【第34話】 責任は?
おはようございます。
朝刊です。
流血の試験。
組み手ならば、多少は仕方ないと思ったけど、この人、故意だよね。
「避けれなかったのは、私の油断、ミスよ」
この場を納めないと。他の受験生に迷惑が。
それに、エノン!これはやり過ぎだよ。
「うち、そっちの審判も気に入らない。グルだよね?」
そうだろうけど!
確かに、二人の審判の内一人は、ジャッジも何も、していない!
「王都の学校って、この程度?明季、うちの孤児院においで、ここはクズだ」
いや、だから、ニトお父さんもリュートお母さんも、ホッシーもここの生徒なんだって!
あの美味しいご飯のティーくんも!コツコツ頑張っているドロトン君も!
悪意の人ばかりじゃないんだよ?
「リンドウ、お前の一蹴りで、学校の名誉は地に落ちたぞ?たった一人の愚行で」
「あ、当たっただけだっ!は、はやく槍を抜けよっ!保健室、連れて行けよ!」
まだ言い張る。
ここにいる人達は、それなりの人達。
言い訳は通じないよ?
「元気いいな?リンドウ、お前、槍抜いたらソッコーで逃げるだろ」
「うっ、ニト、きさま……」
え?そうなの?
元気、いいなぁ、とは思ったけど……。
更に、ニトお父さんの厳しい言葉が続く。
「明季くんへの謝罪の言葉は?お前の回復力は知っている。シンさん、こいつ、このままでも問題なしですよ。さあ行こう、明季くん」
周囲の目と声。
「先生、明季くんを保健室に連れて行きます」
……ニトお父さんの言葉にほっとしたのか、保健室という言葉に安心したのか、急に脚の力が抜けた。
やばっ、テーピングの効力、切れた?
痛みが……。
私はニトさんに肩を預け、保健室に向う。
「うちも行く」
「後は任せろ、明季」
ええ?任せて大丈夫?シンお姉ちゃん?
シンお姉ちゃん、殺気だけで、人が斬れそうだよ?
建物に入っても、声が聞こえる。
「お前を信用して使った私達、試験管理課にも問題があるか……お前を退学処分にしても、名誉は回復しない」
「それで、どうするのだ?責任は?お前達の名誉など意味が無い、こいつを選んだ者、止めきれない審判……そうだな、お前達は金貨集めがすきだったな」
金貨?
もしかして、お金、要求するの!?
「……」
あ、もう聞こえない。
保健室には元気な女の先生がいた……忙しそう?
「組み手で当たったの?だから言ったのに!横で待機しているって!なにが安全よ!これ、学校側の慢心よ!組み手するのに、保険医なしなんて!」
青い髪のスレンダーさん。
赤い縁の眼鏡がとても似合っている。
10くらいあるベッドには、結構な人数が寝ている。
深手の人も多い?
え?この学校の保健室、野戦病院なみ?
「エノン、後ろで待機」
「なんで?ニト?うち、明季くんが心配だよ!」
「傷口見たら、リンドウのヤツ、死亡確定だ。だからエノンは見るな!」
「「そ、そんなに酷いの?」」
綺麗にエノンとハモった。
「傷、残ります?それと、鼻、元に戻りますか?」
鼻の軟骨は直ぐに曲がるのだ。
心配で聞いてみた。
気を抜いたのが間違いだったな。
受験は真剣勝負、それは前前世も今生も変らないか?
「大丈夫よ、ニト、痛み止めを、それと身代わりの魔石を」
「え?先生、アレ使うの?」
「使うわよ!女の子の顔に蹴り?それも止めの後?この子、まだ生徒じゃないんでしょう?それに体細胞が赤ちゃんよ?」
「え?ここに身代わりの魔石あるの?」
エノンがビックリして聞く。
「?」
なんだそれ?
「あのね、明季くん、身代わりの魔石は、怪我をした時、代わりに割れて、助けてくれるんよ。とても高価で珍しい魔石なんよ」
「死に至る重傷者でも、助かる可能性があるんだ。魂魄、どちらかの力が一定以上で、魔石が割れれば、必ず助かる」
え?凄い魔石!死を回避する!?
「ただ、この魔石、人によっては割れない、微妙な魔石なんだ」
そ、それでも、使い所ここでいいの?
「その魔石、どのくらい数があるのですか?」
「今、世界で確認されているのは、7つかな?うち、3つがここにある」
「そ、そんな貴重な魔石、使い所、間違っていますよ!」
「え?今こそ使う時よ。それにこんな石とか、珍しい生き物とか沢山、管理しきれないくらい集まるのよ、ここ学校だし。さあこれよ、握って!」
管理しきれないくらい沢山?学校とは?ここ研究施設に近い?
握らされた魔石は小さく、綺麗な緑色だ。
え?と思った瞬間、魔石は何もしていないのに、パチッ、と軽い音を立て割れた。
「お、割れた」
!
お顔と、脚が?あ、熱い?
「え?これ?」
凄い魔力に一瞬包まれる。
誰かが、暖かい優しい手で触ったみたいだ!
もう痛くない?脚も?一瞬?
あ、でも右目は再生しないか。
「割れたわね?記録記録と、どう?もう痛くないでしょう?痛い?」
「いや、もう平気です」
「目は?」
ニトお父さんが聞いてくる。
「目は、見えません。あ、あの、ありがとうございました!こんな貴重な魔石を使って」
「いえ、こちらこそ、ごめんなさいね、せっかく、ここの学校選んでくれたのに、酷い目に合わせて。ニトくん、彼女を試験場までいいかしら?時期、筆記試験よ」
あ、忘れていた。
そう、筆記試験!
「あ、あの!」
「なに?まだ何処か痛いの?」
「……筆記用具、あります?二人分」
「え?」
「その、王都で購入する予定だったんですけど……」
保健の先生は、はい、どうぞ、と笑顔で、可愛いピンクの布の筆箱を一つ貸してくれた。
横に寝ていた生徒さんも、俺の使えよ、未来の後輩くん、といって、こちらは木製の筆箱を貸してくれた。
「ありがとうございます!」
少しだけ、この学校が好きになった。
次回配達は 2023/03/15 朝7時頃の予定です。
サブタイトルは 筆記試験始まる です。




