぞ!そっちよこせ!どうせお前、名前だけだろ!お姉サマの合格祈って、
ピンクよこせ!」
「あああっ!ひ、酷い!酷い!ひどいっ!それ言う?ここで言う!?シンお姉ちゃん酷い!」
「酷くても事実だ!ほれピンク!」
「え~っ!い、い、や、だぁ~!」
「お前ら、仲いいな?イチャイチャしないで、はやく教室行けよ、二人とも」
「「イチャイチャしてないっ!」」
結局ピンクの筆入れは取られた。
うう、最終的には譲ってしまう。
前世からの因縁か?エルフさんには逆らえないのかな?
「えっと、明季の席は?あ、あそこだ。机に名前が張ってある。確認しろよ」
「分かった」
「私は別の部屋みたいだ、終わったら校庭な。それからこの筆入れ、返しに行こうぜ」
「……うん」
正面の黒板にも書いてある、席順と名前。
……あれ?名前が書いてある?そこまで必死に覚える必要、あったかな?
あ、なんか落ち込んできた。
筆記試験、書けるのは名前だけ。それも黒板、見ながら書けば、問題なし?
更に、今までの実技試験を振り返ってみる。
歌って、蹴られた?
あれ?……試験、落ちたかな、これは?
今の時点で私、ただのトラブルメーカーではないか?
加えて筆記試験、白紙確定。
ここまで支えてくれた、皆の応援は、どこへ?
うう、悔しすぎて、怒りでゾアントロピー起しそうだ!
何もできないなんて!
私の席は、窓側の一番後ろ。
私で最後みたいだ。皆の視線が私を捕らえる。
ヒソヒソ声も聞こえるが、聞かないことにする。
静かになる教室。
私が座ると、席は皆、埋まったようだ。
ドアがカラカラと開き、三人のエルフが入ってくる。
高齢の男性一人、妙齢の女性二人。
手には大量の紙、問題用紙と解答用紙だろう。
……ん?なつかし匂い?いや違うな、なんだこの雰囲気?不思議な感覚だ。
このクラス、30名程か?一枚一枚、丁寧に配布される問題用紙、と解答用紙。
教壇に立った高齢男性の説明が始まる。
終了時間は教卓に乗っている巨大砂時計が終わるまで、退室は自由。
なんとカンニングも条件付きで、いいそうだ。
その条件は、試験官に三人にバレなければOK。
ただし、バレたれ即不合格、だそうだ。
カンニングも、才能として認めているらしい。
おもしろい考えだな。
静かな教室にプリントは行き渡り、みんな動かない、固まっているよう。
「発表は明後日の午後、校舎に名前が張り出される。受付で返事、入学しますと言えば、その場で入学が決定する。詳細はその時受付で聞いてくれ」
受験者も試験官も、真剣な眼差しだ。
「では、試験を始める」
大きな砂時計がぐるり、と回る。
世界が、一斉に動き出す。
次回配達は 2023/03/15 朝7時頃の予定です。
サブタイトルは 止まらない筆 です。




